大きくなった問題に対処するより事前に避けたり予防する方が簡単
あなたは普段、やっかいな問題や危険に好き好んで近づいていくタイプですか?
まぁ、こう聞けば普通は出来る限り危険や厄介ごとには近づこうとは思わない、と答えるのではないかと思います。
もちろんあなたは実際にそうしているでしょうし、そのおかげで何度も何度も起きるはずだったトラブルや不幸を避けてきたはずです。
例えば、日常生活で不意に言われた失礼な言動に対して、あなたは理性の力でぐっとこらえて言わなくてもいいことを言わずに済ませていることでしょう。
またある時は見ず知らずの人に肩をぶつけられたり、満員電車で足を踏まれたり、車の運転中に無謀な割り込みをされたりと、ありとあらゆる不快に対して理性の力を使って何を言わず、ぐっとその不快を飲み込んできたことでしょう。
本当に本当に、それはとても素晴らしいことです。
私はあなたのそのトラブルを起こさずに回避する能力をとても高く評価します。
あなたはおそらく、ほとんどそのことについて誰にも褒められたことはなかったでしょうし、これからもよっぽどのことがなければ危険を回避したからと人から賞賛されることはないでしょう。
だから、私があなたのその問題を事前に避ける賢明さを賞賛します。本当にあなたは素晴らしい。尊敬に値します。
人の目に見えないあなたのその行動は非常に賢明で、本来はもっともっと人から賞賛されていいことです。
ただ、本当に残念なことに、賢明さという素晴らしい能力は人の目に見えにくいものなんです。
本当の賢明さは目に見えない
例えばここに2人のヘリのパイロットがいたとしましょう。
1人はジョンといい、飛行前の点検を徹底し、どんな小さな異常も見逃ず、彼のヘリはいつも整備が行き届いた上、実際の操縦も安全運航が第一でした。
一方、もう1人のパイロットはマイクといい、点検や整備や安全運航についてはジョンほど慎重ではありませんが、危険に対しての対応が非常に勇敢で的確なことで知られていました。
ある日、ジョンはいつも通りヘリコプターを念入りに点検した結果、彼にしか気づけないようなローターの微細な異常を発見し、出発前に修理を行いました。
その結果、フライトはいつも通り無事に完了し、乗客たちは安全に目的地に到着しました。
しかし、ジョンの慎重な行動は目立たず、当たり前ですが乗客たちはその事実に一切気づきませんでした。
同じ日、マイクの乗務するヘリコプターは、飛行中に突如ローターの故障に見舞われました。それに対してマイクは冷静に対処し、見事に緊急着陸を成功させました。
この勇敢で適切な行動は大きく報道され、マイクは英雄として称賛されました。
その後、マイクは一躍時の人となり、彼の収入も名声も以前よりはるかに上がったのでした。めでたしめでたし。
さあ、この話の教訓は何でしょうか。
マイクの冷静で的確な対処はもちろん素晴らしいものです。
ですが、ジョンのように問題が起きる前に対処したり、トラブルを事前に避けることはもっと素晴らしいものです。
ただ、目に見えない。気づくことができない。
賢明さは問題が起きる前や小さいうちに叩き潰すので目に見えず、問題が大きくなってからそれに対処する勇敢さばかりが賞賛されるのです。
そして、あなたがジャーナリストなら、この2人の裏事情を知っている前提でどちらを報道しますか?
もちろん勇敢なマイクの方ですよね。
いつも安全確実では物語にならないのです。
では、あなたがヘリに乗らなければいけないとして、乗りたいヘリは賢明なジョンと勇敢なマイクのどっちですか?
もちろん賢明なジョンのヘリコプターですよね。
今回の話だけ見ると結果としてマイクは賞賛と収入アップで得をしましたが、別のときにはマイクのヘリが墜落する可能性もジョンより高いわけです。
時として勇敢さが不幸を招くこともあり得ます。
賢明さとはトラブルの予防、回避、問題の芽を根ごと絶やしておくこと
本当に賢明で賞賛されるべきことはあらゆる問題に対し、予防措置をとること、危険を避けることです。そしてそれは、あらゆる場面で起きているにも関わらず、目に見えない。
では、これをどう捉えるか。
ストア哲学では自分にコントロールできるのは自分の意志だけです。
未来に何が起きるかは自分のコントロール外のことですが、将来起きうる問題の芽を潰す予防措置やトラブルを避けること、起きた問題には冷静に対処し、その結果を心穏やかに受け入れることは自分がコントロールできることです。
例えば健康管理のために定期的に健康診断を受けることや運動、食事、睡眠の良い習慣を身につけることも予防措置です。
また、お金についても、予測も予想もつかないトラブルや必ず必要になるお金について、普段から倹約して貯金しておく習慣を身につけるのも予防措置です。
災害大国日本では、特に普段の防災の備えはとても大切な予防措置です。
さきほどの例え話のように、機械のトラブルに対して事前に発見して対処するのもそうですし、失礼な相手に無駄に言い返さないことも予防措置であり、危険回避です。
そして、ストア哲学を学んで心の平静を手にいれる努力も、実際に問題やトラブルが起きたときの予防措置になりえます。
ありとあらゆる危険、障害、問題に対してきちんと日頃から備え、避け、問題の芽を根っこから潰していく姿勢は最も賢明なことでありながら目に見えず、賞賛されることがありません。
現実にそうであっても、他人からの賞賛という自分のコントロールできないことに振り回されず、あなたはこれからも賢明であってください。
実際、賢明でなかったときのことも記憶にあるのではないでしょうか。
言わなくても良いことを言ってトラブルを起こしてしまった時は、深く反省することの方が多かったのではないでしょうか?
私もそうです。未熟なばかりに言わなくて良いことを人に言い、しなくて良いことをしてしまい、後で猛烈な後悔に襲われたものです。
漫画やアニメ、映画やドラマの主人公が勇敢で、悪人を懲らしめたり、ズバズバとモノを言うことがあったとしても、決して真似しないでください。
そういったものは、そうでければ売れないからです。
とにかく主人公達にトラブルが起き、それを暴力などなんらかの手段で解決することでしか物語は魅力的なものにならないんです。残念ながら。
私たちが生きる現実世界では、危険には近づかない、避ける、トラブルは防止する、問題の芽は早いうちに摘んでおくことが何よりも大切です。
心の平穏のために、問題からも危険からも出来る限り距離をおきましょう。
それこそが本当の賢明さというものでしょう。
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