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【Steve* クリエイティブ酒場】 第2回(前編)忘れたくないのは、「これが売れないとほんとにやばい!」という感覚

日本のどこかにお酒を酌み交わしながら、腹を割って語り合える一夜限りの酒場がある――。その名も「Steve* クリエイティブ酒場」。ブランディングや商品開発を企業と一体となり行うクリエイティブカンパニー、Steve* inc.の代表取締役社長で唎酒師でもある太田伸志が、今語り合いたいクライアントをおもてなしする特別な席。

第2回目のお客様は、ソニー・クリエイティブプロダクツの伊藤弘康さん。これまでご一緒してきた数々のプロジェクトを振り返りながら、クリエイティブにたずさわる立場としての心構えや覚悟などを、日本酒を片手にゆるりと語り合いました。その様子を2回にわたってお送りします。

 プロフィール

今回のお客様

ソニー・クリエイティブプロダクツ
IP営業本部メディア営業部 次長 兼IPマーケティング本部マーケティング1部 チーフプロデューサー
伊藤弘康(いとう ひろやす)

大学卒業後、1999年にソニー・ミュージックコミュニケーションズ(現ソニー・ミュージックソリューションズ ※以下SMC)に入社。企画開発などに携わったのち、2015年にソニー・ミュージックエンタテインメント(※以下SME)のエデュケーション事業部に異動。KIDSTONEのプロデューサなどを経て、2019年からソニー・クリエイティブプロダクツ(以下SCP)にてキャラクターライセンス事業や新規事業に携わる


オーナー

太田 伸志(おおた しんじ) 

株式会社スティーブアスタリスク 代表取締役社長。宮城県出身。クリエイティブディレクターとして、広告企画や商品開発を多数手がけると同時に、大好きな地元、東北を中心にした地域ブランディングにも積極的に取り組む。また、武蔵野美術大学や東北学院大学の講師も歴任するなど、大学や研究機関との連携にも力を入れている。作家、唎酒師としても活動。『アニメ 大福くん』脚本執筆、Pen Online『日本酒男子のルール』連載、七十七銀行FLAG『大学で教えてくれないことは東北の居酒屋が答えをくれる』連載など。


■予定調和を超えるアウトプットを


 (左:太田伸志、右:伊藤弘康さん)

太田:ご無沙汰しています。今日はお越しいただきありがとうございます。

伊藤:いえいえ、こちらこそご招待いただきありがとうございます! こうしてご一緒するの、久しぶりですね。

太田:本当ですね。伊藤さんには10年以上前から親しくしていただいて。僕にとっては昔からクリエイティブについて思ったことを率直に話せる、貴重な先輩です。

伊藤:こちらも太田さんとは、映画のプロモーションや子ども向けのガジェット開発なんかも含めて、色々な企画をご一緒してきました。僕は会社間で頻繁に異動があるソニーミュージックのグループ会社にいるので、担当するプロジェクトの種類もかなりバラバラで。

太田:会社が変わるごとに、業界や業態もかなり違ったプロジェクトを手がけられていますよね。

伊藤:そうそう。今いる会社はグループ間異動の3社目で、最初はSMCでお客さんの課題解決を支援するサービスの開発にたずさわるような、裏方仕事を多くやっていました。その次はSMEに異動して、エデュケーション事業部という新しい部署の立ち上げに参画して。そして今いるのがSCPで、キャラクターのライセンス事業や新規事業開発なんかもしている。

太田:すごいですね(笑)。だからこそ、伊藤さんとお会いする時は「次はどんなお話が聞けるのかな?」っていつもワクワクします。

伊藤:太田さんには「これを作って」と特定のものについて相談するのではなくて、プロジェクトの全体像から相談することが多いですよね。何か課題があったとして、その解決策がウェブサイトなのかもしれないし、グラフィックかもしれないけど、僕にはよく分からないという段階から。たぶんサイトなのかなあと思って相談しても、「サイト制作はやめた方がいいですよ」というコメントもちゃんと言ってくれる。課題に対する答えを豊富にもっているから、そのなかから最適な解を提案してくれるんです。

太田:ありがとうございます。伊藤さんにそう言ってもらえるのは特別に嬉しいかも。というのも僕、ソニーコンプレックスのようなものがあるんですよね(笑)。

伊藤:え、どういうこと(笑)?

