シュートが苦手な人は、何度試合に出てもシュートは上手くならない。嚥下も同じだ。
前回は、誤嚥性肺炎を予防するために、嚥下の土台を作る方法
「起立ー着座訓練による全身の筋力向上」
「多職種連携によって実現する頻回な口腔ケア」
「栄養状態の評価」
について紹介しました。
土台の作り方が分かったら、次は嚥下訓練の方法です。5期モデルの評価から訓練方法を紹介していこうと思います。
そもそも、なぜ5期モデルの評価をしなければならないのでしょうか。
それは、筋力トレーニング三原則の中にある特異性が関わっています。
トレーニング効果はトレーニングした内容によって部分的に向上するのです。苦手な所は、ピンポイントで訓練しないと、上達しません。
↑文献(1)より引用
バスケットボールで例えると、シュートが下手な人はシュートを練習しなければ試合で活躍できないのです。シュートが下手なのにドリブルばかり練習しても意味が無いでしょう?
シュートが下手なままで試合経験を何度も積んでも、成長には限界があります。結局はシュートを練習するしかないのです。
嚥下訓練に置き換えて考えます。ムセの原因は準備期の食塊形成不全による早期咽頭流入なのに、咽頭期の訓練ばかりしても意味が無いのです。
何度直接的嚥下訓練をしても、準備期(この場合は持続的な奥舌挙上、ポジショニング調整、舌の可動性向上など)をしなければ、ムセはなくなりません。
評価と訓練は表裏一体にも関わらず、何となくでしか評価していないセラピストが多くいるように感じます。
前置きか長くなりすぎて申し訳ありません。それでは、評価と訓練方法を紹介していきます。
なお、◆は評価方法、★は訓練方法です。
先行期
◆ 食物認知ができず、摂食が円滑にできない
食物への認知ができていれば、全介助で食物を口元へ近づけたときに、自発的に開口してくださいます。自発的開口がない場合、「食物が視野に入っていない」「覚醒不良」「注意障害の影響で注意散漫になっている」が考えられます。
★ 食物が視野に入っていないのであれば・・・
→ 姿勢調整、スプーンを遠くから提示し口元に近づけていく。
当たり前の方法のように思えますが、声掛けと併用して意識的に行うとかなりの効果が期待できます。
★ 覚醒不良であれば・・・
→ PT・OTと連携して離床時間の延長、可能であれば立ち上がり訓練を行い、基盤的な能力の底上げを。
★ 注意障害であれば・・・
→ OTと連携しての注意能力向上訓練を行う。私は、注意能力賦活化課題では、トランプのマーク分け課題をよく行います。論文にて一定の効果が立証されているようです。
また、上肢の機能が保たれているのであれば、食具を持っていただいて自力摂取を促すのも一つの方法です。それだけで食物認知と持続性注意能力は向上し、注意散漫さの軽減につながります。
◆ 口腔内の知覚過敏により摂食を拒否している
私の臨床経験の中で、口腔内の知覚過敏により、食べることを拒否される患者さんが少なからずいました。口腔内の知覚過敏は、口腔ケアの拒否やケア中の頻りな嘔吐反射が目安になると考えています。
★ コミュニケーションが可能、ブクブクうがいが行える患者さんは・・・
→ ST・PT・OTのリハビリの際に、口濯ぎを積極的に行います。嗜好品からでよいので、食事を食べながら脱感作を行っていきましょう。
★ 上記以外の患者さんは・・・
→ 小児で用いるガムラビング法(口唇や頬粘膜を舌で刺激する)を用いて、脱感作を行います。その後、可能な範囲で口腔ケアを行い、摂食へとつなげます。直前に脱感作を行っている分、食物の不快感が少ないです。
準備期
準備期は、食物を「付着性・凝集性・硬さを嚥下に適した状態」になるように変化させる時期です。固形物を提供可能かどうかを判断する時期となります。評価の仕方を紹介しますね。
◆ サクサクテスト
一口大への提供可能かどうかを評価できます。ハッピーターンを提供し、咀嚼から嚥下までが可能であれば食塊形成ができていると判断します。
