総合型選抜/推薦型選抜の教科書/参考書
本記事では、総合型選抜/推薦型選抜(旧AO入試/推薦入試)の概要と合格のために必要なことから合格までの対策法を体系的にまとめた教科書として、0からでも誰でも対策が始められることを目的としている。
はじめに
(この章は導入のため、内容に早く移りたい方は目次から飛んでも支障はありません。)
総合型選抜/推薦型選抜が大学受験のスタンダードへと置き換わりつつある。文科省の発表によれば23年度大学入学者のうち51.1%が総合型選抜/推薦型選抜で入学をしており、一般選抜での入学者は48.9%である。「"一般"選抜」と呼ばれてはいるものの、段々と一般入試が多数派ではなくなっている現実がある。
一昔前までは「一芸入試」や「アホでもOK(AO)入試」などと揶揄されていた受験形式であるが、その風向きも大きく変わってきている。
風向きが変わってきた大きな要因としてはやはりコンピュータやAIの発展の占める部分が大きいだろう。
この発展によって、「正解の定まっている事柄」は機械に頼った方が圧倒的にスピーディーに解決ができるようになった。
しかし、実社会では「正解が(まだ)ない分野」が多数あり、これらに向き合うことのできる人間こそが求められるように変容を遂げてきている。
従来であれば「答えの決まっている分野を覚えて理解し、スムーズに使いこなすことができる」ことが優秀である証明になったため、定型的な事柄の暗記や理解を評価対象とした一般入試で大学入学者を選抜していたのである。しかし、社会状況の変化により、より人間にしかできない「主体性や発想力・協働性」の方に重きが置かれるようになってきた。
近年のChatGPTをはじめとするAIの急速な発展ぶりから見てもますますこの要請は加速していくだろう。
総合型選抜/推薦型選抜を考える際の大きなポイントとして、このような社会的要請の側面を忘れてはならない。「最近流行っている入試だからなんとなく」という理由だけで表面的な対策をしても、それは大学側の求める人物像とは大きくかけ離れてしまう。しかし、実際に受験するかは別として、総合型選抜/推薦型選抜で評価される要素について考えることには大きな意義がある。たとえ、一般選抜で大学に入ったとしても、先述のような社会の変化については同じように影響がある。単に「受験のため」というミクロの視点で見るのではなく、「大学に行くにあたって今考えておくべきこと」という視点で総合/推薦を考えている人はもちろんのこと、一般選抜を考えている人にもぜひ一読いただけると幸いである。
筆者について
「そんなこと言ってるけどあんた誰?」
なんて声も聞こえてくる気がしたため、筆者の経歴について簡単に触れておく。
総合推薦型選抜専門塾 塾長
慶應義塾大学SFC卒業
元高校教員(進路指導部リーダー+地理歴史公民科教諭)
元AO推薦担当塾講師(カリキュラム作成+講師育成)
元高校生向け一般社団法人講師(PBLプログラムの実施)
高校生向けの進路指導やキャリア教育に従事しており、延べ1000人以上の高校生に対して進路指導を行ってきた。
中でも専門は総合型選抜/推薦型選抜であり、受験生への指導はもちろんのこと、指導者向けのカリキュラム作成や研修を実施してきた。
東京大学の推薦選抜や慶應義塾大学のAO入試など難関大学への合格者も輩出してきた。
今までの指導をしてきたものを本記事に落とし込んでいる。
そして、現在総合推薦型選抜専門塾の塾長をしているが、本記事はあくまで教科書を目指したものであり、塾への勧誘は一切目的としていないためご安心いただければ幸いだ。
基本的には本記事のみあれば自走できる人は合格まで歩むことが可能であり、一般受験を考えている自習希望者が参考書を一冊手に取るのと同じようなものであるとイメージをしていただきたい。
とはいえ、大方予想している方は多いだろうが、総合型選抜/推薦型選抜には行動力や発想力が必要なのも事実である。本記事をただ読むだけではなく、実際に行動を多くしていかなければならないことにはご留意いただけると幸いである。
