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「片づけ」を教えてくれたひと

幼い頃の私は「片づける」ということがどういうことなのか、分かりませんでした。だから、母から「少しは片づけなさい!」などと叱られても、ほんとのところ、何を言われているのか分からなかったのだろうと思います。

ただ、よく小言を言われていたお陰で小学校の高学年くらいになったころから、図書館で借りてきた「素敵なお部屋に模様替えをする」ことがコンセプトのかわいいイラスト入りの本を見ながら、自分の部屋をなんとか片づけてきれいにかわいくしたいと、試行錯誤していました。

しかし、持っているものの位置をどんなに変えても、整理整頓したつもりになっても、なかなか自分の理想とする「素敵なお部屋」は現れて来なかったのです。いつも一度きれいになったかと思うと、また散らかってというようなことを繰り返していました。

そんなふうに、いつも片づかなくて素敵なお部屋に住めない悲しみを抱えたまま大人になったある日、書店で運命と言えるような出会いがありました。辰巳渚さんと言う方が書いた「『捨てる!』生活」という本を見つけたのでした。

この本は当時の私にとっては衝撃でした。「要らないものや使っていないものは捨てる」という当たり前のことを、それまでは知らなかったからです。もちろん毎日の生活で出る塵は捨てていましたけれど、余分に買ってしまったものや買ったものの使わないものを捨てるということは、なんだかいけないことのような気がしていたのでしていなかったのですね。まだ「断捨離」も「コンマリ」も、もちろん「ミニマリスト」も存在していなかった時代でしたし。

それからの私は、辰巳さんの本を参考に余計なものをどんどん処分するようになりました。そうしたら、やっと「片づける」ということがどんなことか、なんとなく分かり始めたのです。

ものを処分するときには、それまで生きてきた自分やこれから生きていく自分とも、嫌でも向き合わなくてはならないのですが、内向的な私には、この作業はとても楽しくて向いていることだとも思いました。

「片づけ」は過去への未練や執着を断ち切り、未来への不安を放り投げるのに、とても役に立つ作業です。今でも、時々この本を引っ張り出しては、またいつの間にか溜まったたくさんのものを手放しています。そうすると、心の澱も一緒に無くなっていくようで、清々しい気分になります。

この文章を書くために辰巳渚さんの本の検索をしたところ、辰巳さんが2018年にお亡くなりになっていたことを知りました。ご冥福をお祈りするとともに、私に「片づけ」を教えてくれたことに、心からの感謝を送りたいと思います。

静寂のセラピースペースTherapy Space STILLNESS


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