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子どもたちの心に花のつぼみを 〜レイチェル・カーソン著「センス・オブ・ワンダー」のこと

数年前、桜が満開の頃の話です。

当時中学生だった甥っ子兄弟が帰省していたので、せっかくだからというので近くまで桜を観に行こうよ、ということになりました。

大人たちはみんな乗り気で、天気も良いので行こう行こうとなったのですが、問題は甥っ子兄弟です。

彼らは「行きたくなーい! めんどくさーい! 興味なーい!」と駄々をこね始めました。

それでも無理やり連れだしたのですが、彼らは桜なんてちっとも見ようとせず、大人たちが「ほら、きれいだよ」と言っても「ふうん」と言ってまったく興味を示してくれません。

そんな感じで大人たちだけがワイワイはしゃいで花見を楽しみ、帰ってくると子どもたちは「やれやれ」といった様子でゲームをし始めたのでした。中学生の少年にとっては「花よりゲーム」ですよね……

まあ、仕方ないのかなあとも思うのです。僕も彼らの年頃は、そうだったような気がします。

花を見て喜ぶなんてなんだか女の子みたいだし、それに大人が喜ぶものを受け入れるのもなんだか癪だしな、なんて、そんなことを思ってたような気がします。

すっかり忘れていたのですが、僕はその場所に初めて行ったと思っていたのです。でも実は幼いころに両親に何度もつれてきてもらっていたことを、その場所に着いた時、ふと思い出したのでした。

彼らももしかしたらいつの日か、たとえば結婚して自分の子どもが生まれたときなんかに再びその場所を訪れるようなことがあれば、あの日のことをふと思い出すのかもしれません。

まあ、僕だって、思い起こせば自然の景色を楽しむなんて、それこそ女の子とデートをするようになるまではまったく興味を持っていなかった、なんてこと、甥っ子たちには内緒です。

でもそんな僕が、自分が大人になると子どもたちを無理矢理花見に連れて行こうとするのです。我ながらほんとに大人って自分勝手w

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で、本書の話です。本書は初め、「あなたの子どもに驚異の目をみはらせよう」という題名だったそうです。そして共に過ごし、一緒に自然を冒険した姪の息子ロジャーのために書かれたものだということです。

作者は言います。

多くの親は、熱心で繊細な子どもの好奇心にふれるたびに、さまざまな生きものたちが住む複雑な自然界について自分がなにも知らないことに気づき、しばしば、どうしてよいかわからなくなります。そして、
「自分の子どもに自然のことを教えるなんて、どうしたらできるというのでしょう。わたしは、そこにいる鳥の名前すら知らないのに!」
 と嘆きの声をあげるのです。

僕自身、この「多くの親」に強く共感するのです。なんたって僕はほんのついこの間まで、ウグイスが本当は鶯色じゃない、なんてことも知らなかったぐらいですから。

でも、作者は言うのです。

わたしは、子どもにとっても、どのようにして子どもを教育すべきか頭をなやませている親にとっても、「知る」ことは「感じる」ことの半分も重要ではないと固く信じています。

本書のロジャーのように、自然に触れさせたら「わあ、すごい!」なんて大人の喜ぶような反応をしてくれると嬉しいのだけれど、まあ、現実にはほとんどの子どもたちはそんなことはしてくれませんよね。

でも、そういう経験はきっと、たとえその時はふてくされた顔をしていたとしても彼らの心の中に小さなつぼみをつけると思うのです。

そのつぼみが花になるのは、もしかしたら5年後かもしれないし、10年後かもしれない。もっともっと先のことかもしれない。それは子どもたちの勝手。

でもきっと、大人の責任というのは、そういうつぼみを彼らの中に与え続けていくこと。

彼らの中で花が咲く時期が訪れたとき、もうそれが手遅れになってしまっていることのないようにすること。

この小さな本は、多くの読者の心の中の小さなつぼみを開花させてくれるでしょう。

その花は今僕たちがどこかで自然と触れ合えるということが、決して当たり前のことなんかじゃないということを教えてくれます。

そして今僕たちがここにいるということもまた、両親や子どもたちや友人や、そんないろんな当たり前じゃない縁によるものだということも。

ということで、我が愛する甥っ子たちも僕のようなめんどくさいおじさんとの縁は切っても切れないということを、あきらめてもらうしかないのでした。残念でしたw

地球の美しさと神秘を感じとれる人は、科学者であろうとなかろうと、人生に飽きて疲れたり、孤独にさいなまれることはけっしてないでしょう。たとえ生活のなかで苦しみや心配事があったとしても、かならずや、内面的な満足感と、生きていることへの新たなよろこびへ通ずる小道を見つけ出すことができると信じます。 


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