太田:僕、ソニーファンだった父親の影響で小さい頃からソニーが大好きになってしまって。でも就活で落ちてしまったこともあって、心のどこかでずっと「ソニーの期待に応えたい」と思っているんですよね。伊藤さんとキャラクターの「大福くん」のサイト制作をご一緒した時も、そんなことを考えていました。 

主人公の大福くん ©️SME/SIE

伊藤:そうだったんですか。そうそう、大福くんはうちのキッズ向けブランドのキャラクターで、太田さんにはWEBサイト制作をお願いして、その後は大福くんのアニメの脚本執筆も依頼しました。太田さんはコピーライターをされていたし文章力もあるのは知っていたから、15分ほどのアニメ「しょっぱい夏休み」の脚本を書いていただいた。

太田:僕ドラマが好きなので、個人的にずっと脚本を書きたかったんです。一時期はシナリオライターの講座に通っていたこともあるくらい。「しょっぱい夏休み」は「本当に大切な想い出とは」というテーマで、最先端ばかり追い求めてしまう現代の子どもに疑問を投げかけるという、キッズ向けアニメにはあまりないテーマで書かせていただきましたが(笑)、こういうメッセージ大事だよね!って採用してくれて。嬉しかったです。 伊藤さんからのご相談は、不思議と僕のやりたいことに全部つながっているんですよね。

大福くん「しょっぱい夏休み」©️SME/SIE

 伊藤:講座にまで通っていたんだ! 太田さんって色んなものに貪欲だよね。でも、貪欲には見えないから僕にとってはそこが不思議。

太田:多くの人数の価値観をまとめていくクリエイティブディレクションという仕事も、たった一人の脳内で孤独にストーリーを組み上げる作家活動も、僕にとっては両方大切です。クリエイティブディレクションでは世の中に求められることを丁寧に紡いでいく感覚なのですが、作家活動に関しては自分の個人的に考えていることを世に問いかけてみる感覚なので、まったく違う刺激があります。

伊藤:そうやって色々なことをされているからこそかもしれないけど、太田さんにクリエイティブを頼む時って、どういうアウトプットが出てくるのかがいい意味で想像できないから、すごく楽しみなんですよね。

太田:Steve* inc.としても、まさにそんなアウトプットを目指しているので、その言葉は心に沁みますね。

伊藤:恐らく王道の考え方としては、脚本を書くなら脚本家に頼む、シナリオを書くならシナリオライターに頼むとなりますよね。シナリオを作る時に自分が持っていきたい方向性があれば、大枠を伝えて書いてもらうこともできる。でも僕はクリエイティブにはクリエイターの個性を反映させるべきだと思っていて。予定調和をどれだけ超えられるかってところに、挑戦のしがいがあると思うんですよね。

太田:いつも期待してもらえて嬉しいです。「こんな感じかな」という予定調和は全部超えていきたいです。

 

■飲み会のネタが、企画会議のヒントに


太田:大福くんの話がちょっとでましたが、今日は日本酒に合うおつまみとして「弁才天の大福」を用意しています。この企画では毎回、ゲストの方に合わせて、僕がおつまみと日本酒を選んでいるんです。

伊藤:大福と日本酒ってすごい組み合わせだねえ〜! あっ、この大福知ってる! 果物がすごいやつだ!

太田:食べたことあります?

伊藤:いや、ないんだけどまさに会社の目の前にあった!

