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【絶唱】湊かなえ

4編の短編集。4人の登場人物それぞれの視点からみた物語。

共通点は、阪神大震災を経験して、様々な過去と傷を抱え、それぞれにゆかりのある地・トンガに滞在するときのお話。

全員に、言葉を失うような過去がある。それをどうやって受け入れ、認め、乗り越えて行くかが描かれている。

身近な人を亡くす。
しかも突然。

これはきっと、経験した人にしか分からない。

尚美さんのように、あらゆる人を受け入れ、理解しようとして、丁度良い距離から、支える。優しく包むような、でも、ちゃんと前を見て、真っ直ぐ歩けるように導いて、帰国させる。

そんな温かい人に、私はなりたい。

息を呑む描写だと思ったのがこちら

”真っ白い砂浜。色とりどりの貝殻。椰子の木、マンゴーの木、パパイアの木。一点の濁りもない、青い空。太陽の光がきらめく、世界中の青を映し出した海。”(P82)

行ってみたいな、トンガに。美しい国。


それから、子供の頃のことを憶えていないと平気で言うのは、幸せだったからだ、と言う言葉にも、ハッとさせられた。そうだ。そうだね。そうだと思う。


あとは、三浦春馬くんを失って悲しんでいる今、ここを読んで、私は泣いた。

”リエコ、あなたは死を悲しいことだと思っているの?”(P 121)
”死は悲しいことではない。”(P122)
”悲しいのは別れであって、死ではない。むしろ、生きていることが試練であって、私たちは毎週日曜日に教会に通い、イエス様のお声を聞かせてもらう練習をしたり、同じ世界に住むのにふさわしい人間になるために日々、鍛錬を積まなければならない。つまり、死とはイエス様と同じ世界に住むことが許されたという証しで、喜ばしいことなのだ。”(P122)

泣いた。泣いちゃったよ。こういう考え方をする文化があるのだと、心に染みた。日本で、同じようなことを言われても全く響かないのは、日本人は宗教と身近じゃないからだ。キリスト教も仏教もどちらにも属さない(先祖を辿ればどこかに該当するのだろうけど。)のに、新年には初詣をし、クリスマスにはパーティーもする。ハロウィンだって、最近じゃ、一大イベントになりつつある。

でも、トンガの人たちは、毎週毎週、1日に3回も。本気でイエス様と対話している。重みが違うと思った。

春馬くんのことを思い出してしまった。絶唱。


傷のない人なんて、いないんだね。



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