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【夏の庭】没頭できた若き日の思い出が溢れ出す

小学生の私の憧れは、アイドルでもなくアニメのキャラクターでもなく、身近にいる友達でした。

キラキラしたものを身につけている友達や、スローペースで可愛いらしい喋り方をする友達の真似っこばかりしていました。

自分もああなりたい!というターゲットが定まれば、あとはじっと観察するのみ。何か大きな変化が起きるわけでもないのに、観察そのものに没頭してしまうのです。

もちろん、相手にバレてしまってはいけません。あくまでも自然を装い「類は友を呼ぶ」と片付けられる程度にマネするのがポイント。

それほど人を観察していたからか、過去の思い出を詳細に語れる特技があります。出来事というよりも、人単位で覚えているのです。

少々ストーカー気質に見えなくもない特技ですが、自己が確立してないからこそ、自分よりちょっと先を行く友達を見つけては観察し、真似っこしたがっていたところがあるのかもしれません。

私の観察対象は''憧れ''というものさしで決定づけられるわけですが「なぜそんなに観察するの?」と観察魔であった私でもツッコミをいれたくなるのが、湯本香樹実さんの「夏の庭」。

※ネタバレは避けます。

生ける屍のような老人が「まもなく死ぬのでは?」と物珍しさで観察し始める少年たち。
だが、そんなこっそり観察していたのも束の間、すぐにバレてしまい、そこから老人と少年の交流が始まります。

死ぬということは''息をしていない''状態だと思っていた、と語る木山。しかし、老人と関わっていくうちに、''生きている''とはゴミを出したりスイカを食べておいしいと思ったり、そんな些細な行動や感情をかき集めたものなのだと気づきます。

死ぬということは、自分たちの世界の先でもなく奥でもなく、すぐそばにある。ただの観察から始まった少年たちの冒険は、夏のカラリとした暑さとともに終わりを迎えていきます...

猛暑が続く昨今の夏、昔の思い出とともに「夏の庭」をぜひ読んでみてはいかがですか。

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