総合型選抜/推薦型選抜(総推入試)の教科書
以降、読みやすさ優先のため、一般入試ではない総合型選抜/推薦型選抜について「総推入試」とまとめて呼称をする。
1章:総推入試とは何か
そもそも、総推入試とは何なのだろうか。一般入試が学力を基準として点数によって合否を分ける分かりやすいものであることに対して、かなりフワッと理解をされているものになっている。
本章ではそもそも総推入試とは何かという点について取り扱う。
大学はどのような基準で受験生を選抜しているか
全ての大学には「三つのポリシー」と呼ばれる方針があり、その中の一つに「アドミッションポリシー」と呼ばれるものがある。
アドミッションポリシーとは、別名「入学者受け入れの方針」とも呼ばれており、下記について定めたものとなっている。
どのように入学者を受け入れるかを定める基本的な方針
受け入れる学生に求める学習成果(「学力の3要素」についてどのような成果を求めるか)を示すもの
※学力の3要素
1.知識・技能
2.思考力・判断力・表現力等の能力
3.主体性を持って多様な人々と協働して学ぶ態度
つまり、「この能力を持っている人を受け入れます」という指針がアドミッションポリシーとして定められており、大学はアドミッションポリシーに基づいて受験生を選抜しているのである。
参考として早稲田大学・慶應義塾大学のアドミッションポリシーが下記の通りである。
このような方針を全ての大学が定め、入学者を受け入れる指針としている。
指針を見れば分かるが、一般選抜、即ち学力試験のみでは、評価基準がペーパーテストの点数のみとなってしまい、アドミッションポリシーに合致した受験生をくまなく受け入れるには不十分となってしまう。
アドミッションポリシーに合致した受験生を学力のみに偏重せず、より多面的な評価方法で受け入れることを目指しているものが総推入試となる。
このような背景から、総推入試について一言で言えば大学と受験生の「マッチングの入試」であると言える。
大学の求めるアドミッションポリシーに綺麗にマッチングした人が合格をすることができる。
「マッチング」をより理解するためのポイントは合否の基準の一律性が分かりやすい。
一般入試であれば、学力という全大学に共通する一律基準での競争の入試となる。
例えば、偏差値60の大学に合格できる英語力があれば、(もちろん大学ごとに多少の出題傾向の差異はあるが、)偏差値50の大学にも合格できる英語力があるといって差し支えないだろう。
全ての大学が国語や英語、数学などの定まった科目で一律の学力という基準で受験生を選抜する。
「うちの大学は一般選抜は英語に加えて料理力の2科目で選抜します!」と言い出す大学は基本的にはないだろう。
一方で、総推入試は各大学・学部ごとにアドミッションポリシーに基づいて受験生とのマッチングを測ることになる。大学側の「こういった学生が欲しい!」と受験生側の「こういった大学に入りたい!」が合致した時に合格となる入試である。
ここに、全大学共通の一律の基準はないため、一般選抜の偏差値が50の大学に不合格になったとしても偏差値60の大学に合格する逆転現象も当然起こりうる。「大学の偏差値」はあくまで基準が一律であるからこそ成立しているものであるため、基準が大学ごとに異なる総推入試においては従来の偏差値の概念は大学の難易度を考える際には不適切なものとなる。
総合型選抜と推薦型選抜の違いについて
「総推入試」と区切っているが、総推入試は「総合型選抜」と「推薦型選抜」の二種類をまとめて呼称している。しかし、種類が分かれているということはもちろん違いもある。ひとまとめにして先に進める前に違いについても触れておく。
どちらもマッチングの入試ではあるものの、大きな違いは最重要視する指標の違いである。
総合型選抜は、「これから何を学び、将来何をしたいのか」が重要視をされる入試形態である。
将来はどのような目標を持っていて、そのために大学で何を学びたいのかという「未来」に視点を置いた入試形式である。
条件を満たしていれば、学校長からの推薦なども基本的にはいらず、意欲や情熱があるのであれば誰でも出願が可能となっている。
