傾慕の夢

「夢に誰か出てきたら、その人があなたのことを考えている証拠なんだって」
 幼い頃、楽しそうに声を弾ませてそんなことを言っていたのは誰だったか。それが好いている相手なら何と幸せなことだろう。夢みたいな話だと思った。今となっては、なんて都合のいい話だと思うけれど。
 
 そんな話を思い出した、翌日のこと。
「あんまり覚えてないんだけどね、昨日夢に君が出てきた」
 何ともない感じで言われて、途端に脈が速くなったのを感じた。出てくるはずだ。だって私はあなたのことを考えている。もっと早くもっと多く現れたっておかしくないくらいにあなたのことを考えている。
「何だっけ、夢に出てきた人は何とかってあったよね」
「夢占いみたいなもの? 何だったかな」
 震える声で何とか誤魔化すと、すぐに興味を失ったようでそれ以降夢の話はしなかった。
 昨日の晩は新月だったから星がよく見えたとか、この前タイトルに惹かれて買った小説が内容も良かったとか、今年のうちにここに行きたいだとか、そんな話。うんうんと頷きながら、その実どうでもよかった。あなたの夢に私が出てきた。それだけでもう、いっぱいいっぱい。

 夢に誰か出てくるのは、あなたがその人のことばかり考えているから。
 そんな正反対の占い結果があることも知っているけど、昔誰かが言った方ばかりが私を突いてくる。言葉一つ、行動一つとってもあの人が私を思っているようには思えない。少しの執着も見えない。
 思っているのは私。あの人ではなく私。これだけ思っているのに私の夢にあの人が出てこないのがその証明。きっと夢でならもっと話をして、手を繋いで、抱きしめたりだってできるはずなのに。誤魔化しの嘘もつかずに、「私があなたを思っているからだよ」と言えるのに。
 夢ですら、夢にすら、私の思いの重さばかりが目立つ。

「昨日もまた君が出てきた」
 あなたばかりずるいよ。
「そう、よく会ってるからかな」
 夢を見ている間だけでも、私のことを考えていてくれればいいのに。


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