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社労士的就業規則の作り方 18

鹿児島で社労士をしています原田です。

 今回は、社労士がみんな大好き「代替休暇」がメインです。モデル就業規則で社労士が気になる条文ベスト70に入るぐらい注目の条項です。
ちなみにモデル就業規則は全部で70条です。

ここでは厚労省モデルを使って、社労士が就業規則に対してどうアプローチするかを案内しています。


第6章 賃金 第41条~

1年単位変形の割増賃金

(1年単位の変形労働時間制に関する賃金の精算)
第41条 1年単位の変形労働時間制の規定(第19条及び第20条)により労働させた期間が当該対象期間より短い労働者に対しては、その労働者が労働した期間を平均し1週間当たり40時間を超えて労働させた時間(前条の規定による割増賃金を支払った時間を除く。)については、前条の時間外労働についての割増賃金の算式中の割増率を0.25として計算した割増賃金を支払う。

モデル就業規則 令和5年7月版 厚生労働省労働基準局監督課

 モデルの解説にもさらっと書いてますが、1年単位変形の途中で入退職する人の割増賃金です。
 社労士で給与計算をしている方でも見逃しがちなので要注意。

変形途中の清算については、特に退職時には問題になるはずなのに、現実的に問題になるケースが少ないことから、事実上の「未払い」のままに放置されている場合もあります。

 1年単位変形を導入する場合は、入れておきたい規定です。
現実的には、正しい1年単位変形労働時間制の運用が行われていないことが圧倒的に多いので、そちらの方が問題なのですが、それは就業規則の問題では無いので、ここではもう言いません。


代替休暇

(代替休暇)
第42条 1か月の時間外労働が60時間を超えた労働者に対して、労使協定に基づき、次により代替休暇を与えるものとする。
2 代替休暇を取得できる期間は、直前の賃金締切日の翌日から起算して、翌々月の賃金締切日までの2か月とする。
3 代替休暇は、半日又は1日で与える。この場合の半日とは、
午前( 〇:〇 ~ 〇 : 〇  )又は午後( 〇: 〇 ~ 〇 : 〇)のことをいう。
4 代替休暇の時間数は、1か月60時間を超える時間外労働時間数に換算率を乗じた時間数とする。この場合において、換算率とは、代替休暇を取得しなかった場合に支払う割増賃金率50%から代替休暇を取得した場合に支払う割増賃金率35%を差し引いた15%とする。また、労働者が代替休暇を取得した場合は、取得した時間数を換算率(15%)で除した時間数については、15%の割増賃金の支払を要しないこととする。
5 代替休暇の時間数が半日又は1日に満たない端数がある場合には、その満たない部分についても有給の休暇とし、半日又は1日の休暇として与えることができる。ただし、前項の割増賃金の支払を要しないこととなる時間の計算においては、代替休暇の時間数を上回って休暇とした部分は算定せず、代替休暇の時間数のみで計算することとする。
6 代替休暇を取得しようとする者は、1か月に60時間を超える時間外労働を行った月の賃金締切日の翌日から5 日以内に、会社に申し出ることとする。代替休暇取得日は、労働者の意向を踏まえ決定することとする。
7 会社は、前項の申出があった場合には、支払うべき割増賃金額のうち代替休暇に代替される割増賃金額を除いた部分を通常の賃金支払日に支払うこととする。ただし、当該月の末日の翌日から2 か月以内に取得がなされなかった場合には、取得がなされないことが確定した月に係る賃金支払日に残りの15%の割増賃金を支払うこととする。
8 会社は、第6項に定める期間内に申出がなかった場合は、当該月に行われた時間外労働に係る割増賃金の総額を通常の賃金支払日に支払うこととする。ただし、第6項に定める期間内に申出を行わなかった労働者から、第2項に定める代替休暇を取得できる期間内に改めて代替休暇の取得の申出があった場合には、会社の承認により、代替休暇を与えることができる。この場合、代替休暇の取得があった月に係る賃金支払日に過払分の賃金を精算するものとする。

モデル就業規則 令和5年7月版 厚生労働省労働基準局監督課

 前回でちょっと触れた「代替休暇」です。条文だけでも長いので、実は既にうんざりしています。

 平たく言うと60時間超になると、50%の割増賃金を払う部分を、年休とは別の有給の休暇をとらせることで、60時間超の部分の残業代をチャラにしてしまおうという制度です。制度の詳しくは、モデルの解説や他のサイトの解説を見て、制度を知った上で以下を読みましょう。

条文の話をします。
第1項では「労使協定」に基づいてが重要。労使協定が無いなら制度自体がつかえません。労使協定は毎年締結する必要はありませんし、監督署への提出義務のありませんが、第4項でも触れている割増率の変更等の内容変更がある場合は、協定書の改定が必要なので要注意です。

第2項では、期限の話なので、労使協定で2カ月以内と定めていたら、2カ月になります。法定上限が2カ月なので、2カ月以上で締結することは無いはずですが、1カ月の協定なら1カ月に修正しなければいけません。

第3項では、半日取得時の話です。第23条でも触れてますので、そちらを見ましょう。

第4項では、代替休暇の取得できる時間(日数)の計算式の話です。第40条(割増賃金)のところで、ここの事業所の45時間超の割増賃金は、35%と定めているので、この内容になります。割増率が25%の場合は、
 35%→25% 15%→25% になるので要注意です。

第5項は少し分かりにくいのですが、第4項で代替休暇の日数を算出した時に、ほとんど場合端数がでます。その端数が0.5を超えたら1日、0.5以下なら半日でカウントするという意味です。
 この時、時間換算すると少し多めに休むことになりますが、
「多く休んだ分を割り増し分から引いたらダメだよ」
という意味になります。給与計算担当者に向けた言葉です。

第6項は、代替休暇申請の手続き上の話です。給与締め日から5日以内となっていますが、これは任意の日付で構いません。第7項にも関係しますが、給与計算の運用と照らして決めた方がいいでしょう。

第7項は、代替休暇の申し出があったので、割り増し分を払わないことになります。これが全額払いの原則(労基法第24条第1項)違反にならないためにあらかじめお断りしているものです。この条項が無くても、代替休暇取得月で未払い賃金の可能性は消滅しますし、あくまでも「本人の申し出」によって発動するのが原則なので、トラブルになるケースは想定しにくいですが、書いていた方が無難です。

第8項は、給与計算が終わったり給与支払いが終わった後で代替休暇の申し出があった時には、
「次の給料から多かった分を引くよ」
という意味です。従業員から文句を言われないように入れておきましょう。


個人的感想として、給与計算の煩雑さが増え、トラブルが増加するような雰囲気が香る代替休暇なので、慢性的に使う制度としては避けるべきだと思います。

 例えば機械修理や製造時のトラブル処理、システムの不具合修正のような突発的なトラブル解決のために制度を導入する業種で検討されるべきでしょう。

突貫工事が多いから、人手が足りないから・・・とかの理由だと、60時間超の翌月も60時間超えるような気がするので、制度導入は役に立たない可能性があります。


 こちらは社労士目線で作る時の話であり、モデル規則の解説に書いてあることには、あまり触れていません。併せて参照して理解することが必要です。

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