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第7回 身体機能を補う福祉工学機器

第7回講義の担当は、伊福部 達 先生でした。
先生の専門は、人間情報工学。

第7回の講義リンクはこちら

今回のテーマは、
ジェロントロジーのための福祉工学。

この分野で学べるのは、
・福祉にどういう技術があるか、その背景にどういうサイエンスがあるか?
・工学が、どういう紆余曲折を経て、福祉に応用されるのか?
など。

福祉工学の例

・コミュニケーションを支援するために、ITがどう生かされるか?
・環境認知を支援するVR
  行動するためには、環境の認知が必要(例:運転時)
  →VRで補助
・運動系を支援するロボティクス(例:歩行)

医療技術と福祉技術の違い

医療技術:
人間を切り貼り、改造のイメージ
 (ex.人工臓器、バイオ、再生医療)

福祉技術:
人間を改造はしない。
変えるのは、

①生活環境 →生活機能の支援(ex. 住宅、都市、IT)
②身体機能 (ex. 目、脳)

福祉工学の歴史 -医療工学から福祉工学へ-

1950年頃生まれた医療工学の価値観
=技術によっていかに人を長生きさせるか?
 生命支援(ex. 人工臓器)

しかし、医療による限界も見えた。
医療ではどうしようもない事象もあった。
(ex.聴力の低下など)

そこでスポットライトが当たり始めたのは、
技術によって、いかに自立支援・介護支援をするか?

続いて、
年をとっても働くには? 趣味を楽しむには?
そのための支援技術へのニーズも出てきた。

やがて、
年をとっても社会参加・生きがいを持つには?
それにつながる技術も求められるようになった。
(最初の医療工学の価値観からはずいぶん遠くまで来た!)

福祉工学の発想は、工学的価値と医学的価値が組み合わさっている。

そもそも、工学的価値と医学的価値は異質な価値観だった。
二つの由来は、サイバネティックス。
サイバネティックスが、バイオニクス(工学的価値)と医療工学(医学的価値)を生んだ。

人間を機械に見立てて、人間を理解するという考え方

サイバネティックス:人間を、情報処理マシンに見立てる考え方。
人間を、情報の計測→処理→制御を繰り返すマシンだと捉える。

そこから、
バイオニクス:動物・人を踏まえて、新しいマシンを作ろう!
 (ex. ヒューマノイドロボット「小次郎」)
医療工学:機械と人間の類似性に注目→体内に埋め込む機械を作ろう!
 (ex. 人工臓器)

それらの兄弟、
工学的価値+医療的価値が混ぜ合わさったものが、福祉工学。

工学と医療の相違点には、
工学ーマーケットが必要。ないと発展しない。
医療ー命のため。マーケットは不要。

福祉工学は両方をカバーしており、
相互に発展するサイクル構造がある。
 人間の活動の支援機器ー医療
 ↓↑
 新しいコンピューター工学  

→ IT、VR、ロボ

福祉工学の発展

しかしながら、福祉工学は、当初は工学として認められなかった。その背景は、
①根拠とするサイエンスがない 
(ex. 聴覚が失われた状態の仕組みがよく分からない
→補聴器つくれない)
②マーケットが小さい →大手は手を出さない

つまり、工学のために必要な要素2つの、両方がなかった。

だが、時代が変わった。高齢者の増加により、需要が生じたのだ。

福祉工学への需要 -3つの支援対象-

WHOが提唱した、生活のために必要十分な機能
①脳・コミュニケーション
②感覚情報
③移動・運動

それらの内、壊れた機能の補完が必要になる。

障害者と高齢者のちがい

ちなみに両者は、機能の基盤が違う。
(若い)障害者は、可塑力=学習して新たに適応する機能をつくる力

一方、
高齢者は、可塑力が低下している。
ー経験力=今まで蓄積してきた経験によって対応する力

可塑力によって対応できるようにするのが、
バリアフリーデザイン。
経験によって対応できるようにするのが、
ユニバーサルデザイン。
デザインでは、
可塑性と経験の比率を見極めることが必要。

ユニバーサルデザインは、
平均的な機能・特性を誰にでも使える形へと拡張する方向。
マーケット:既存のマーケットから、対象範囲を広げていく。
(ex. 複雑なケータイをシンプルな機能にして誰でも使えるようにする)

バリアフリーは、
どうしてもできない人の適応からスタートする方向 
(ex. 視力が低い人がいる→じゃあどうするか?)
マーケット:未知技術を創出する→新マーケットへつながる。

バリアフリー学


当事者中心の技術の重要性 
→バリアフリー学の誕生

身体の補完の難しさ

脳の可塑性がはたらく
=脳の仕組みが変化するー機能を補う
(ex. 視覚障碍者の指先に入力された点字情報が、
視覚領野にも流れる!という研究がある)

サイエンスとマーケットがあって可能になった技術の事例

触覚で、聴くのを助ける技術:
指先に与えた音声=振動→内耳の振動へ→脳内では音声情報として届く

最初は、できまいといわれていた。
しかし基礎研究が進み、可能になった。

サイエンスとマーケットがないせいで失敗した事例

音声を文字に変換して聞かせる技術:音声をタイプライト
(現在の音声認識)

しかし、
コストが膨らみすぎて高価に→必要としている人には届かず
→実用化されず...

だがその後、
「聴く」のを助けるユニバーサル音声認識
=音声認識+インターネット+異言語翻訳
のアイディアが生まれた
→ITビジネスになった
→実現へ 

高齢者のためのサービスがあっても、
マーケットが小さいと開発が進まない。
→マーケットを広げることで、開発を進めることが可能になる。

サイエンスを進める難しさの事例


「聴く」のを助ける技術として、
聴神経の電気刺激の技術が構想された。
→危険だとして、日本では研究が禁止された。
工学界と医療界との共同研究は難しいところがある。

そこで、人口内耳の開発については、
外国でボランティア制度を使い、耳に電極を入れる研究をした。
 
その国では、
ボランティア制度とマスコミ対応のカバーがあった。
その制度では、
ボランティアが政府と契約をしていれば、失敗してもメディアから保護されるという。

結果、聴覚の仕組みも分かるようになった。

「話す」を助ける技術の例


構音障害、発話失行症、声帯摘出により、発話ができなくなった人のための技術。

口の形を変えるだけでその音が出る機械の開発。

そのためのサイエンスは以下のように進められた。
九官鳥がしゃべる仕組み、インコがしゃべる仕組み、
両方をヘリウムガスを使って声を調べる、
いっこく堂の腹話術の仕組みを調べるなどなど...

感想

技術っていうけれど、それらが誕生する裏にはこんな複雑な構造があったことに驚きでした。マーケットや、他分野との価値観の折り合い、時代の要請、研究規制など...。必要は発明の母というけれど、そこには多様なファクターが関係しているのだと分かりました。必要さえあれば発明生まれる、という単純な話ではないようです。


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