新型コロナ関連の「制限」がメンタルヘルスに及ぼす影響
ウイルス流行による「孤立/関連する変化」が、世界中の人々にどのような影響を及ぼしたか
約1年に渡り、新型コロナウイルス流行の実際の被害は追跡・分析され、世界中の人々に伝えられてきました。多くの国では、感染者数、入院者数、死亡率に関する最新情報が日常生活の一部になっています。
一方で、このウイルスの流行は世界中の人々の「メンタルヘルス」にどのような影響を与えているのでしょうか。そして、その影響に対して何ができるのでしょうか。
2020年3月に隔離や外出制限が開始された直後、私は何人かの科学者の同僚と話をしていましたが、誰もが私と同様にウイルスがますます広がりつつある「懸念」を指摘していました。それは、世界が身体の健康の緊急事態だけでなく、前例のない世界的なメンタルヘルスへの脅威にも直面していた事です。私たちの懸念は、一般常識や私たち自身の科学的知識だけでなく、SARSやMERSなど、過去のウイルス流行時に隔離された人々に対して行われた研究も踏まえたものでした。
メンタルヘルスの研究者として感じたことは、“世界中の医療の専門家や政府が「新型コロナに関連するメンタルヘルスの課題」をより適切に管理できるように、世界各国の一般市民が直面している「脅威」を把握しなければならない“という強い責任です。多くの国の人々を対象とした新型コロナ関連の制限措置(隔離など)の心理的負担を定量化するオンライン調査の設計に、空前の速さで協力して取り組みました。
この調査は複数の言語に翻訳され、生活と健康に関する複数の異なる内容を対象としていました。そして、新型コロナ関連の「制限」により最も深刻な影響を受けている可能性があると"仮定"した「心理的対策」と「睡眠対策」について特に関心を寄せていました。
2020年4月~5月にかけ、59か国から6,882人の成人が調査に参加しました。その回答は、ウイルス流行に起因する「孤立」が引き起こした世界的な心理的負担に関する、これまでで最も包括的な実態を示すものとなりました。また、ウイルス流行関連のメンタルヘルスの問題に寄与している可能性のある、人口統計学的なリスク要因も浮き彫りになっています。(調査の回答は、私たちの多国間且つ組織横断調査チームが要約して2020年10月末にJournal of Clinical Psychologyにオンライン掲載)
・調査結果によると、世界中の成人人口のかなりの割合がウイルス流行の結果としてうつ病や不安症状を経験していた。具体的には、調査回答者の24%が中等度~重度のうつ病の症状があると答え、19.5%が中等度~重度の不安症状があると答えた。
・個人の人口統計学的特性、隔離状況、新型コロナ感染状況に加えて、うつ病・不安症状を悪化させる最も強力な予測因子は、在宅勤務への移行、請求書の支払いができない、自宅内での諍いや口げんかが起きるなど、新型コロナ関連の生活の変化であった。
• 女性およびノンバイナリー/トランスジェンダーの人は、男性と比較してうつ病と不安症状の有病率が高かった。
• より高レベルのうつ病と不安に関連するその他の人口統計学的要因には、若年であること、パートナーがいないこと、高所得国に住んでいることなどがある。
• 扶養家族である子どもが自宅にいること、働いていること、低所得国に住んでいることにより、個人がうつ病や不安を経験する可能性は低下している。
私たちの調査結果の一部は、過去の研究やメンタルヘルスの実務に基づいて予測できた部分もありますが、予想外のものもありました。一例として、調査時に政府がコロナ対策として実施していた「隔離や社会的制限」が、うつ病・不安症状の顕著な予測因子ではなかったという意外な事実があったのです。この結果は、調査で確認されたうつ病・不安症状は政府の規制が直接の原因ではなく、これらの規制とウイルス流行の全体が調査参加者の生活に影響を及ぼした可能性が高いことを示しています。
私たちが行った国際的な調査の結果は、ウイルス流行関連の影響の心理的負担の軽減を促す政府のプログラムと政策の方向性を示しています。これには、新型コロナ対策計画へのメンタルヘルスサービスの統合、ビデオ会議や電話でメンタルヘルス関連の相談・サービスをリモートで提供する機能の拡大、在宅勤務など感染対策関連の生活シフトに関する実践的ガイダンスの提供などが考えられます。私はSRI のCenter for Health Sciencesの研究者として、タイムリーで重要なこのテーマについて探る機会を得られたことにとても感謝しています。今回の調査結果は、人間の健康に関するSRIの幅広い研究と専門知識に寄与すると同時に、重要かつ潜在的に増大している世界的な健康に関するニーズへの対応を促すことでしょう。
筆者: Elisabet Rodriguez Alzueta, 博士研究員(SRI Biosciences, Center for Health Sciences)
編集/管理:熊谷 訓果/ SRIインターナショナル日本支社