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とある主婦のGood job days!~Vol.8~風になりたかった私

秋のさわやかな風がナチュマにもふいている。
私はこの時期が一年で一番大好きである。
春は花粉で毎年ぐずぐずしているし、夏は地獄の様な暑さで日常がしんどくなる。それにひきかえ秋は夜ご飯支度の前に小3の息子を連れて近くの河川敷に散歩でもしてみようと思う心の余裕が生まれる季節だ。

そしてナチュマでは栃木県の風谷ファームワイナリーさんから新酒が届く季節でもある。こちらのワインは農薬を使わず自然に寄り添った製法で人気を集めるワイナリーさんだ。ネーミングも面白く、特に私が好きなのが【風あり谷あり】という微発砲の赤ワインだ。

元々、トシオがビールを一年中飲むのでワインなどは特別な日にしか飲まなかったのだがナチュマでの仕事の中で、とっきーがワインの事を話しているのを聞いていると自分もワインの味がわかるような気がしていつの間にかワインのうんちくをトシオに話すほどになっていた。

その【風あり谷あり】はキリっとしていて、でもブドウの果実味がしっかりとして、どこか懐かしい風景が浮かんでくる不思議なワインである。
休みの日に一昔前に流行った映画などを見ながら過ごす午後のひとときにはこのワインはピッタリである。
このワインを飲みながらボトルの風という文字をみると私は小学校の時憧れていた“風早麗子”ちゃんの事を思い出す。

風早さんは小学校2年生から5年生の時まで同じクラスだった。彼女は初めて会ったときから既に完成された一人の人間だった。黒目がちの瞳の中には星がキラキラしていたし、ツヤツヤの長い黒髪はいつも天使の輪がきらめいていた。田舎の学校ではセンセーショナルな存在だったと思う。そのビジュアルだけではない、勉強も一番でスポーツも一番。天は彼女に全てを与えたのだ。田舎の何もない田んぼ道にいきなり見た事もないお花が咲きほこるイングリッシュガーデンが出てきたような、民衆に夢を与える存在であったのは間違いない。

風早さんとは対照的にまるでエレガンスにかけた生活をしていた私の様な民衆にもとてつもなく優しく、そして無邪気に接してくれた。
私が描いたギャグマンガを見て
「ハナちゃん、本当に才能あるよ!」とキラキラの瞳でけらけら笑ってくれた。彼女に褒められたギャグマンガは当時の私の宝箱の特等席にしまってあった。とにかく心も美しい、特別な女の子だった。

私は風早ファングラブの一員だったので彼女が編み物を始めたと聞くとすぐ教えて欲しいと他の民衆と共に彼女の所にかけつけた。

今考えると信じられないと思うのだが小学生で自作の手編みのニットを着たりキルティングで作った鞄を手作りしていたのだ。ニットはその当時の子供が着ないような大人っぽいアラン編みというおしゃれなデザインで、その作品たちを日替わりで学校に着て通っていた。ただものではない。

私は彼女とはその後違うクラスになったが、ファンクラブの一員だったので彼女の成長を民衆と共に見守っていたのである。
そして別の高校で過ごしているうちに私は風早さんの事をすっかり忘れていた。
もうそれからどれくらいの時間がたってからだろう、風の便りで彼女は高校時代に知り合った男性と結婚して2人の子供を授かったが旦那さんの事業が失敗して夜逃げ同然で街から出て行ったと。
風早さんにそんな未来は似合わない。嘘であってくれと思った。
私は彼女のきらめきの時代しか知らない。小学生時代が人生の頂点だったのかもしれない。でも元ファンクラブの一員として言いたい、風早さんの魅力は時空を超えて永遠だよ、と。
頂点から落ちる経験をしてあの天使の様なきらめきは失ったかもしれない。でもそんな経験をした風早さんはきっと更に人間味のある素敵な大人になっている、そう信じたい。

風という名のワインから色んな記憶が呼び起こされた風が心地いいある秋の日であった。

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