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(小説)ごめんなさい 序章



序章



胃が万力で締め付けられるような、キリキリとした痛みを感じていた。


「お帰りなさい」


今日の夫は不機嫌そうだった。仕事が大変だったのだろう。私は努めて彼を刺激しないために、必要以上に話しかけず、必要以上に近寄らずに対応することにした。

私は主婦としては出来が悪い。家事が下手だし頭も悪い。そんな女と結婚してくれたのだから、彼の機嫌を最優先にするのは当たり前なのだ。

今日は掃除もしっかりした、と思う。
食事も丁寧に作った、と思う。
元がずぼらな性格だからか、どんなにきっちりやったつもりでも、必ずどこかで粗が出てしまうのだ。


「ねぇ」


靴を脱ぎ、家の中に入った夫だったが、廊下の途中で何かに気付いて立ち止まった。そして床を指さす。その先には、一本の髪の毛が落ちていた。


「........ごめんなさい」長さからして私のものだ。夫は大きなため息を吐くと、近くの収納の扉を開けた。中には充電式の掃除機が入ってる。


「何のために僕より長い時間家に居るの?」


掃除機で髪の毛を取り除いた夫は、私を透明な眼差しで見つめてそう言った。

私に対してあまり興味が無い、何の温かみもない目。


「ごめんなさい。朝と夕方に掃除したんだけど、行き届いてなかったみたいです。今後はダブルチェックを心掛けていきます」

「どうせ君だから、完璧にはできないだろうけどね」


ごめんなさい。

幼い頃から、私はいつも何かに謝ってる。
常に私は謝る側の人間だった。





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