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#創作百合

【わたしのお肉、食べる?】ここは薄昏いから【百合新刊試し読み】

【わたしのお肉、食べる?】ここは薄昏いから【百合新刊試し読み】

 〝正しい〟は、いつも私を安心させてくれる。
 背筋を伸ばして座ること。宿題はきちんとやってくること。約束を守ること。困っている人がいたら、手を差し伸べること。そういった教えに従っていると、私は〝いい子〟なんだと思えて安心できる。価値があるんだって、自分を認めることができる。あの人とは違って、私は間違ったことはしない。お母さんに心配をかけたくないから。

「ほら、食べなよ」

 だから、私は今こう

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【Web再録】ふたりパラレル

【Web再録】ふたりパラレル

 なるべく死なないように生きてきた。

 朝目覚めて、歯をみがいて、顔を洗って、化粧して、死なない程度にパンを胃に詰め込み、牛乳で流し込む。わたしの意志ではないので、ごく機械的なルーティーンだ。外に出ても恥ずかしくない程度の無難な洋服に袖を通し、誰も居ない部屋の中にいってきますを置いて出ていく。目を開けていなくても足さえ動けばきっと迷いなくたどり着ける程度に通いなれた道を歩き、喧騒の中電車に詰め込

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【新刊ためしよみ】しゃーでんふろりで【悪魔ロリと死にかけ作家の百合】

【新刊ためしよみ】しゃーでんふろりで【悪魔ロリと死にかけ作家の百合】

 いちばんやさしい地獄にいこうね。
 私が小指を差し出すと、天使みたいな顔した少女が、悪魔みたいに微笑んだ。

 少女が私の元へやってきたのは、死のにおいがしたかららしい。
 「それって、クサいってこと?」と尋ねると、「そういうことじゃないんですよね」とぴしゃりと跳ね返された。

「死が近づいた人間からは、熟れた果実のような香りがしますから」

 ソーダ味のアイスキャンディーを小さな舌でチロチロと

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Sweetie

Sweetie

 ru♡が写真を送付しました。
 ワンテンポ遅れて、「いまおきた」のメッセージ。
 チャットアプリのポップアップ通知が立て続けに2件届いたのを見て、もうそんな時間か、と画面右上の現在時刻を確認する。「おそよう」と返信すると、瞬く間に既読が付いて、照れ笑いするうさぎのスタンプが送られてくる。「きょう」「19じ」「に」「しんじゅく」「ひがしぐち」「でいいですか」という文章を漢字に変換している間に、「ま

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