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(小説)ごめんなさい 8

最初から

まえのやつ


8



私が夫との歪んだ共依存に安心しきっていても、それがあくまで私だけの感覚であると思い知った。

成瀬さんの母親の話を聞いた3日後のことだった。なんとも出来すぎた流れだ。
しかしまぁ、夢見がちな捉え方をすれば、........神様が私にきっかけを与えてくれたのかもしれない。


その日はパートが休みだったので、私は近所のスーパーに買い物に行った。その帰りの出来事だ。


「あのぉ」


自宅のオートロックの前に知らない女性が立っており、私が中に入ろうとした所で声を掛けてきた。


「三島さんって知ってますぅ?」


何だか間延びした、甘ったるい口調だ。私より背が高いのに身を屈めて、わざわざ私より視線を低くしてまで上目遣いで見てくる。
「三島は私ですが、なんですか?」綺麗に伸ばした髪の毛はカールして、ふんわりといい匂いがした。彼女はキラキラした爪を見せびらかすようにして、何かを私に差し出した。


「これ、この前剛典さんが家に来た時に忘れちゃってたみたいで」

「........ん?」

「剛典さんのボールペンですぅ」


と、一瞬で悟った。まるでドラマのようだ。
その手に握られているのは確かに夫のものなのだ。私が3年前彼の誕生日に送った、名前の刻印があるボールペン。
家の鍵を片手に持ち、そしてもう片方に丁度スマホを持っていた。都合のいいことに。
考えるよりも早く、スマホを胸に抱えるようにして持つと、動揺して俯いているフリをした。


「奥様ですかぁ?剛典さんの」

「え、あの、その、」


わぁ、倒置法だよ........、などと余計なことが頭に過ぎる中で、こっそりとスマホの録音アプリを起動させる。


「何なんですか、あなた........」

「え?わからないんですかぁ?」

「すいません、わからないです。これ何なんですか?人違いではないですか?私の夫があなたの家に?」


泣きそうな声で彼女を見上げると、アイラインで濃く囲まれた目が勝ち誇ったように光り輝いた。とても化粧が濃い。私より若くて可愛らしいが、私のほうが外見は優れている。なんだこの女、意地悪くて汚い表情だ。


「えぇ〜?剛典さんがに仕事に行くふりをして、何度も私の家に来たり、一緒にホテルにこもってイチャイチャしてたのに、知らなかったんですかぁ?」

「それはつまり........」

「アンタは不倫されてんだって言ってんの!このブス!」

「え?不倫?........え?」


ボールペンを私の鼻先に突き出してくる。「あの人はあんたなんかより私の方が好きだって!私と結婚すればよかったって言ってたよ!早く消えろブス!」愚かと言うかなんというか、これが若さというものか。醜く歪めた笑顔で怒鳴ったあと、彼女は無理やり紙袋を押し付けてきた。


「ありがとうございます。録音とれました」


紙袋を受け取りつつ私が言うと、彼女の笑顔が一瞬で引っ込んだ。止められる前に鍵を読み込んで、オートロックの扉から素早く中に入って扉を閉めた。ガラスの扉の向こうで彼女が何やら喚いてる。





つづく

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