太田:今日の日本酒はフルーツの酸味にあいますよ。和菓子と日本酒って、結構相性が良いんです。ということで、じゃあまず、大福からどうぞ。

弁才天のフルーツ大福
季節のフルーツを、素材の味を生かした甘さ控え目の白餡で包んでいる。

伊藤:この大福、皮がすごく薄いからフルーツを丸ごと食べている感覚になりますね。一緒にあわせるのは、なんていうお酒?

太田:こちらは栃木県の酒蔵、「せんきん」が作る「クラシック仙禽(せんきん)」です。酒米は「雄町」のものを選んでみました。自然界にある乳酸を活かして、酒母を手作業で造る生酛(きもと)造りという製法で作られていて。フレッシュでフルーティな酸味を感じるお酒なので、フルーツの酸味ともあうはず。

伊藤:唎酒師、さすがの説得力!じゃあ、お酒を頂きます。

太田:どうぞどうぞ!

クラシック仙禽 雄町

伊藤:大福の白餡とフルーツと日本酒が一体になっている……! それでいて、すごくさわやか。

太田:ありがとうございます。仙禽は、栃木県のさくら市で栽培された酒米、これは雄町(おまち)ベースですね。それと米を育てた水と同じ、地元の水だけで作られているんです。お米の味が前に出過ぎていなくて、いいですよね。

伊藤:う〜ん、ちょっとこの組み合わせ、かなりいいんじゃないですか。日本酒の話を聞いていても思うけど、太田さんって本当に引き出しがたくさんあるよね。「この先、太田伸志は一体どこに向かうんだろう」というのが僕の疑問(笑)。

太田:僕の場合、仕事と生活の間に境界線がないんですよね。もちろんどの仕事にもすべて真剣に向き合ってますけど、仕事とプラベートが地続きになっているというか。例えば、夜サウナにいながら仕事の企画をがっつり考えることもあって。

伊藤:へー、会社終わってからサウナに行くんですか?

太田:そうですね。今はだいだい18時ごろには仕事を終えてサウナとかジムに行っています。

伊藤:18時に終えちゃうの?そのあとのサウナは何時くらいまで?

太田:30〜40分くらいで引き上げることもありますし、2時間ぐらいかけてじっくりという日もあります。その後一人で仕事を整理しながら軽く飲む日もありますね。帰ったら日付を超えるくらいまでドラマや映画を観て、その後はベッドで漫画や小説を眠くなるまで読んでから寝ます。

伊藤:ははは。そんな生活をしているとは。太田伸志って謎だなと思っている仕事相手のためにも、このスケジュールはnoteに書いておいた方がいいですよ(笑)。

太田:謎ですかね(笑)。僕ずっと思っているのが、プライベートでも仕事でも、生きているとすべてがつながるんですよね。例えば今日こうして飲みながら伊藤さんと話したことが、翌日の別の企画会議のヒントになったりして。

伊藤:なるほど、その感覚は分かりますね。色々な人と話したりしているうちにどんどん話がつながっていって、時にはさらに次の仕事を呼び込んだりもして。

太田:そうかもしれないですね。昔から先輩に飲み会とかに誘われたら僕はすぐ顔を出すタイプでした。 何か面白いことあるかもって思って。もちろん伊藤さんからのお誘いであれば絶対に断りません(笑)。僕にとって伊藤さんって、ずっとアーリーアダプターというか、ファッショニスタというか、最先端カルチャー雑誌のような存在なんですよね。たとえば都内や海外のカルチャーをいち早くFacebookでも流してくれる。新しく流行っていることは伊藤さんから教わればいいみたいな。トレンドの話であったり、好きなクリエイティブの話なんかをさせていただける時間がすごく楽しいんです。

