壮大な愚痴…

 革命という言葉の響きは、何故かいつもどこかかっこいい。古い慣習や既得権益にしがみついている老害が、新しい世代、若い人たちに取って変わられるような、新陳代謝の心地よさを孕んでいるからだろうか。
 人間は、いつだって新しいものを求めている。人間を人間たらしめているものは、脳でも、心臓でもなく、心の底から沸々と沸き続ける飽くなき探求心と底なし沼のような欲求だろう。テレビ、パソコン、インターネット、スマートフォン、自動運転自動車、宇宙旅行、火星移住、、、その次は何が来るのか。そして、その次の次は何が来るのだろうか。いずれにせよ新しく発明されるものの全てが等しく、人間から、人間的な活動をどんどん排除していくもの、奪い取っていくものであるという点は何とも皮肉だと思う。

 世相を映した、、、とでも言うべきだろうか。昨年度まで、木村だとか吉田だとか、ありふれた名字の若者が隣の席に配属され、そこはかとないやる気の無さと、溢れ出る定時体調精神で、私を幾度となく幻滅させてきたが、今年はついに60過ぎの爺さんが配属された。いわゆる嘱託社員というやつだ。あくまで本人からの伝聞だが、どうやら会社とは1年更新の契約を結んでいるらしい。
 40手前の私が、コロナも明けて頻繁に開催されるようになった突発的な飲み会の席で「それにしても最近の若いやつは…」と口にするようになったときは自身でも驚きを禁じ得なかったし、私の妻といえば、私が想定外の出費を重ねるたびに驚きを通り越して呆れ果て、そして日々、激高している有様だ。弱小サラリーマンにとっての救いは一体どこにあるのだろうか。
 
 私自身、決して出世コースに乗った人間ではない。その程度の若者しか配属されないポジションの係長くんだりを長らく任されているということは、私自身、その程度の人間でしかないのだ。そんなことくらい分かっている。しかし、それにしたって隣に配属される社員が、一応未来のある若者だったものが、突如、老人にすり替わったのだ。若者に比して未来への可能性が明らかに乏しい老人が配属されたということは、もうお前の係そのものが会社の中で必要性の低い係なんだよ、、、と言われているようにしか聞こえない。
 迫りくるリストラの足音、残るローン残高、成人まで未だ15年以上の長期間を要する子ども達。どこかで見たドラマの、どこかで読んだ小説や漫画の、うだつの上がらない親父の典型に片足を突っ込んでいる自分。遠くの方から革命のファンファーレが聞こえてくるような気がする。そう、私は、現状を打破するために革命を起こさなければならないのだ。
 
 しかし、作り話のように、物事は急激に展開したりなどしない。ありふれた日常が、当たり前のように毎日過ぎ去っていく。残業続きで家族とほとんど過ごす時間がないものの収入額はそれなりの月と、残業がほとんどなくジリ貧だが家族と過ごす時間が十二分に確保できている月と、尊いのは間違いなく後者なのだ。革命など起こさずとも、無意識的に、盲目的に、今の会社にしがみつきながら、何とかしてリストラさえ逃れられれば、それで幸せじゃないか。齢40弱で何のスキルも国家資格も持ち合わせていないおっさんの転職市場価値など、ゼロに等しい。ビズリーチでも、レバテックでも、私が転職する先を見つけてくることは極めて困難に違いないのだ。
 
 そんな私が未来に向かって出来る努力といえば、子ども達を寝かしつけたあと夜な夜な勉強に励み、新たな国家資格を取得してスキルアップやキャリアアップを目指すことでもなく、職場に噛りついて死ぬほど意味のない残業を重ねることでもない。気付いたら、いつの間にか会社の役員にまで上り詰めていた〇〇専務や▲▲常務など、昔取った杵柄で今も仲良くしてくださっている重役の方々が楽しめる宴会をセッティングし、その方々とのパイプを必死に繋いでおくことだけだ。

 最近の若者は酒を飲まないと言われているが、若者だって飲むやつは飲む。お酒を飲んでも良いなと思う場面を、昔よりもシビアに厳選しているだけだ。向上心の強い者を何となく選別していけば、男性でも女性でも、役員とフランクに飲めるとなったら快く宴席に参加してくれることが多い。そうしてギラギラした若者と酒を飲み交わせば、役員の方々も、私とサシでしっぽり飲みながら冴えない顔で愚痴ってばかりいるときからは想像できないほど、見違えるほどキラキラと輝いて見える。役員にまで上り詰めた人だ。詰まらない武勇伝ばかりに花を咲かせたりしない。若者の話によく耳を傾け、場合によっては若者が語るビジネスアイデアから着想を得ることだってある。新規プロジェクトに繋がっていくこともあり得る。抜擢されれば若者にとっても、キャリアを積み上げていく上で、大切なステップになるだろう。

 私自身は、大した仕事はできないのだ。隣に配属された60歳過ぎの嘱託職員は、積極性も主体性もなく、私が言われた仕事一つまともにこなせない。おそらく、そもそもこなそうともしていない。たった1年だけ、とりあえずこの会社にしがみついて、なにがしかの収入を得られればいいと思っているに違いないのだ。指導力のない私は、そんなポンコツを指導して仕事をさせることすらままならない。去年まで、担当者がやってくれていた仕事を黙々と自分でこなす始末。仕事のできないおっさんの典型ではないか。
 しかし、そんなおっさんでも、役員と将来有望な若者を引き合わせて革命を起こすことくらい出来るのだ。歴史を辿れば、革命家はいつだって非凡な才能の持ち主であるわけではなく、革命家自身は割と普通のおっさんだったりするのだ。ただ、そのおっさんは、人と人と上手く繋ぎ合わせて、前代未聞のエネルギーを発揮する組み合わせを偶然掘り当てるだけの才覚を持ち合わせていたに違いないのだ。
 
 2024年度が始まって、早いもので2か月が経過した。
 本当にろくでもない体制でスタートを切り、連休明けで疲弊してきたところで、久々に筆を執ったところ、最初はただの愚痴を書き連ねるつもりだったのが、結果的になんとも壮大な愚痴となってしまった。

 また明日から、仕事を頑張ろうと思う。家族のために、未来ある若者のために。革命を起こすために。。。笑

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?