読書note
気になっていた小説を、きのうやっと読み終えた。
ディーリア・オーエンズの『ザリガニの鳴くところ』
タイトルから自然豊かな場所が舞台なんだろうと思うものの、読み始める前は、これがどんな物語なのかまったく想像がついていなかった。
カバーの裏に書かれている簡単なあらすじで、ミステリなんだと分かる。
でも、(解説にもあるように)
これは幾通りにも読める物語だ。
ミステリでもあるし、ひとりの少女の成長譚でもあるし、人種差別や環境問題を扱った社会的な小説でもある。
主人公である少女、カイアが置かれた環境はとても過酷だ。
掘立て小屋のような粗末な住まいで、
暴力を振るう父親と年上のきょうだいと暮らしていたが、ある日母親がその状況に耐えられず家から出て行ってしまう。
他のきょうだいたちも、ひとり、またひとりと家を出て行き、父親とカイアが残される。
そしてしばらく小康状態が続いたものの、
父親も家に帰らなくなり、カイアひとりだけが残される……
湿地に取り残されたカイアは、子供ながら懸命に生きようとする。
村の人たちの偏見や差別に耐え、たったひとりの孤独に耐えながら。
途中、読み書きを教えてくれる少年が現れて、
カイアは束の間、孤独を癒しながら成長する。でも、その少年もまたカイアのもとから去ってしまう。
ひとりきりのカイアの心を慰めたのは、
湿地に広がる自然とたくさんの詩の言葉だった。
誰とも繋がれない孤独を抱えながら、
カイアは何度も詩を暗唱する。
何度も裏切られたカイアは、人を信じることができない。
そんななか自然を愛し、貧しさに耐えながら湿地の生物の記録をスケッチし続ける。
やがてその功績が見出され、カイアは自然研究家としての道を歩み始める。
その矢先に不審死事件が起こり、
カイアが疑われ、殺人罪に問われる。
そして、とうとうカイアの運命が決まる。
この物語のジャンルを特定するのは、確かに難しい。
ひとりの孤独な少女が愛を知るまでの物語、
と言えば簡単なのかもしれない。
でも、それだけでは終わらなかった。
最後に、本当の真実と正体が明かされる。
表紙のカバーに書かれているとおり。
カイアほど孤独に生きる人は、あまりいないだろう。
取り残された少女は、ひとりで生き抜くしかなかったのだから。
そしてだからこそ、
自然の情景や詩の言葉が鮮やかに描写される。
カイアの苦しみに、強さに、弱さに共感して、終盤は泣いてしまった。
生命の摂理や自然に思いを馳せながら、
ゆっくり読み返したい一冊だ。
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