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もうひとつの夜



それは時間からこぼれた小さな物語りのようなものだった...

白昼に迷い込んだ時間を、この石は抱き止めていたのだろうか...
ひとが見る夢のように、時間もまた夢を見るのかもしれない
日常の其処ここに時間の綻びが顔を覗かせる刹那は、一時のまぼろしのように思われても、それはまた時の波間に漂う泡沫のようなこの日常と変わらぬ存在の姿なのかもしれない...

私たちが捕まえることのできない時間をこの石は見せてくれたのだろうか...石が開いた窓の向こうに煌めく星たちが何かを話しているような気がして耳を澄ますと、身体が吸い込まれてゆくような感覚に襲われ、まるで無重力空間にいるような不思議な感覚につつまれていた。

それは私のこころの一滴が異空間に零れ落ちたような感覚だった...
白昼夢のようでありながらも、それは一瞬の刹那のようでもあり、幻のような一滴として時空を超えた瞬間だったのかもしれない...

刹那でもあり永遠でもあるような感覚のなかで、私は時間のヴェールの上で浮遊している自分を感じていた...時間の感覚はありながらもそれは流れてはいない時間だった。幾重にも重なる時間のヴェールが波打ち、互いに交差し突き抜けながら、上昇と下降とを繰り返して浮遊している感覚とでも言えばいいのか...

時間の波間に漂いながら空間の気配だけが移ろってゆく世界のなかで、突如、背後の気配がその色彩を変えた...

振り返ると窓の外には青い星が浮かんでいた...その星は極めて細い絹糸のような幾重もの輪を持っていた。それは半透明な輪に包まれた手毬のようでもあり、繭玉のようでもあった。漆黒の闇に浮かぶ青く輝く惑星...

「あれは貴方の星ですよ… 」 ふいに声がしたと同時に小さな星屑が窓の外に流れて行った...聴いたことのない音とともにその声は尾を引いて青い星の中に消えた。あれが地球… わたしたちの星...

「あれが本当の姿なのです… 」 もうひとつの星屑が流れていった...
ひかりの輪がつくりだす網目のなかに輝く青い地球...まるで淡い繭の中に浮かぶ青い瞳のようなその姿に、私は涙を震わせていた...

ここは何処なのか...内も外もない窓から見る地球は現実なのか幻なのか...時空が交差するパラレルワールドのようなもうひとつの地球...
此方の窓から覗いた地球はどんな音楽を奏でているのか...そんなことを考えてしまう程、この青い瞳はピュアーなエネルギーに満ちていた...

「貴方の星は、いま生まれ変わろうとしているのです… 」 また星屑が尾を引いて流れていった...青い地球に消えたとき…  微かに瞳が瞬いたような気がした...その瞬きと呼応して時間のヴェールは姿を消した...

忘れたように潮騒はよみがえり、渚は優しく笑っていた...

石が見せてくれたVisionは私に天体の音楽を感じさせてくれた...
それはこの石が秘めた微かな記憶だったのかもしれない...


 



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