農業分野における気候変動と対策について
農業に関して興味があること、興味があるだけではなく、アグリテックの分野にstak, Inc. としても参入していく宣言を先日した。
実際に広島県の某エリアでその取り組みが始まっており、詳細については少しずつ公開していくとしよう。
ということで、農業のことに関して、私自身も少しずつ改めて勉強を始めているのだが、切っても切れないのが気候変動についてだろう。
地球温暖化について
気候変動において欠かせないワードが地球温暖化だろう。
私が小学生くらいのころから出てきているワードなので、自然と溶け込んでしまっているからかもしれないが、多くの人にとってそんなに危機感を覚えることがないというのが実態だろう。
けれども、この温暖化という問題は実に深刻だということに対して、改めて警鐘を鳴らしておきたいと思う。
IPCC AR5(気候変動に関する政府間パネル 第5次評価報告書によると、今後も世界的に見て温暖化とともに極端な気象現象の頻発が予測されている。
また、文部科学省および気象庁によると、日本の年平均気温は1986~2005年の20世紀末と比べて、2081~2100年の21世紀末には1.4~4.5℃上昇するという予測がある。
詳細を書いていくと、下記のとおりだ。
1898年以降100年あたり1.26℃の割合で上昇
猛暑日の年間日数が増加傾向
大雨の年間発生回数が増加傾向
2℃上昇シナリオおよび4℃上昇シナリオに基づき予測
21世紀末の日本の平均気温は上昇し多くの地域で猛暑日や熱帯夜の日数が増加
冬日の日数が減少
この観測結果と予測に基づいて、農林水産省では地球温暖化の防止を図るための緩和策と、地球温暖化がもたらす現在および将来の気候変動の影響に対処する適応策を一体的に推進している。
緩和策として、気候変動の原因となる温室効果ガスの排出削減対策を行い、適応策として、すでに生じている、あるいは将来予測される気候変動の影響による被害の回避および軽減対策をといった具合いだ。
温室効果ガス(GHG)の排出
地球温暖化緩和策として、まず知っておかなければいけないのが、世界全体と日本の農業由来の温室効果ガス(GHG)の排出についてだ。
2007〜2016年の世界の平均GHG排出量は、CO2換算で520億トンとなっている。
このうち、農業、林業、その他の土地利用(AFOLU)の排出は、世界全体の23%を占めている。
また、2019年度の日本の排出量は12.12億トンとなっており、農林水産分野は約4,747万トンで全排出量の3.9%という数値だ。
一方で、2019年度の日本の吸収量は約4,590万トンで、内訳は森林4,290万トン、農地、牧草地が180万トンとなっている。
2019年度の日本のの温室効果ガス総排出量は上述したとおり、12.12億トンで、排出量を算定している1990年以降で最少温室効果ガスの排出量となっている。
前年度比でマイナス2.9%、2013年度比にするとマイナス14.0%という結果だ。
ただし、農業分野からの排出は1990年以降で4%前後とほぼほぼ横ばいだということも知っておくといいだろう。
ちなみに、農業分野からの排出については、水田、家畜の消化管内発酵、家畜排せつ物管理等によるメタンの排出や、農用地の土壌や家畜排せつ物管理等によるN2Oの排出がIPCCにより定められている。
農林水産分野の地球温暖化対策計画
日本政府の地球温暖化対策計画の中期目標は、2030年度に2013年度比46.0%削減という大きなものある。
このうち、農林水産分野の対策により、3.5%の削減目標と農林水産分野での削減率目標は低い。
それから、排出削減対策での削減目標が全体の42.2%で農林水産分野が0.2%、吸収源対策での削減目標が3.4%という内訳だ。
とまあ全体的に期待されていないのか、どこかのロビー活動が強いのかは不明だが、2030年度までの3.5%の削減目標の詳細は下記のとおりだ。
施設園芸および農業機械の温室効果ガス排出削減対策
こちらの2030年度削減目標は、施設園芸で155万トン、農業機械 0.79万トンとなっている。
具体的には、施設園芸における省エネ設備の導入や省エネ農機の普及をしていく方針だ。
漁船の省エネルギー対策
こちらの2030年度削減目標は、19.4万トンで、省エネルギー型漁船への転換などが施策として行われていく予定だ。
農地土壌に係る温室効果ガス削減対策