不良例では、下記画像のようになります。画像の患者様は、咀嚼はできても唾液と混ぜ合わせることができません。
↑文献(1)より引用(画像ではかっぱえびせんを使用)
また、片方のみで噛んでいる場合、舌の食塊移動や頬粘膜の弛緩が関わっている可能性があります。咀嚼中はもちろん、飲み込む前に口腔内を視診することも忘れずに行いましょう。
◆ プロセスリードを用いての咀嚼能力評価
プロセスリードという咀嚼開始食品があるのをご存知でしょうか。サクサクテストはハードルが高い印象がある場合は、私はプロセスリードから咀嚼能力を評価を行うこともあります。また、側頭筋や咬筋の収縮ができていない人や、食塊形成能力が低下している人は、この食品で訓練を行うこともあります。
※プロセスリードが問題なく食べれるからといって、一口大が提供可能とはなりません。プロセスリードはあくまでも、咀嚼開始用食品だからです。
★ 左右の臼歯への食物移動が苦手であれば・・・
→ガーゼでグミを包み、デンタルフロスで縛った物を咀嚼する訓練が効果的です。舌の食塊移動には、内舌筋である上従舌筋の片方を上げる「舌のひねり動作」と、外舌筋を用いた舌の左右移動能力が必要になります。
★ 頬粘膜の筋収縮が弱く残渣が多いのならば・・
→麻痺側の頬粘膜の収縮の弱さと同時に、口唇閉鎖不全がみられることが多いです。口輪筋と頬筋は隣接しているため、口輪筋を鍛えると、頬筋の筋力も向上します。しているADLからできる訓練としては、ストローでの飲水があります。「単純に口唇を力強く閉鎖するより、ストローから吸引させるほうが35パーセントも筋活動が上がっていた」との報告もあります。認知面の低下している人でも適応であることが多く、リハビリ時間以外でも施行可能ですので、ぜひ行ってみてください。
口腔期
咽頭への送り込み動作は、アンカー機能が有名ですね。
アンカー機能が失われると、口腔期の障害は顕著となります。
また、舌尖を口蓋へ強く押し付けた状態(アンカー増強)での嚥下は、そうでない嚥下に比べ、舌根部・咽頭後壁接触時間、喉頭閉鎖時間、食道入口部改題時間が長くなったとの報告もあり、咽頭期へのアプローチにも用いられます。
◆ アンカー機能の評価(視診)
アンカー機能が失われると、舌背や口蓋の食物残渣が多くなります。頬粘膜に残渣がある場合は、食塊形成不全の原因は準備期ですので間違えないように気を付けてください。
その他に、三食経口摂取しているにも関わらず舌苔がみられる方は、口蓋への舌の接触が不十分である可能性があります。
◆ アンカー機能の評価(触診)(参考程度で)
ネットで検索してもアンカー機能の触診についてはヒットしませんでした。私は患者さんの嚥下を評価する際には、顎下に触れてアンカー機能が働いているかを評価しています。視診での残渣の有無でも評価が可能ですが、評価数は多い方がよいと考え、補助的な手段として用いています。
触診でのアンカー機能評価練習は、ぼっち での練習と ペア での練習方法があります。
ぼっでの練習方法、アンカー機能を使った場合と使わない場合の違いを手指で感じています。
ペアで行うときには、アンカー機能出現の違いをクイズ形式にして、感じ取っています。
★ ストロー押しつぶし訓練
(認知面が保たれている患者様対象)
ストローを舌尖部まで入れて、前歯でストローを噛んだ状態で、舌と口蓋でストローを潰します。20kPa程度の負荷が得られ、実施後のストローが楕円形になっていれば、しっかりとつぶせていると判断することができます。
断続的な押しつぶしは20回2セット、持続的な押しつぶしは10秒2セットを目安に行ってください。
↑ストロー押し潰しの可視化
文献(1)より引用
★ ストロー押しつぶしをしながらの空嚥下訓練
