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敗者だから伝えたい こうして会社は倒産しました ⑤

~事業承継する側が考えること~

 前回までで、いろいろもめた末に、結局Y氏の主張通りの新工場が完成していきます。

 私も前職で、大規模な新型製造ラインにも携わっており、いろいろと痛い目にあった経験から、大規模移設に際して懸念する部分は多分にあったのですが、資金を調達するために奔走するY社長の耳には届かなくなります。

新工場の問題発生

 元々の工場が、外見が汚いとか天井が無い等の衛生的な問題があり、来客者に工場見学をさせても、会社や商品のアピールにならないという問題がありました。それでなくても品質クレームが時々発生していたのですから。

 こうした事情により、商品の安定化と営業効果の為にも、Y社長の心の中は、新工場への移転は待ったなしと考えられており、1秒でも早く稼働し、1秒でも早く売上を作ることに懸命だったと思います(当時の私にはその感情が一切伝わりませんでした)。

 新製造ラインの構築に携わった経験からすると、新しい場所への移設に関して、往々にして様々な予期しない問題が発生するもので、心配要素を排除するために徹底した調査や殺菌等を事前にしたいと訴えていました。特に取り扱っているのが賞味期限の短い商品だったので、トラブル回避用に作り溜めもあまりできません。

 資金繰りが頭にないため慎重にすべきと正論を吐く私と、企業の安定的な運営に軌道を戻すために一刻の猶予も無いと考える双方にY社長の思惑の中で、新工場は調査や殺菌無しで移設されることになりす。そして新たな問題が起こるのです。

異臭商品の発生

 商品から異臭クレームが起こります。Y社長も過去に経験の無い異臭で、殺菌時間の調整や、アルコール等の徹底を行うのですが、なかなか異臭騒ぎが収まりません。

 そのため商品の腐敗となっている原因の菌種を特定するために、検査機関に出し、乳酸菌の一種であることが判明しました。ヨーグルトの善玉菌で有名な乳酸菌ですが、腐敗の原因になる乳酸菌もいるのです。元々漬物工場だったことも無関係では無いようです。

 殺菌対策の方法をいろいろと取り組み(具体的な殺菌の話は、少し本題から逸脱し過ぎなのでやりません)、ようやく異臭騒ぎが収まったのですが、移転によって企業と商品イメージを回復して、スタートダッシュで売上増進につなげる予定が、出鼻をくじかれてしまいました。

業者会や異業種交流会に没頭していく3代目

 そうしたトラブルを乗り越えながら、私は資金繰りがきつい事実も知らないままに、様々な会に誘われて加入していきます。また父親であるY社長も人脈作りには理解力があり、反対はしていませんでした。

 青年会議所、法人会青年部、中小企業家同友会、倫理法人会、顧客先の業者会次世代の会、顧客主導の政治支援団体、金融機関の会青年部会(3行) 等に加入していました。

 こうした業務で得られない経験は、その多くが今の仕事である社労士になってから役立ってはいるのですが、瀕死の企業にとって役立つものは非常に少なく、しかも危機感の無い私にとっては、とても有用なものに感じられて、益々活動に精を出すようになります。

当時の私の担当業務は、
・A社の県外ギフト販売部と直販の活性化
・B社の取引拡大に向けたトップコミュニティの強化
・A社C社の機械修理修繕
です。

 A社の顧客先である大手量販店のバイヤーと商談し、店舗視察に同行したり店頭で販促活動をするのですが、B社の顧客先では店頭販促はしないということで、B社の経営者で不満を感じる人もいたそうです。

 私のビジョンとしては、B社のもつ県内のスーパーマーケットを対象にした販売網によって伸びてきたA社を、直販・ギフト・土産市場の強化によって、B社への依存率を下げて、B社を健全な問屋業にすることが目標でした。

 10年後、20年後を見据えた戦略を私は話していて、来月来年の安定的運営に足掻いているY社長との意識は、あまりにかけ離れていて、その溝は段々と深まっていきました。

倒産社長が伝えたい経営の教訓


真実を本音で語れない事業承継はできない

 事業承継は、継承先が親族・従業員・第三者の場合がありますが、第三者であれば絶対的な信用は無いので、慎重な検討をするために不明点等を徹底的に明らかにしていくでしょう。

 しかし親族や従業員の場合には、重要な部分をあえて公表しない場合があります。「自分がある程度軌道に乗せてから後継者に譲る」と豪語する社長は存外に多く、私も頻繁に耳にします。軌道に乗せるために。相談や話し合いを繰り返して、後継者や従業員の協力を受けながら再建すればいいのですが、それができないことは案外多いのです。

 それは単なる創業者のプライドではなく、自分で決断した結果は、自分でなんとかするという責任感であったり、今感じているつらい思いを承継したくない優しさだったりする部分も非常に強い場合があります。だから本音で語れというのは、実は簡単ではありません。事実を聞いたら後継者が逃げることもあります。

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