ずっとずっと昔にもいた困った人たち~テオプラストス著「人さまざま」のこと
本書「人さまざま」の著者、テオプラストスをご存じでしょうか?
いや、聞いたことないぞ、というそんなあなたのために、まずはこの著者についてご説明しましょう。
本書の著者テオプラストスはギリシャ時代の学者です。その生涯については、実はあまりよく分かっていませんが、99歳まで生きたとか、107歳まで生きた、という説もあるようです。
彼が生まれたのは恐らく紀元前372年。レスポス島エレソスの、町の漂白業者の息子として生まれました。当時の漂白業者というのはとても裕福な業者であり、彼の父もまたその一人だったようです。
幼少時から学問に優れた才能を見せた彼は、当時の知の最高峰であったアリストテレスの元に向います。そこで彼はアリストテレスに教えを乞うようになるのです。
ちなみに彼の名前テオプラストスというのは、実はあだ名なのですね。その意味は「神のごとく話す人」。そしてそう命名したのは師のアリストテレスだというのだから、当時彼がいかにすごい人であったかということがうかがえますね。
しかも彼はアリストテレスの没後、アカデメイアを引き継いで二代目の総長となるのです。
そう、めっちゃすごい人なんですよ、この人。
そんなテオプラストスは生前多くの著書を遺したようですが、現在唯一残っている著書がこの、「人さまざま」なのです。
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ではこの作品は一体どういうものなのか。
この本で彼は、当時生きていた民衆の姿を生き生きとスケッチしていきます。
で、目次はこんな感じ。
空とぼけ
へつらい
無駄口
粗野
お愛想
無頼
おしゃべり
噂好き
恥知らず
……と続くのですが、もしかするとお気づきになった方もいるかもしれません。そう、この本に収められている人々、何とそれは困った人ばかりなのですね。
ええ、今も昔もいるのですね、そういう人たちというのは。(え? なに自分のことを棚に上げてんだって?)
例えば僕が好きなのは12番目、「頓馬(とんま)」の項目。
「頓馬とは、たまたまかかわりをもった人たちに、相手を苛立たせるような話をしかけることである。そこで、頓馬な人とは、およそつぎのようなものである。
すなわち、忙しくしている人のところへ出かけて、相談を持ちかける。
また、自分の恋人が病気で熱を出しているときに、彼女の前でセレナーデ(恋の唄)をうたう。
また、保釈保証人を請け負って、その裁判に負けた人のところへ出かけ、自分の保釈保証人になってもらいたいと依頼する。
また……」
と、このあと頓馬の要素がまだまだ10個も続くのです。「もういいって。もう、やめたげてーっ」てなりますw めっちゃ楽しいですね☆(こら)
とは言え、「なんだ、人の悪口ばっかり言ってる本か」だなんて思ってはいけません。実は、そういうことではないのです。
というのはこの本、本当は人の悪の性質とは別に、人の善の性質のみをスケッチした部分もあったらしいのです。善の性質と悪の性質を合わせて一つの作品だったそうなのです。
ところが、時の流れの中でその善の性質を描いた部分だけが失われてしまった。そのため、今僕たちが読めるのはいわばこの作品の半分、悪の性質の部分のみなのです。
とても残念なことですよね。そう、これは悲しい話なのです。決して笑ったり、面白がったりしてはいけないのです。
……でもね、よく考えたら不思議だと思いませんか?
だってこの本が人の悪口を言った部分だけ残っている、ということは、恐らくそこだけを切り取って大切にしまいこんでいた人がいる、ということじゃないですか。
おい、誰だよ、そいつw どんな趣味してんだよw いや、と言いつつその気持ち、実は分からなくもないけれどもww
いえいえ、いけません。そんな風に面白がっては。そういう人がいたからこそ、僕たちはこの作品を半分だけでも読むことができるのです。むしろその人に感謝するべきなのです。
そういうことですから、この本を「人の悪口のオンパレードだぜ! うっひょー!」なんて不純な動機で読んだりしてはいけません。著者はそんなつもりじゃないのですから。
テオプラストスも現在のこの状況に、あの世でさぞ憤っていることでしょう。
……いやそれとも、あの世で改訂版を出版しているでしょうか。悪の性質に「おっちょこちょい」なんて項目を付け足したりして。
「おっちょこちょいとは、人の著書を勝手に破いて悪い部分だけ残してしまうような者のことである。または、そんなことをされてしまう本の著者のことを言う。そこで、おっちょこちょいな人とは、およそつぎのようなものである。
すなわち……」
なんてww 自虐ネタかwww
いやいや、いけません、いけません。そんなありもしない項目を付け足して面白がっては。著者への冒涜にもほどがある!(上の引用文は僕の創作です)
これは笑い事ではないのです。とても困ったことなのです! そうではありませんか?
……ま、とは言え面白いんですけどね。だって……結局他人事だもの。(あ、言っちゃったw)
「悪態とは、なにを口にしても、悪口になってしまう心の性癖である。そこで、悪態をつく人とは、およそつぎのようなものである。
(中略)
また、とりわけ友人や一族につながる者、さらには死者までも、言論の自由、民主主義、自由な精神、そうした言葉を誤用しながら、口汚く罵り、それをこの世での最大の愉しみとさえしている。
[このようにして、ひねくれた性質のままにあやつられていると、やがてはその人の性格を、狂気じみ、正気を失ったものにしてしまう。]」
……反省m(_ _;)m
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