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地獄の就活で講談社に救われた思い出

恐ろしいことに20年近くも昔の話になるわけだが、就活はもちろん地獄であった。厚かましく育った三十路の今ならば「新卒ってだけで企業受け放題OB会い放題?おいしすぎない?」と思うけれど、何の縁故も自信もない21才に、出口の見えない日々はつらかった。

商社やコンサルや広告でインターンをしたり、フリーペーパー作ったりイベントやったり、自己分析とエントリーシートの勉強会という名の合コンに明け暮れ、すでに本番前に力尽きた私、もうええわと講談社だけ受けたんである。若い頃からすでに図々しい。

もしかしたら他社もそうなのかもしれないけれど、講談社は2次面接でも新幹線交通費を支給してくださった。はたらけどはたらけど猶わが生活…で(単にバイト代を即座に使い倒していただけ)根性の夜行バス上京組だったので、面接に行くだけで儲かってしまった。そこでお礼をお伝えしたら、3次に通してくださったのだから懐が深い。講談社の本だけは、ブックオフで買うまいと心に誓った瞬間である。

で、その後の3次だったか役員面接だったか、とにかくロビーで小一時間ほど待機する間に話した面々が、最高の活字オタクたちだったのだ。

私以外ほぼ関東勢、超高学歴の美女たちで、黙っていればJJ(って光文社かーい)読モ風だったけれど、みんなただのオタクでしかなかった。

オタク特有の早口で自己紹介がてら自分の推し作品、作者について語り、互いの考察に斬りこみつつ「さすがに昔すぎるかもだけど○○って読んだ…?」「当然」「あ、初期OP歌います?」「ドラマCDありますが?」「同志〜!」と時を忘れて語り合った。廃刊の雑誌でも、ニッチな舞台でも、誰かが必ず拾ってくれた。え、あなたって私だっけ?!状態がどれだけ幸せか、オタクなら分かりますでしょ。

小説も漫画も雑誌も映画も舞台もごちゃ混ぜで、あれだけ大好きなものを語り合えたのは初めてだった。みんな自分の好きに忠実で、他人の好きを全肯定する、清きオタクたちであった。

さらに最高なのが、社員さんもこのテンションで話してくださったことだ。面接は毎回、拍手か爆笑か握手で終わった。
講談社大好き!!!この護国寺とかいう駅は出口多すぎて田舎者には罠でしかないけど、講談社大好き!!!と思った。ここで働きたい、骨を埋めたい、心からそう思った。

そして、この素敵な会社は、私を最終で落とした。
最 終 で 落 と し た。
うける。さすが講談社。見る目がありすぎる。

でも、あの時、私の世界には光が差したのだ。

いくらマシマシ盛り盛りで自己PRをしたって、中身がないことは自分が一番知っている。書けば書くほど空しかった。今まで生きてきたすべてが、しょうもないと言われているようで。お前みたいな人材は腐るほどいるよと思われているようで。
だから就活から逃げて極端なエントリーをした。そして、結果としては大失敗である。

これ以上ない、清々しい負け戦だった。
21才なりの全てを出し切って、受け止めてもらえたのだから。
しかも、しかも、あの恍惚の時間を過ごした面々の誰かが内定を得たのだ。彼女たちなら、最高の作品を世に送り出してくれる。私は生きている限り、それを読むことができる。そう思ったら、大げさじゃなく救われた。

この世界のどこか…じゃなく、東京の真ん中の護国寺の講談社に、私の同志が確実にいるんである。私の数百倍、優秀でヤバい彼女たちが日夜励んでくれるんである。
これはもう、最の高の高ですよ!

その後、改心した私はコンサルに入社、ひたすら布教と課金に努めるオタクとなったのだが、護国寺を通るたび勝手に懐かしい気持ちになる。

もし彼女たちが、今もあの美しいビルで戦っているのなら伝えたい。

あなたたちが作家さんと生み出したもの、全力で受け取ってるよ〜〜〜!これからも供給頼むよ〜〜〜!昔もいいけど、今もいいよね〜〜〜!天才多すぎて日々幸せだよね〜〜〜!ほんとにほんとに、頑張ってくれて、ありがとう〜〜〜!!

あと、長女が昨日、ちはやふるをブックオフで買いました。教育が至らず申し訳ございませんと、ひっそり懺悔いたします。



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