ファッションの最新情報も多い伊藤氏のFacebook投稿

伊藤:たしかに昔から会う度に飲みに行ってたし、流行りのスニーカーについて語ったり、色んなことを話してきたよね(笑)。


■8割成功しないと、2割挑戦できないから


太田:こうして伊藤さんとご一緒していると、やっぱりクリエイティブをつくるうえでは伊藤さんのようにトレンドをいち早くキャッチされている方と話して、世の中の流れをちゃんと理解することが大切だなと思うんです。クリエイティブって「つくる」ことよりも、ちゃんと世の中のニーズと「接点をつくれているか」のほうが大切だなと感じていて。 

伊藤:おっしゃる通りですよね。何かを一方的に作るだけではちょっと物足りない。「そのクリエイティブって機能してる?」「誰かに行動を促すような心の引っ掛かりを出せてる?」と考えちゃう。あとはリスクを負う覚悟。「これがダメだったらやばい」と思えるか思えないかって、かなり重要な気がしていて。

太田:そうですよね。僕も良いクリエイティブをただ作るのでなくて、その先の、ブランドや企業の売上を含めた成長面もかなり意識するようになりました。

伊藤:クリエイティブもビジネス面まで考えるべきですよね。例えばレコード会社の場合って、「この子が売れなかったら契約を終了して、次のアーティストにいこう」という考え方もあるじゃないでですか。でも「この子が売れないとやばい」「こいつがダメならおれもダメになる」と思って向き合えるかどうかって、すごく大事だと思うんですよね。

太田:そうそう。僕もクリエイティブを担当させてもらった商品が売れなかったらって考えるとすごく怖いんです。だって売れなければ、次の仕事に繋がらないですもん。「売れていなくても、僕たちは価値を作っています」と言うクリエイティブは ちょっと違うなと思っていて。クリエイティブとビジネスはもっと繋げて考えるべきだろうなと。

伊藤:うん、確かに。そう太田さんが考えるようになったのは、できることがどんどん増えているからですよね。ウェブ制作しかしていなかったら、そういう風にビジネス全体の流れを考えることもなかったんじゃないかな。

太田:そうかもしれないですね。クリエイティブを仕事にする者として、広く経営戦略に関わらせていただける機会が増えているのはありがたいです。

伊藤:あくまで僕の感覚の話なんだけど、経験を積んで色々なプロジェクトを進めていくなかで、8割くらい成功して安定したベースができてくるから、残りの2割で思い切ったクリエイティブにも挑戦できるようになる。

太田:それ、すごくそう思います。かなり似ているんですけどもう少し厳しい言い方をすれば、なんとかして8割成功しなければ、残りの2割で挑戦ができないということ。ただし、基本的には社員が挑戦意識を持ってくれること自体は素晴らしいと思っているので、信頼を勝ち取ってさらに挑戦するためにも、まずは今のプロジェクトを成功させようという話を真剣に社員と議論することもあります。

伊藤:なるほどね。たしかに前から思っていたけど、太田さんの会社の方ってしっかり自分の意見を言うよね。それって実はすごいことだなと思っていて。意見を言いづらい会社って、結構多いんじゃないですか。

太田:そこですか?(笑)そうなんですかね? でも、確かにSteve* inc.はフラットな組織だねと言われることは多いですね。

伊藤:とはいえ社員さんはきっと、心のどこかで「社長はどこに行くの? 何を目指しているの?」って思っているはず(笑)。

太田:ですね。いろいろやりすぎだろうって思われているかも。(笑)でも、そういう想いや疑問もどんどん教えてほしいと思っていますし、言ってくれるメンバーには本当に感謝しています。だって、誰にも意見を言われず自分自身にしか判断基準がない経営者って、孤立してどんどん変な方向にいくような気がしませんか?それだけは避けたいので。

伊藤:たしかに。ということで社員の皆さん、太田さんにどんどん意見をぶつけてよいそうですよ!

今回登場したクリエイティブ「大福くん」:

今回登場したお酒「クラシック仙禽 雄町」

Steve*inc.

Steve* Magazine by Steve* inc.


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