見出し画像

1.文学フリマ 出店までのワケ探し

 2023年5月、文学フリマ東京36に大学の友人とともに初出店を遂げた。ビギナーズラックか、努力の結果なのかは分からないが私たちのブース(ろくまる社)は盛況だった。
 文学フリマ(以下、文フリ)に出るにあたり、多くの場面で出店に至った経緯を話したり書いたりした。文フリとの出会いは2022年秋。一般参加として遊びに行き、両手いっぱいに作品を買い、その面白さや雰囲気を魅入られた。その数日後、「出店したい」と思い立った友人に誘われ、今年5月に開催された文フリに出店した。しかし、出店を決意するまでに頭の中にはウジャウジャと葛藤が渦巻いていたのだ。

『本番嫌い症候群』の私

 幼い頃から『本番』というものが苦手で嫌いだった。幼稚園生の頃からやっていた卓球は練習は好きだが試合は嫌いだった。「何のために練習しているのか」と問われれば上手く答えられない。「上手くなるのが楽しい」ということしか考えていなかっただろう。小学生を対象にした子供卓球教室では時折試合をしていたが、本当に嫌だった。
 試合が嫌な理由は主に2つ。1つ目は負けたら悔しいこと。2つ目は、父が卓球をしていて私は周りの同学年より少し上手かった(と自分では思っているが、大したことはない)。それゆえに、上級生とやったり、気まずさを感じたり、変に目立ちそうになったりするのが嫌だった。恐らく争うという行為そのもの、人と比べる瞬間に立ち会うのが苦手ということなのだろう。負けた瞬間、劣った瞬間に自分自身のこれまでの努力をないものにされる感覚が嫌いだ。ただ、練習は好きで、ひたすら打ったりしていた。

 本番嫌いは卓球に限った話ではない。音楽会の発表会、プレゼンテーション、テスト、入試、etc……。大勢の前で話すときは、緊張で声が震えてしまうし、頭の中が真っ白で、汗をダラダラかいてしまう。受験勉強も勉強自体は特別嫌ではなかったが、模試や入試など目に見えて結果が出るのが怖くて嫌いだった。小・中で委員長など役職を全うすることはあれど、自分に自信がないため目立つのが嫌だった。

 だから、文フリも例に漏れず、出店することに最初消極的だった。出店するとなれば、「あの子文フリ出るんだって」と思われるに違いない、上手くいくか分からないのに、と頭の中をグルグルグルグル……。
 雑誌記事を作ることは好きだし、写真を撮ることも好きで……でも大勢の人に見てもらうことなど当時は考えたこともなかった。「私の作品なんか他の人が買うわけない」とそればかり考えていた。それに加え、時間をかけ作った作品が売れずに失敗に終わることが怖かったのかもしれない。

私って「大学生活なにしてた?」

 文フリに出店者として参加するなんて……と悶々としていて「出たくなければ出なければいい」というのが正解だ。しかし、こんなにも悩んだ理由がある。それは「大学生活で何か成し遂げたことはあるか?」ということ。この問いを投げかけられたら、恐らく言葉が詰まってしまうだろう、いや確実に。
 コロナ1年目である2020年に大学に入学し、初年度はほぼオンラインだった。サークルに入るタイミングも失い、消極的な学生生活を送っていたのだ。そんな生活で大学生活で成し遂げたものは何もない。だからこそ、文フリに出れば何か思い出になるのではないか、と考え、参加をするか葛藤をしていた。

 大学では「出版」や「編集」について学び、実際にInDesignなどAdobe製品を用いて、ポスターや雑誌記事、インタビュー記事、ウェブサイトの制作をしている。制作に打ち込み、作品はあるがそれを学外に出したことはなかった。「私は作品を作っていただけで何も誇れるものがないのでは?」と気づいてしまった。学術的なことを学んでいるわけでもないため、研究もしていない。この事実により大学生活を後ろめたく感じていた。
 この後ろめたさをなくすためには……文学フリマに参加するしかない。そう思ったのだ。

友人のゴリ押し「出ようよ」 

 これまでに参加か不参加かとグルグル葛藤していた。しかし一番の決め手は何ものでもない、友人のゴリ押しだったのではないかと今では考えている。もちろん参加を決めたのは自分自身であるが、最後の背中を押したのは他でもない友人だっただろう。
 この友人は共に文学フリマを見て、面白さに魅入られ出店したいとすぐに言っていた。ゼミの教員もこの友人に「出たらいいじゃん」と勧めていた。2人の様子をはたから見ていた私は、参加することへの羨ましさと私なんかという気持ちを持っていた。「一緒に出ようよ」と最初に誘われたときには、「就活が……」「卒業制作が……」と断る言い訳ばかりを考えていた。

 しかしある日突然のことだった。「これまでの私であれば確実に誘いを断っているが、もしかしたら参加してもいいのかもしれない。結果がどうなるにしろ、参加すること自体に意義があるのかもしれない。大学生活が少しでも良かったものになるかもしれない」とこれまでの葛藤に見切りがついたのだ。この変化は友人に誘ってもらわなければ現れなかっただろう。

『本番嫌い症候群』は克服になったのか?参加するとなればやる気100%

 本番嫌い症候群が発症したにも関わらず文学フリマに参加を決めた。参加すると決まれば、気持ちの切り替えが死ぬほど早い。参加を決めるまでは必至に断る理由を探していたが、参加が決まってからは参加する理由が溢れてきた。「卒業制作の息抜きに」「大学生活の思い出に」「制作物の集大成として」「新たなことに挑戦したかった」「実際に入稿して製本されたものを作ってみたかったから」と理由が溢れ、参加のためのワケを探し続ける。

 出店までの制作や入稿、当日の設営まで忙しない日々が続いた。制作をしつつも大学の課題、卒業制作、就職活動が同時進行であっという間だった。忙しさを理由に参加しない言い訳をしていたものの、実際その忙しさに直面すれば何とかなるのだ。おかげでタスク管理やスケジュール管理を見つめ直すきっかけになったのだ。月並みな言葉になってしまうが、実際に文フリに参加すること以上に多くの学びを得られたと今では思っている。

 文フリをきっかけに『本番嫌い症候群』を少し乗り越えたかもしれない。秋の文フリもメンバーを変え引き継ぎつつ出店が決まった。今のところ何か出す予定はないが、何か新しいことに少しでも挑戦したいと前向きである。

 本番嫌いは少し乗り越えられたかもしれないが、今後も恐らく断る理由や挑戦しない理由を探し続けるのだろう。そして、断った後に、断ってよかったと思うワケも探し続ける。しかし、今ここに書き記したことを読み直して参加する、挑戦するワケを見つけられたら、書いた意味があると思いたい。

 最後になったが、一緒に参加した友人や支援してくださった先生、当日実際に遊びに来てくれた友人たち、買って下さった皆様、全員に感謝をしている。文フリでつながった縁もあり、本当に挑戦してよかった。


この記事が参加している募集

#文学フリマ

11,637件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?