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【賃金よもやま話】”運送の2024年問題”~仕事量と給料のバランスは?~

最近、あらゆるメディアで、「2024年問題」が取り上げられています。

医師、建設、運送については、働き方改革関連法の適用が5年間猶予されていたのですが、その猶予が今年3月末で終了し、その後は時間外・休日労働の時間に上限規制が適用されます。

これで、今年4月1日以降は、すべての業種・職種に残業時間の上限が法的に規制されます。

筆者は社労士になる前は長く物流業界にいたため、運送の2024年問題には強い関心があります。

さて、今朝ニュースを観ていると、佐川急便さんが2024年問題対策として行っている取組が紹介されていました。佐川急便さんのHPでも同様のことが紹介されています。

要するに、これまでは荷物を積み下ろしする作業をドライバーさんがおこなっていたことを改め、ドライバーさんはその名の通りほとんど運転業務のみでOKとできる仕組みを導入したということです。

ちなみに、荷物の積み下ろしは、大型トラックで1箱1箱バラで積み下ろしする場合、荷物により差はありますが1回あたり1時間半~2時間を要する作業といわれています。これは筆者の経験とも合致します。

たとえば、大型トラックで1日に2か所を回る&荷物はどちらもバラ積みであれば、少なくとも1.5時間~2時間×2か所=3時間~4時間を荷積み・荷下ろしに使うことになるので、1日の労働時間を法定通り8時間とすると、運転に使える時間は5時間~4時間となります。距離によってはもう1件集配できそうですが、いずれにしても、トラックを走らせるにはこうした荷物に係る作業時間と運転時間を考慮して運行計画を立て、実行することが求められます。

ちなみに、上記の佐川急便さんのような取り組みをすると、その1時間半~2時間が、一気に20分程度で済むとのことです。画期的ですね。

では、その短縮された時間を活かして、ドライバーさんに何をしてもらえばいいでしょうか。

運転業務に集中してもらうための取組ですので、例えば、今までは1台あたり1日2件しかまわれなかったのを、もう2~3件まわることができそうです。そうすると、人手不足対策にも役に立ちそうな取り組みにもみえてきますね。

ここで、物流経験者の視点と社労士の視点と併せて考えてみると、次のような疑問が浮かんできます。

それは、

「やってもらう仕事が少なくなった、もしくは内容が変わったのなら、給料はどうするのか?」

ということです。

仮に、ドライバーさんが今まで毎月40万円の給料をもらっていたとすると、その40万円は、「1日に●件の運転+荷物の積み下ろし」に対して支払われる給料だったはずです。

それが、今後は仕事の内容が「1日に●+○件の運転」に変わるのですから、給料の前提が変わります。

また、運転業務が楽な仕事とはもちろん言えませんが、荷物の積み下ろしという全く違う業務が無くなったことや体力的・精神的な負荷(荷物を破損させないよう気を遣うこと等)が軽減されることを考慮すれば、毎月40万円より少なくてしかるべきという結論になってもおかしくはありません。

それから、同じ会社に勤める他の職種の方々との不公平感にも配慮しなければならないでしょう。「仕事が楽になったのに給料は同じ」というふうに周りに映れば、当然、不満が社内に渦巻くことになります。

「配送件数を増やせばいいんだから簡単じゃないのか?」と思われるかもしれませんが、そう単純な話でもありません。

荷物を運ぶには、それに適した条件が必要です。夏場にアイスクリームを運ぶには、常温のトラックはもちろんNGです。また、精密機械であればエアサス車指定、納品先が外資系大手小売業ではこと細かく車両条件が決まっている等がありますので、単純に車とドライバーが空いているからどこでも行けるという話でもありません。

配送が終わったら終業時間まで倉庫を手伝えばいいのでは?というアイデアも考えられますが、道路状況は日々変化するため、ドライバーさんが必ず決まった時間に帰ってくる保証はなく、その意味で不確実な方法と言えます。

目線をドライバーさんがやらなくてよくなった荷物の積み下ろし作業に向けると、誰かがあるいはロボットなどの機械も組み合わせながら作業を行わなければならないので、そこにコストを向けなければなりません。

そのためには、例えばドライバーさんの給料40万円から10万円をそのコストに充てることになるのでしょうが、毎月10万円も給料が下がって困らない人はほとんどいないでしょうし、他の仕事をさせたとしても10万円の給与に見合うという保証はありません。

ドライバーさんを新たに一人雇うより、一人で二人分の仕事をしてもらう方が(それが運転業務のみとしても)コスト面では圧倒的に有利であることは容易に想像できるので、大きな方向性として各社そうした取り組みをされているのだと想像しますが、残念ながらそうした情報は表には出てきません。

いかがでしょうか。

なんだか労働力や労働時間のドミノを延々としているような感じの話ですが、働き方改革はどの業種・職種でもこのような話が展開されています。

そのため、DXやロボティクス、AI活用が叫ばれるのでしょうが、投資を伴うことや未知のものへの不安、また法改正の乱れうちのような状況を把握しきれずに「問題が起きてからやろう」というふうになっている会社が多いようにもみえます。

「タイム・イズ・マネー」の言葉通り、時間=給料なので、「労働時間の規制・イズ・給料の規制」がつきまといます。

なんとも悩ましい問題ですが、何も自社だけが悩んでいる問題ではなく、日本全国どの会社であろうと、悩むことは上記の通り、同じです。

同じ悩みを抱えた者同士が競争しているのですから、そういう点では条件は同じです。「うちは中小だから」は理由になりません。

自社だけでは難しい部分は、社労士のような専門家に頼ることもできます。特に、業界に詳しい社外の専門家は頼もしい存在になるでしょう。

最後は宣伝になってしまいましたが、お気軽にご相談頂ければと思います。


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