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#28 ショートショート

題名:【鴨ねぎ】

通学路に花束が置かれていた。
不思議に思い、その周辺をよく見ると、花束の近くのコンクリートの一部が赤黒く変色していた。
赤黒い滲みと花束は不釣り合いにも思われるが...。
何でこんな所に花束なんか置いてんだろう...。

この2つが奏でる音は、どう考えても不協和音だけど、でもどこかその奥には調和が見える気もする。
花束以外にこの赤黒い色に合う物って何だろう...?

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よく通うコンビニエンスストアに入る。
愛想が悪く、いつも疲れきった顔をしている白髪のおばさんがレジの前に立っている。
商品を選び、そのおばさんの所へ持っていくと、おばさんの後方にあったはずのオレンジ色をしたカラーボールが1つ無くなっていることに気づいた。
この間までは、もう1つあったような...。
その証拠に、今あるカラーボールの右隣にはもう1つ置けるような窪みがある。
このおばさんが何かに使ったんだな...。

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お店を出ると、どこか不穏な感じを覚えた。

赤黒い染みと花束。 白髪の疲れ果てたおばさんと紛失したオレンジ色のカラーボール。

これら全ては独立したただの物質であり、僕が見たのはそれらの独立した物質達が絡み合った、ただの1つの事象でしかない。
でも、何でこんな不穏さがあるのだろう。

僕は不思議に感じながらも、今日あった授業の事を思い出した。
理科の甲野先生の授業だ。

いいか。
水素「H」という原子が2つと酸素「O」という原子が1つ組み合わさると、お前らがよく知っている、水「H2O」になるんだ。
元素はそれぞれで独立しているはずなのに、そいつらを組み合わせるとまた異なる物質が出来上がる。
面白いだろ?


じゃあお前らこの化学式を知ってるか?
HNO3+3 HCl
つまり、濃塩酸と濃硝酸を3:1の体積比で混合してできるということだな。
この化学式できるのは「王水」というものだ。橙赤色の液体をしている。
この王水はな、酸化性が非常に強くて金などの貴金属も溶かしちまうんだ。
人間にとっては、非常に危険な猛毒だよ。
とまあ、余談はここまでとして、
俺が何を言いたいのかというと今挙げた化学式の中の元素を見て欲しいんだ。水素と窒素、酸素、塩素の4つだ。
「すいへーりーべーぼくのふね...。」って感じで覚えた元素記号の中にも入ってるやつらだな。
先程言ったがこの4つの元素達はそれぞれで既に独立している。
しかしながら、ある一定の条件下でこれらを組み合わせると猛毒になる。
つまり、お前たちの周りには、常に危険が付きまとっているという事だ。
その事をよく覚えておくように。

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赤黒い染みと花束、白髪の疲れ果てたおばさんとオレンジ色のカラーボール...。

この4つの元素が組み合わさった時に見られるのは、水のように誰にでも愛される存在だろうか。或いは王水のような猛毒となり、恐れられ、陰湿さや不気味さを兼ね備える存在になるだろうか...。

今のこの不穏な感じを見てみるとおそらく後者の事象ができあがったようである。


でも...と僕は思う。
不気味で、恐ろしく、陰湿さを兼ね備えている先程の4つの元素ではあるが、その中に美しさや調和を感じられるのは何故だろうか...。

もしかして、この4つの元素は生まれた段階から、この4つが組み合わさる事を知っていたのではないか?
自然界或いは人間界の作用によって、偶然引き寄せられた4つの元素が偶然結合した。いや、偶然することができた。
ここに美しさを感じているのかもしれない。

私たちは生まれながらにして、善にも悪にもなれる。
まるでパレットに落とした白色の絵の具のように。
この白色の周りには様々な色が置かれている。
傾けるか揺れるかして、白色に新たな色が加わる。
この加わった色がどす黒くえぐい色であろうと、爽やかで鮮やかな色であろうと、数ある色の中でこの白色と組み合わさることができた色に対して美的感覚を覚える。

赤黒い染みと花束。白髪で疲れ果てたおばさんとオレンジ色のカラーボール。

一件不気味ではあるが、互いが結合した美しさは計り知れないほど美しい。



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