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敗者だから伝えたい こうして会社は倒産しました ②

~分かっていたことが起こってしまう~

 前回は、会社の概要と成り立ちを中心にご説明しました。

 業績の良かった会社がいきなり傾いていくには、理由があります。ましてや倒産まで至るには理由は一つではありません。

モテる社長の会社

 初代社長であるX氏は、30歳前後で創業した若手社長であり、今でいうイケメンタイプ。しかも子煩悩で、部下の面倒見が良く、優しいけどしっかり叱ることもできて、リーダーシップはきちんと取れるタイプです。30代半ばには、役員報酬もそこそこまで上がっています。

 そうなると、どうなるでしょう。

モテるのです。

 会社の社長は、人として魅力があることは、成功しやすい要素のひとつです。更に外見まで備わっていたら昭和時代の男性としては、時代的にほぼ無敵だったのでは無いでしょうか。経営の数字は苦手だったみたいですが。

 前回に関係図というか、家系図を出していたのですが、X氏には配偶者となる横線が、左右両方にあります。これは離婚・再婚ではなく、いわゆる正妻・側室のような関係です(以下ではお二人のことを便宜上、正妻・側室と呼ばせて頂きます)。どちらからも愛されていたようです。

 後に分かるのですが、従業員にもそういう関係の方がいたようで、そういう環境で仕事をしている他の従業員はどういう気持ちだったのか不思議です。しかもそこにはX氏から見た、親も姉妹も正妻も働いていたのですから。いくら昭和でもよくある話では無いような気がします。

 これをマネするような社長はいないとは思います。しかし、そうした状態であっても、順調に会社は成長していきます。

後継者問題の発生

 この時、正妻との間には子どもがおらず、こうした関係の中で、側室に子どもが生まれました。

 子煩悩な社長は、その子を非常に可愛がっていました。
子どもが幼児から子どもになったぐらいに、母親である側室は、子どもの将来について、しっかりとした将来像を描きたかったこともあり、社長が持つ会社の株式の譲渡をお願いしました。その時X氏は50代半ばですが、子どもはまだ10歳より前だったと思います。

 当時は、既に3社体制になっており、従業員も全体でパートアルバイトを含めれば200名程度の会社に成長しており、既に個人事業主のような会社ではなく、きちんとした組織として運営しなければならない状態になっていました。

 そうでなくても、財務と営業は弟であるY氏が仕切っており、職人社長であるX氏は、B社やC社の運営状況もしっかり把握できているわけではありません。つまりX氏・Y氏の両輪で会社は軌道にのっており、両方の阿吽の呼吸とも言える、信頼とコミュニケーションで運営されていたのです。

 X氏としては、子どもが後継者として指名されても、Y氏や親戚の協力なしで、会社が維持できなくなることは予想できていました。側室は事業には協力しておらず、企業規模だけで無く負債も膨れ上がった会社を運営するには、それなりの知識や能力が必要であり、10歳前後の我が子に、それを継承するのが良いか悪いかさえ分かりません。

 そうして悩む毎日の中で、X氏はY氏に社長の交代と株式の譲渡、そして会社所在地の土地の一部が社長名義になっている部分の会社名義への変更を依頼しました。弟でもあるY氏は、X氏の精神状態が正常では無いと感じ、そういう心配は、もっと元気な時にちゃんと話をしようと断ります。

 今考えれば、途中から鬱になっていたと考えられますが、当時は精神疾患も認識が薄い時代であり、精神疾患に対する偏見が強い時代であったこともあり、X氏の状態はどんどん悪くなっていきました。

突然の死、そして懸念は顕在化する

 その中で、X氏は突然自ら命を絶ってしまいます。
当時私は大学生で東京に住んでおり、まだ50代の叔父が亡くなるなど、想定もしていなかったので、突然の訃報に驚愕しました。亡くなった理由を知ったのは、私が社長になってからです。

 そして様々な後回しにしていた問題が顕在化しました。

  1. X氏が保有していた会社株式の問題

  2. X氏名義の本社所在地の土地の問題

  3. 莫大な負債と少ない資金

  4. 能力トップの職人がいなくなった問題

  5. 兄弟の両輪で成長してきた戦略ができない

そして全てが相まって会社を崩壊に導いていくのです。

倒産社長が伝えたい経営の教訓

結果を予測して、覚悟と責任をもって決断しなければいけない

 企業の代表者が聖人君子になるべきとは思いませんが、プライベートの問題は、企業の問題にも発展する場合があります。X氏は後の問題を予期したのですが、Y氏は人情としてそれを決断できませんでした。

 企業人としての役割と、人情としての決断で惑うことはありがちです。私も何度もありました。どちらが正しいかは、後の結果でしか分かりません。だからどちらも間違っている場合もあるし、どちらも正しい場合があります。結果を予測して決断し、結果を受け入れる覚悟があれば後悔する数は減るでしょう。

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