泣き出しそうなのは、チキンカレーだ。
彼女はその日「とてもお腹がすく期間なの」と言っていた。細身であるのに昔から、割と食べる人ではあった。
彼女が頼んだのがチキンカレー、私が頼んだのは日替わりカレーだった。写真付きのメニューはなく、入り口で食券を買う店だったので、店員さんに聞かない限りどんなカレーが出てくるかはお楽しみだ。
カウンターの席に座り、わくわくしながらカレーを待った。「日替わりカレーの方」と呼ばれ、私が受け取ったのはドライカレーだった。
お主~!ドライなカレーだったのか~!!さらさらしているカレーではなくて、ぽろぽろとしている挽き肉たっぷりのカレー!!久しぶりこの形状!お肉で言えば断然、鶏肉モモよりも挽き肉派よ!
「おいs・・・・」
「えっ・・・おいしそう・・・・」
えっ・・??
「おいしそう・・・私そっちのカレーにすればよかった・・・」
声が聞こえる。夏のホラー映画のように、隣から湿った二言目が耳に届く。彼女は自分のチキンカレーに目もくれず、そして私の顔を見ることもなく、ドライカレーを直視して呟いている。
「私、ドライカレーの方が好きなんだよね、あーもうどうしよう、そっちにすればよかった、あ~~◎△$♪×¥●&%#?!」
泣き出しそうな三発目、まくしたてる早口言葉の後半は私の耳には届かなかった。さらば、ドライカレー。一口も味わえず、私のものじゃなくなった。
圧倒的な彼女の食欲に吸収され、手を拭いたおしぼりを食べても同じ味がしそうだと思い、ドライカレーを彼女に譲った。
左側からスライドしてやってきた肩身の狭いチキンカレー。君は悪くない。勝負さえさせてもらえなかったチキンカレー。不完全燃焼だろう。
おしぼりと比べてしまってごめんね。
泣き出しそうだよ、チキンカレー。
そしてこのやり取りの中、一切発言しなかった右側に座るもう一人の友人は、待ち望んだ自分のカレーとの対面に夢中だったのだろうか。
右側の彼女が選んだのは、二種カレー盛り。
半分はたぶん、チキンカレー。
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