こちらの2030年度削減目標は、メタンで104万トン、一酸化二窒素で24万トンとなっている。
具体的には、中干し期間の延長などによる水田からのメタンの削減や施肥の適正化による一酸化二窒素の削減をしていく方針だ。
森林吸収源対策
こちらの2030年度目標は、3,800万トンとなっている。
具体的には、間伐の適切な実施やエリートツリーなどを活用した再造林等の森林整備の推進、建築物の木造化等による木材利用の拡大を推進していく方針だ。
農地土壌吸収源対策
こちらの2030年度目標は、850万トンとなっている。
具体的には、堆肥や緑肥等の有機物やバイオ炭の施用を推進することにより、農地や草地における炭素貯留を促進する方針だ。
参考イメージ
ちなみに、◯◯トンという温室効果ガス(GHG)がどのくらいのものなのか、いまいちピンとこないという人も多いと思うので、参考イメージを紹介しておく。
牛などの反すう動物のゲップには、ルーメン内発酵により産生する温室効果ガスであるメタンが含まれているということを聞いたことがある人も多いだろう。
牛1頭からは1日あたり、200~800リットルのメタンがゲップとして放出されているといわれている。
1,000リットルが1トンなので、牛1頭が2〜3日で約1トンの温室効果ガス(GHG)の排出量だと思えばいいだろう。
そして、反すう家畜の消化管内発酵に由来するメタンは、CO2換算で全世界で年間約20億トンと推定されている。
これは全世界で発生している温室効果ガスの約4~5%を占めるため、地球温暖化の要因の1つとされているのである。
また、1人の1ヶ月の水の使用量は平均で8立方メートルとされている。
1,000リットルが1立方メートルなので、およそ4日間の1人の水の使用量が1,000リットルと同じくらいだとイメージするといいだろう。
農業への影響と対応策
とまあ、日本政府の対策をいろいろと述べてきたが、具体的にはどんな影響があるのかについて書いていこう。
まず、土づくりや水管理等の基本技術に加え、高温環境下において耐性を持つ新たな品種開発や新たな栽培管理技術等の導入、普及をしていかなければならない。
水稲では、出穂および開花から収穫までの登熟期の高温などによって、デンプンが十分に詰まらず白く濁る白未熟粒の発生が多く確認されるようになっている。
果樹でも、高温多雨によって、果皮と果実が分離した状態を指す浮皮しているミカンやリンゴやブドウの着色不良が起きている。
この着色不良はトマトなどの野菜でも同様に起きている。
また、コメの収量は全国的に2061~2080年頃までは増加傾向にあるものの、21世紀末には減少に転じると予測されている。
それから、2010年代と比較した乳白米の発生割合が2040年代には増加すると予測され、一等米面積の減少により経済損失が大きく増加すると予測されている。
ミカンについては、栽培適地が北上し、内陸部に広がることが予測されており、21世紀末に関東以西の太平洋側で栽培適地が内陸部に移動する可能性が示唆されている。
リンゴについては、21世紀末になると東北地方や長野県の主産地の平野部、東北地方の中部、南部など主産県の一部の平野部で適地よりも高温になることや、北海道で適地が広がることが予測されている。
こうした状況が予測される中、対応策はどういったものがあるのかについても触れておこう。
水稲では、高温でも白未熟粒が少ない高温耐性品種の導入が進んでいる。
ミカンの栽培では、浮皮軽減のため植物成長調整剤の散布、着色促進のため反射シートの導入、中晩柑への転換といった対策が進んでいる。
リンゴの栽培では、優良着色系品種の導入、ブドウの栽培では黄緑系品種の導入が進み、ブドウの着色を促進する環状剥皮技術の導入なども進んでいる。
野菜の栽培でも同様に、高温耐性品種の導入や遮光資材の導入が進んでいるといったところだ。
まとめ
くり返しになるが、地球温暖化については、多くの人は自分のことだと捉えていないというか、どこか他人事として考えているのが実態だろう。
21世紀末の話とかになると、そのときに自分は生きていないからといった発想になることはわからなくもない。
けれども、やはりそのあたりも見越して行動を起こした方がいいということは、ほとんどの人が賛同するするはずだ。
とはいえ、マクロ目線で物事を考えるよりも、まずは1つずつできることから進めていこうと思っている。
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