学校長からの推薦を不要とするため、複数の大学の併願を認めている大学も少なくない。
一方、推薦型選抜は「これまでにどのような実績を積んできたのか」が重要視される入試形態である。
高校在学中にどのような努力をし、何を成し遂げてきたのかという過去に視点を置いた入試形式となっている。
そのため、評定平均の基準を課す大学も多く、高校ごとに独自の枠を設ける指定校推薦も存在する。
在籍学校長の名義で生徒を推薦するため、基本的には専願が条件となることが多い。
これらから、
総合型選抜:これからの将来重視
推薦型選抜:これまでの実績重視
と言い切ってしまうこともできるが、これだけを意識してしまうことは危険である。
「将来やりたいことはあるけど、高校時代は特に何もしていなかった」
「高校時代の実績はあるけど、別に将来したいことはない」
上述のような人たちが合格できるかというと、厳しいであろうことは想像に難くない。
前者であれば、「本当にそれをやりたいのか、やりたいのであればなぜ今まで何もしてきていないのか」となってしまい、
後者であれば、「実績はあるけどそれが今後に関係あるのか、何の役に立つのか」となってしまう。
将来の展望とこれまでの実績は片方で成り立つものではなく、相互関係である。
どちらかさえあれば良いというものではないため、結果としては総合型/推薦型問わず両方を意識する必要がある。
そのため、実際の対策法には総合型選抜/推薦型選抜によって差はないため、「総推入試」として一括りで扱っていく。(指定校推薦のような特殊な受験形態ももちろんあるため、そこは別途専門の対策が必要となる点にのみ注意が必要である。)
2章:総推入試の試験内容
本章ではマッチングの入試形態である総推入試がどのような試験で受験生を評価するのかを取り扱う。
総推入試の試験内容は大きく下記の3つに分かれる。
書類審査
面接審査
独自審査
中でも「書類審査+面接」はほぼ全ての大学の総推入試で行われている試験内容である。
最終的に入試ではどのようなもので審査がされるのかを解説していく。
書類審査
書類審査はイメージの通り提出する書類による審査である。出願時に提出する書類をアドミッションポリシーと照らし合わせて審査がされる。提出書類は書類審査への活用だけでなく、面接時の参考資料としても活用される点に注意が必要である。
提出書類にはほぼ全ての大学で提出が必須とされている書類と、各大学によって求めることがある書類に大別される。
ほぼ全ての大学で提出必須とされる書類は下記の3点である。
A.志望理由書
受験大学への進学を希望する理由を記載した書類。ただ理由を記載すれば良いわけではなく、「なぜこの大学で学ばなければならないのかが」重視される。
「将来の目標・大学で学びたいこと・高校の取り組み等」を記載することが多い。
B.調査書
所属高校が作成し、発行する書類。高校生活中の学業(評定)や課外活動の状況等が記載されている。
「成績・欠席日数・学習面や行動面の特徴・部活動や生徒会活動等」が記載されている。
C.推薦書(推薦型選抜の場合必須)
所属高校教員が作成する書類で、所属高校の学校長名義での推薦を示す書類。担任教員か顧問教員へ作成を依頼する場合が多く、推薦者目線での受験生を大学に推薦する理由が記載される。
「推薦理由・実績等」が記載されるが、大学によっては文章推薦を求めない場合もある。
各大学によって求めることがある書類は主に下記の3点です。
D.自己PR書類
自分自身をPR・アピールする書類。文章形式でPRを求められる形式の他に、スライド形式やポートフォリオ形式で提出が求められる場合もある。
「活動報告・大会の賞状・資格検定の証明書等」の提出が義務付けられていることもあるため、注意が必要である。
E.課題レポート
大学が指定したお題に対してのレポート。希望する学部学科に関わるお題が出ることがほとんどである。
(例:社会学部 「現代の社会に関するテーマ」で自由研究をしなさい)