ストロー押しつぶし訓練に慣れてきたら、押しつぶしをながら空嚥下する訓練へ移行しましょう。そして、患者様が口蓋に舌尖を押し付ける感覚が分かってきたら、ストローをなくして、フリーの状態で空嚥下をしていただいてください。STはこの時に、顎下の触診を行い、フィードバックを行います。最後に水分で直接的嚥下訓練を行っていきます。
口頭指示だけでは、患者様にアンカー機能を伝えることは難しいです。このようにスモールステップで指導していけば、患者様も無理なく、感覚的に理解することができます。
咽頭期
◆ 聴診
嚥下聴診の方法は、詳しくは専門書に譲りますが、異常音と正常音の違いは判断できたほうが良いと思います。嚥下聴診マイクがあれば、食事中に継続して嚥下聴診を行うことができます。これを使えば、ムセる前の咽頭の状態が把握でき、ムセがどのように出現しているかを推測しやすくなります。
◆ 触診
喉頭挙上範囲を評価することにより、咽頭収縮力を評価することが可能です。ただし、喉頭下垂がある場合には1指以上でも嚥下圧を高めることができていない可能性があります。喉頭下垂には、舌骨下垂と喉頭下垂があります。詳しくは下記画像を参照ください。
◆ 視診
嚥下圧が高められていない場合には、努力的な嚥下になり、眉間に皺を寄せながら飲み込むような所見がみられます。咽頭期の障害を疑い、原因の精査を行いましょう。
◆ そのほか、咽頭期の障害として、嚥下圧が高まらない理由を次の項目で評価しながら、咽頭期障害の原因を推測しています。
・軟口蓋挙上能力の評価(開鼻声の有無、軟口蓋挙上の視診)
・声質の評価(気息性嗄声による声帯閉鎖不全、開鼻声の有無)
・頸部筋力(嚥下おでこ体操、シャキア訓練での評価)
・アンカー機能を含めた舌尖、奥舌の挙上能力評価
各項目の訓練方法は、皆さんのお持ちの書物でお調べください。
その他、多職種への情報収集
多職種への情報収集も重要です。以下の点は確認を取っておきましょう。
起立ー着座訓練の適応
PTやOTに依頼して、起立ー着座訓練が可能かを判断していただいてください。これが可能であれば、STでも積極的に訓練内容に追加していきましょう。(誤嚥性肺炎予防、舌骨上筋郡強化目的)
座位耐久性と食具操作能力
どのくらいの食事時間に耐えることができるのか、疲労するとどのような行動が起きるのか(注意散漫さが顕著になる、傾眠になるなど)をOTから聴取してください。
食具の操作能力は自力摂取に繋がります。口元までは持っていけても、口腔内に取り込む動作でエラーが出ることもあります。捕食まで診ていただくようにOTに依頼をしましょう。
炎症値を含む、栄養状態の評価
栄養状態の評価については、こちらに詳しく紹介していますので、よければご覧ください。
リハビリスタッフだからこそ、栄養評価をしよう
炎症値(CRP)が基準値以上の場合、Drに確認し、原因を把握しておきましょう。誤嚥性肺炎ではなく、尿路感染での高値の場合も多いです。
介入中の評価
覚醒
JCSなどで覚醒の評価を行い、直接的嚥下訓練が可能かを判断してください。ムラがあってもかまいません。覚醒がよい状態であればDr許可の後に、飲水評価につなげていきましょう。
聴覚性理解能力
複雑な指示は入りますか?
どの程度指示が入るかによって、実施可能な訓練が変化してきます。
今回のまとめというか、感想
今回は、評価と訓練について紹介しました。咽頭期に関しては、大雑把な感じですみません。書くのに疲れてしまいまして(笑)
ゆくゆくは咽頭期のみ書き直すかもしれません。
スキを貰えると励みになります。よければ、ポチッとお願いします。では、また。
引用文献
(1)機能解剖からよくわかる!「誤嚥」に負けない体をつくる 間接訓練ガイドブック 嚥下の土台からのアプローチ! 大野木宏彰 著
参考文献
脳卒中の摂食嚥下障害 第3版
藤島一郎 谷口洋 著
いただいたサポートは、書籍の購入費用にさせていただきます。より多くの人に、より良い情報発信ができるよう、今後も頑張ります。