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コーンパンの思い出

コンビニでコーンパンを見ると、
必ず、思い出す人がいる。

私がまだ言語聴覚士になって
2、3年目の頃の事だ。
私は、急性期病棟と回復期病棟を
掛け持ちして忙しい毎日を過ごしていた。

リハビリ室に向かうエレベーターでは、
他のリハビリスタッフや患者さんと
一緒に乗り込む事も多い。

今日、思い出す方は、
エレベーターや廊下で出会う
緩和ケア病棟に入院していたAさん。

当時、私が勤務していた病院には、
日本一小さな緩和ケア病棟があった。
そこには、理学療法士、作業療法士が
1名ずつ専従で配属されていた。

言語聴覚士の配属はなかったが、
リハビリ室でや廊下で
自分の担当でない方とも
お話をする機会は多々あった。

Aさんと私は、笑いの感性が似ていて、
すぐに打ち解け、出会うたびに
お互い「何か面白いこと言って笑わそう。」
そんな間柄だった。

ある時、少しずつAさんと
リハビリ室で出会える機会が
減ってきている事に気がついた。

そんな中、Aさんの担当の
作業療法士さんから、こう言われた。
「Aさんが好きなコーンパン、今度
病室で食べようって話になってるんだけど、
八田ちゃんと食べたいって。時間作れる?」

そんな事、言っていただけて正直嬉しかった。 

  
とんちの効いたギャグを最大に交えて、
夕暮れの中、一緒に食べたコーンパン。
その日の事が忘れられない。
Aさんと食べたコーンパン、美味しかった。

「何を食べるかより誰と食べるか」
「食べることは生きること」
良く聞く言葉である。

私は、ある時から、
この二つの言葉を聞くと
苦しくなる事があった。

一緒に食べる相手がいない独居の方
家族がいても孤独を感じている方、
胃瘻で口からは食べられない方
病気の苦しみで食べたくない方
食べたくても身体が受付けない方
徐々に自然と食べられなくなる方

病院を退職して
訪問看護ステーションから
リハビリに行き始め、そんな方も、
たくさん見てきたからだ。

ただ、最近、
ある方のお話から
一つ気づいた事がある。

「何を食べるかより誰と食べるか」
「食べることは生きること」

どちらも、
言葉だけを切り取らずに考える。
誰が、どういう文脈で、
どんな人に向かって
発せられた言葉なのかを考える。

そうする事で、
気付ける事がたくさんあった。
自分が見てきた世界は狭すぎる。
だから、色んな角度から考える。

自分が言葉を発するときも
誰かの言葉を受け取るときも
意識していきたい。

コーンパン、
今日は残念ながら、売り切れだった。
今度見つけたら、いつもよりも
良く噛んで、ゆっくりと味わいたい。
Aさんと一緒に。

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