「お題に関わる自由研究論文・スライド資料等」の提出となり、スライド資料の場合にはこの資料を用いて二次試験でプレゼンテーションを課されることもある。
F.推薦書(総合型選抜の場合)
推薦者目線での受験生を大学に推薦する理由を記載した書類。所属高校教員に限らず推薦者が幅広く認められていることも多くなっている。
「推薦理由・実績等」が求められ、大学によっては1000文字を超える長文の推薦文が求められることもあるため、推薦者には自身のことをよく知っている人を選ぶ必要がある。
上記書類は主要な書類となっており、大学によって求める人物像に合わせた多様な提出書類が求められることがある。
面接審査
面接試験の受け答えを通して、受験生の能力を判断し、アドミッションポリシーに基づいて審査がなされる。
志望理由書や調査書等の文章のみではわからない熱意や対応力を見るための試験。
回答内容自体の評価はもちろんのこと、話し方や面接時の所作、質問返答力が総合的に評価される。
主な面接の種類は下記の三種類である。
A.個人面接
受験生1人に対して大学教職員が複数名面接を行う。最も一般的な面接形態。
志望理由を踏まえた上で面接内での対応力等が評価をされる。
B.集団面接
受験生複数人が同時に面接を行う面接形態。同じ試験教室内で質問が順番にされていく。
基本的には個人面接と評価基準は変わらない。
C.口頭試問
学力や学習意欲・思考力の評価に特化した面接形態。通常の面接の内容に加えて教科知識を問う質問が多く行われる。
志望学部の時事問題についての考えを問われる場合もある。
独自審査
「書類審査+面接審査」に加えてアドミッションポリシーに沿って審査をするための大学ごとに設けている試験。
小論文試験やプレゼンテーションなど複数の大学でよく採用されているものもあれば、完全に大学独自の試験形態を設けているものもある。
独自審査の例は下記のようなものがある。
小論文:明治大学 自己推薦特別入学試験 等多数
プレゼンテーション:立教大学 自考力入試 等多数
グループディスカッション:東京大学 学校推薦型選抜 等
共通テスト:国公立大学 推薦型選抜 等多数
事前課題学習プログラム:立教大学 総合型選抜(UNITE Program) 等
大学ごとに求める受験生に合わせて試験形態が設定をされている。
中でも国公立大学の推薦型選抜では共通テストの結果を用いることが多く、学力も評価される点には注意が必要となる。
書類審査+面接審査+独自審査
これらが基本的な総推入試での審査方法となるが、いずれも大学のアドミッションポリシーに基づいて審査がされ、総合的に評価がされるものである。
それぞれを独立させて考えてしまい、「ただ良い書類を作る」「ただ良い面接をする」だけで対策をしてしまえば、
「志望理由書と面接で言っていることが違う…」
とすぐに見抜かれてしまう。特に面接時の対応で言っていることが本心かは簡単に見抜かれると考えておくべきである。
全ての試験内容で「一貫性」があることが重要となるため、小手先の対策ではなく充実した背景情報や思いが重要となることを強く意識すべきである。
3章:総推入試に受かるために必要な能力
ここからは実際に総推入試に受かるためにはどのような能力が必要かを取り扱う。
これまでの内容を踏まえれば、「大学ごとに必要とされる能力は異なる」ということになるが、もちろんそれだけではない。
そもそも、総推入試が増えている社会的背景も踏まえれば、大学ごとにカスタマイズはされつつも、一定の能力基準がある。
では、この能力とは何であろうか。
「志望理由書を書ける能力や面接力」
このように考えてしまいがちであるが、これらはあくまで技能・スキルである。
もちろん、最終的には志望理由書や面接での対応ができなければ合格を勝ち取ることはできないが、「何もない場所から突然良い志望理由書」は生まれない。そこに至るまでに必要な能力を含めて考える必要がある。
総推入試において必要な能力は下記のようにピラミッド上に構成をされている。
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