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観るスポーツとしてのテニスを盛り上げるためには?スポーツ科学の視点から切り込んでみた!

こんにちは。スタジアムヲタクのモリチッチです。今回の記事ではテニス、特に「観るスポーツ」としてのテニスをさらに発展させていくためにはどうしたらいいのかを、スポーツ科学の視点から切り込んでいきたいと思います。ぜひ最後まで読んでいただけると嬉しいです。

(これは「#10年後にスポーツ業界を盛り上げる若者たち のAdvent Calendar 2023」の2日目の記事です。
https://adventar.org/calendars/9020

昨日はGLOW-スポビズ若手コミュニティ-さんの「スポーツで働くをもっと身近に」の記事でした。)

「するスポーツ」として理想的な成長を続けるテニス

 するスポーツとしてのテニスは非常に理想的な形だと思います。以下の図は性別、年齢別のテニス競技人口の内訳を表しています。


競技人口の年齢別内訳
(出典:令和元年度,日本テニス協会「テニス環境実態調査 報告書」)

このグラフを見ると、赤枠の40代の構成比が茶色の30代の構成比を上回っていることが分かります。このことから、おばちゃん、おじちゃんになってからテニスを始める(復帰する)人がある程度いることが分かります。野球やサッカーなど多くのスポーツでは少年少女世代の競技人口が最も多く、年齢とともに競技人口が減っていくモデルになっていると考えられます。一方で、テニスは40代あたりから始めるという競技人口獲得のルートが確立されており、するスポーツとしては安定的な成長をしていくように考えられます。

スター選手の活躍に頼るしかない「観るスポーツ」としてのテニス


 観るスポーツとしてのテニスはどうでしょうか。私の感覚的には錦織圭選手や大坂なおみ選手のようなトップ選手が活躍している時期には盛り上がり、それ以外の時期では下火にあるような感覚があります。
 この感覚を早稲田大学スポーツ科学部教授の平田竹男先生の「トリプルミッションモデル」を用いて考えていきたいと思います。


トリプルミッションモデル

 以上の図がトリプルミッションモデルを表したものになります。「勝利」によって「普及」が促進したり、「資金」獲得につながったりする。「普及」することによって「勝利」につながったり、「資金」獲得につながったりする。「資金」を獲得することによって「勝利」に向けた投資や、「普及」に向けた投資が行える。以上のような相互関係は根幹にある「理念」の元実行される。というものです。


テニスにおけるトリプルミッションモデル

 テニスにおける現状のトリプルミッションモデルは以上の通りだと思います。「勝利」を起点として好循環が回る仕組みになっていると思うのですが、「勝利」のハードルが非常に高くなっている状態です。グランドスラムでの勝利が無いと、なかなか関心や投資につながってこないという状況です。日本選手のレベルがかなり高くなっているとはいえ、グランドスラムでの勝利を前提としたトリプルミッションモデルは長期的に見て不安定だと思います。
 こうした現状において、私の提案は以下の2点です。
①    「勝利」のハードルをなるべく下げる
②    「普及」を起点としたトリプルミッションモデルの好循環を目指す

「勝利」のハードルをなるべく下げる

 日本人選手や推しの選手が活躍することによって、その競技が好きになったり、金銭的な支援をしたくなったりするというのはどの競技でも当てはまると思います。ただし、ここで論点にしたいのは、
勝利=グランドスラムでの勝利
という前提を覆せないかということです。
 サッカーJリーグや日本のプロ野球では毎年勝者が生まれ、それを起点に盛り上がります。このように、「勝利」が毎年生まれているというのがサッカーや野球という人気競技の強みとなっています。「勝利」が国内で完結していると考えてもいいのかもしれません。

Jリーグのトリプルミッションモデル

 次に、箱根駅伝の事例を考えてみます。箱根駅伝よりもトップ選手の集まる大会はいくつもある中で、箱根駅伝の観るスポーツとしての人気は桁違いだと思います。この事例も、世界的なトップレベルでの「勝利」を前提としていない好循環の事例だと思います。

箱根駅伝のトリプルミッションモデル

 さらに、サッカーW杯やラグビーW杯、オリンピックでは、たとえ勝てなくても「普及」や「資金」において好循環が生まれる場合があります。

サッカーのトリプルミッションモデル

 では、この成功例をテニスに当てはめるにはどうしたらいいでしょうか。私は既存大会のブランディングを変更するということを提案したいと思います。男子テニスで言えば、日本人選手の多いジャパンオープンにおいて日本人選手の活躍を大々的に取り上げる。国別対抗戦をワールドカップのように盛り上げる。ということが考えられると思います。
 このように「勝利」のハードルが下がりつつ、グランドスラムでの「勝利」を追求するというのが理想的な形であると考えます。そのうえで、必要だと思うのが以下に述べる、「普及」を起点としたトリプルミッションの好循環です。

「普及」を起点としたトリプルミッションの好循環

 観るスポーツとしてのテニスがどのようにメディア露出していけばよいかということについて議論したいと思います。観戦者を増やすために必要な視点は以下の2通りだと思います。
(a)  テニス競技に詳しくない新規を獲得する
(b)  プレー経験のある玄人を定着させる

メディアは以下のようなアイデアで新規に対するアプローチと玄人に対するアプローチをしていくことが重要になると感じます。

(a) テニス競技に詳しくない新規を獲得する

 まず新規の獲得について議論します。新規獲得の成功例はサッカーやラグビーのW杯であると思います。いずれの大会も協議経験のない新規もテレビ観戦を通して楽しむことができています。その根底には、「勝っても負けても楽しめる構造」にあると思います。実況解説や、報道番組が「わかりやすく、楽しく」報じることによって誰もが楽しめるような演出が行えていると思います。
 例えば松木安太郎さんの解説が分かりやすく、かつ楽しめるため、サッカー初心者として非常に楽しめます。また、ラグビーでは「姫野のジャッカル」などといった選手のトレードマークとなるような言葉が飛び交っています。
 テニスにおいても、「エアケイ」のようなわかりやすいフレーズを広めることによって、実況解説や報道番組においてわかりやすさや楽しさがより伝わり、新規の獲得につながると思います。

(b) プレー経験のある玄人を定着させる

 これを実現するうえで重要だと思うのが、解説の専門性です。サッカー解説者の福西崇史さんは、自身の修士論文でサッカーにおける「起点」を解説することが重要であると述べています。サッカー中継においてはシュートやアシストが注目されがちですが、それに至るまでの過程をリプレーなどを通して解説することによって、競技の奥深さを伝えることができます。
 テニスにおいても、より踏み込んだ解説を映像制作会社と協力して作り上げることが重要だと思います。スーパーショットのシーンばかりを取り上げるのではなく、試合の組み立て方や相手の崩し方、コートサーフェスとの兼ね合い、得意ショットや苦手ショットなど、奥深さを伝えることが玄人の定着につながると考えられます。

まとめ

 「観るスポーツ」としてのテニスを発展させるためには「勝利」のハードルがなるべく下がった状態が理想です。そうはいっても、それの実現は簡単ではありません。そのためのソリューションの一つが「普及」を起点としてトリプルミッションの好循環を生むということになると思います。テニスを観るということの面白さが伝われば、観客は勝敗にあまり左右されず、高い視聴率を維持してくれるのではないかと考えます。

明日はGLOW-スポビズ若手コミュニティ-さんの「GLOWの描くスポーツ業界の未来と可能性」の記事です!


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