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社労士的就業規則の作り方 17

鹿児島で社労士をしています原田です。

 こちらを読まれる方の深層心理の奥に眠っている心の声を勝手に解釈すると、「就業規則が大好きです」という部分を強制的に見つけてしまう程に大人気な就業規則の作り方です。

ここでは厚労省モデルを使って、社労士が就業規則に対してどうアプローチするかを案内しています。


第6章 賃金 第40条~

割増賃金

第40条 時間外労働に対する割増賃金は、次の割増賃金率に基づき、次項の計算方法により支給する。
(1)1か月の時間外労働の時間数に応じた割増賃金率は、次のとおりとする。この場合の1か月は毎月 〇日を起算日とする。
① 時間外労働45時間以下・・・25%
② 時間外労働45時間超~60時間以下・・35%
③ 時間外労働60時間超・・・・・50%
④ ③の時間外労働のうち代替休暇を取得した時間・・・35%(残り15%の割増賃金は代替休暇に充当する。)
(2)1年間の時間外労働の時間数が360時間を超えた部分については、40%とする。この場合の1年は毎年 〇月 〇日を起算日とする。
(3)時間外労働に対する割増賃金の計算において、上記(1)及び(2)のいずれにも該当する時間外労働の時間数については、いずれか高い率で計算することとする。
2 割増賃金は、次の算式により計算して支給する。
   以下 略 ※

モデル就業規則 令和5年7月版 厚生労働省労働基準局監督課

※条文に記載されている計算式を全て転載しようとしましたが、止めました。内容的には、月給制・日給制・時間給制のそれぞれの場合における、(1)の計算方法を具体的に示したものになります。

 賃金規定そのものが、給与計算の実務に直結する部分でもあるので、詳細に詰めて話をする方が望ましいですし、その中で割増賃金の考え方も非常に重要な部分ですが、やり過ぎると「給与計算実務」になってしまい、「就業規則の作り方」というタイトルと合致しなくなるので、あくまでも条文に関する考え方に限定してお話します。

 ということで、ただでさえ長くなる割増賃金の話を、ドンと割愛する言い訳が上手にできたところで、条文を見ていきます。

4行目 「この場合の1か月は毎月 〇日を起算日とする」
の起算日については、残業時間の計算の起算日が、後述する第46条(賃金の計算期間及び支払日)と同一である場合は、本条には記載しなくても構いません。というより、同一でない方が稀。

 実際に残業代の集計と賃金締切日を分けたいという要望が、あることはありますが、個人的には徹底して拒否しています。
 賃金計算期間と残業の算定期間が異なると、36協定の作成も混乱しますし、手当等の日割計算が絶対に起こります。
 給与計算時に誰かが面倒になるだけで、それを超えるメリットがどうしても見つかりません。

(1)①については法定通りです。法文上は「2割5分以上」なので、これより以上であれば十分(個人的には、法定より高い定めの事業所は見たことがありません)

②を飛ばして、③についても法定通りです。2023年4月より全ての事業所が50%です。

問題の②については、労働省告示(平成10年公布、平成22年改正施行)、

(一定期間についての延長時間の限度)
第3条 (前略)限度時間を超える時間の労働に係る割増賃金の率を定めるに当たっては、当該割増賃金の率を、法第三十六条第一項の規定により延長し労働時間の労働について法第三十七条第一項の政令で定める率を超える率とするように努めなければならない。

平成10年労働省告示154号(平成22年10月 告示改正)より

という「努力義務」が課されているので、特別条項付き36協定を締結する場合に、限度時間を超える場合として、政令で定める率(25%)を超える率(この場合は35%)で定めている条項となります。

 現在も努力義務なので、25%でも直ちに違法とならないことから、25%のままの場合が多いです。そのうち義務化される可能性があります。
協定上で割増率が異なる場合は、賃金に関する事項であるため、就業規則上で必須記載事項となり、記載は義務になります。

④については、代替休暇制度を導入する場合に記載する事項です。制度導入の際は必須記載事項です。モデルでは、45時間~60時間が35%と定めているので、35%となっています。25%の場合は、25%となります。
代替休暇については、第42条で再度出てきます。

(2)についても(1)の②の特別条項に該当する部分であるため、25%を超える40%の割増率を定めています。この割合も努力義務となります。
こちらも異なる割増率にした場合には、必須記載事項となります。

 年間の時間外労働時間をカウントするので、起算日は必須です。36協定に合わせた日付にしないと、整合性が取れなくなるので注意です。

(3)については、時間外労働の集計が(1)1日単位と(2)1週間単位の両方があるので(時には1カ月単位や1年単位も)、高い方を選択することが当然ですが、事業主や給与計算担当者への認識を念押しする意味でも記載が望ましいでしょう。
 この条項を書かなくても高い方になります。
月単位の時間外が45時間未満でも年単位で360時間を超える場合はありえるので、慢性的に時間外が多い企業は、給与計算上で要注意となります。

2項以下を割愛してますが、規則の条文として、休日労働の割増率や深夜労働の割増率の記載が無く、2項の計算式で明記されています。個人的には条文として書いた方がいいような気がしますが、モデル的には
「こういう書き方もあるよ」という提案のひとつなのでしょう。

 モデル丸写しで規則を定めようとして、長文に渡る解説を読まないと、割増率の計算式に入れる手当の名称を変更しなければならないことが抜ける場合があるので(実際に社労士が作った就業規則でそういう場合があります)しっかりと確認する必要があります。

 手当が多数に及ぶ場合には、モデル規定の第33条(賃金の構成)の部分で、基準内賃金(割増賃金の基礎となる手当等)と基準外賃金(割増賃金の基礎とならない手当等)を明示する場合があります。

 これを定めていると、計算式がスッキリしますし、新たな手当を導入した場合も改正がしやすいのでおすすめです。


 こちらは社労士目線で作る時の話であり、モデル規則の解説に書いてあることには、あまり触れていません。併せて参照して理解することが必要です。

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