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読書note

図書館が好きだった。
書架のあいだを歩いて、並んだ背表紙を眺めると深く息を吸える気がした。
こんなにも多くの本の一冊ずつに著者がいて、それぞれの経験と考えがある。個人的な経験や考えを世に出そうとした出版社があり、その本を手に取る読者がいる。図書館は僕にとって、正しい世界そのものだった。

『昨日星を探した言い訳』より


ずっと読みたかった本、
河野裕さんの『昨日星を探した言い訳』をやっと読了した。
物語の余韻がまだ深く残っている。
『いなくなれ、群青』シリーズでファンになってから、この人の著作は全部読んでおこうと決めている。


なんといっても文章が好き。
印象的な台詞や暗喩的な言い回しに、いつも胸を撃ち抜かれる。
14歳から17歳の多感な時期を過ごす少年少女の痛みが鮮やかに記されていて、読んでて胸がいっぱいになる。それは大人になると見えなくなる感情で、だからこそ切実にまぶしく光る。


そしてこれは、
なんと言っても至高のラブストーリーだ。
大人になってから、
10代の恋を取り戻すまでの物語。

一方で、マイノリティに関する物語でもあった。
マジョリティのなかのマイノリティって、
ときに手厚く保護する対象みたいに映るけど、
その優しさが誰かを傷つけることもある、ということ。


登場人物のひとり、綿貫わたぬきくんの考え方が印象的だった。
「相手のことを、本当はわからないって知ってるから、少しだけわかったことをとても大事にする」という言葉。

わかったつもりになって型にはめることが、
知らないうちに相手を傷つけることもあるのだ。
たとえそれが善意や優しさだとしても。

「わからない」という前提を大切にするって、
相手を尊重することなのだと思った。

彼の台詞がとても良い。



「たぶんーー」 
「愛っていうのはなんだって、たったひとつの言葉を忘れるための過程なんだ」


たったひとつの言葉って何だろう。
想像力をかきたてる台詞だ。
でも、その「分からなさ」が、愛の正体なのかもしれない、なんて思ったりする。



もうひとつ、
第二部の後半に表題になった台詞がある。


いつか本物の愛をみつけるために、それに似たものの話をしよう。

これはヒロインの台詞。
(彼女の変化もとても好き)



いくつもの言葉が胸に残る。


個人的には、
図書館が出てくる設定も好きだった。
主人公が図書館を「正しい世界」と言ったことも。


僕にとっての正しい世界。ずらりと書架が並ぶ、図書館のようなもの。異なる個人の意見がそれぞれ尊重される場所。


この物語には、ひとつの理想の世界が出てくる。主人公の男の子は、恋する彼女のために、それを死守したかったのだ。
正しい世界なんて、どこにも見つからないとしても。そんな想いの行く先をいつまでも反芻したくなる。



また何度も読み返したい、素敵な物語だった。






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