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青野春秋が影響を受けた作品について

漫画家として「影響を受けた本を教えてください」という趣旨の質問を読者の方はもちろん、編集者などの仕事関係者の方からも訊ねられることは、僕が漫画家デビューした直後から今に至るまで定期的に何度もあった。

その問いには、いつも正直に答えることにしているので「本に限らず読んだり観たり聴いてきたあらゆる作品から好き嫌いは関係なく影響は受けているかと思います。
ただ、この作品のようなマンガが描きたいと思ったことはありません。
僕はこれを読んでほしいと思う自己作の背骨や軸は初めて描いたマンガから今も変わっていません」と、ずっと答えてきたしこれからもその答えが変わらないのは自分でもよくわかる。

好きな表現者のルーツや影響を受けた作品に興味があるのは僕も同じなので、とてもごく自然な問いかけだとは思う。
ただ、自分がマンガを描くようになって明確に実感したので正直に答えている。

影響を受けたと言えば、どのジャンルの作品でも人でも数えきれないくらい影響を受けているが、真似をしたり目標にすることは無いんだなと。

たとえ、何かに触れて心から感銘を受けたとしても「自分が描きたいマンガ」とはまた別の場所にある作品だとしか思えない。
そういう意味では、なんの根拠もないし実力もまだまだだと自覚しているが、何かにすがったり参考にしたいと願ったとしても、結果的には僕自身の中から湧き出してきて描きたいと思うマンガしか描けないんだなとも学んだし、それしかできないとも言える。

僕は漫画家デビューは25歳と業界的には遅いほうだし、アシスタント経験もなく他の漫画家と漫画論を語ることもなく、思うがままに自己流の独学で続けてきた。
そして、今後もその方法を変えたいとも思わないし変えられないでしょう。

時々、仕事関係者から「どんなふうに内容を考え作っているのですか?」と聞かれることもあるが「企業秘密です」と言って一切教えない。
それでも、アドバイスや悩みごとをされた場合は僕に答えられることであれば真摯に丁寧に答えるようには心がけている。

ただし、生意気は承知の上で言いますが、誰にも僕のやり方の真似は出来ないから教えても殆ど意味はないし、さらに言うとそれこそが僕の作風の背骨や軸になっているので、それを一番正確に伝えるには僕がマンガを描いて読んで頂く以外の方法はない。

言葉や理論で説明して伝わるようなら、とっくにマンガを描くのをやめて『成功するための正しい漫画論』みたいな適当な本を出したりセミナーを開いたりして効率よく商売にしていると思う。


だって、マンガを描くなんてこんなにも非効率的な仕事はなかなか無いし、本当にいつも「なんでこんなにめんどくさいんだ」と毎回、締切ギリギリの最中であっても心底思いながら描き続けている。

ありがたいことに漫画家のはしくれとして、何度か「漫画評論家」の方々から作品の評論や独自の分析を各媒体でして頂いたことがあり、すべてはチェックできないにせよある程度は拝読拝聴させて頂いてきた。

好意的意見も否定的意見も自己作が取り上げられているならば、割と積極的に拝読拝聴しているほうだとは思う。

作品自体の評価はもちろん賛否あり、大いに語って頂いてかまわないしてし、作品の評価や作家性を分析してくれるのは全く問題ないことで、なかには的確で独特な切り口で分析し評論して頂き、僕自身が「なるほど」と感心することもあった。

ただ、僕が知り得るかぎり「漫画評論家」や「評論好きな漫画家」や「漫画愛好家」の青野春秋の作風の根幹に触れた評論には殆ど触れたことがないと言える。
「◯◯の影響を受けている気がする」とか「◯◯◯の作風に少し近いかもしれない」と言うような、はっきりと言いきれず曖昧な評論しかなく申し訳ないが、すべて見当違いで流石に訂正したい気持ちにはなる。

前途でも説明しましたが、僕は漫画に限らずありとあらゆる文芸作品から影響を受けているし、遠慮なくインプットして咀嚼し青野アレンジを施してアウトプットしているので特定の作品や人物に当てはめるのは無理があるので仕方ないとは思うが、わからないなら他者の作品や名前を出して予想だけの評論をするのは控えて頂きたい。


しっかりと間違えた評論は誤解しか招かないので、誰も得をすることはないし誤った情報として認識されてしまうのは、僕自身も心苦しいだけである。

加えて言わせてもらうと、マンガ作品の評価を一番正しくしているのは読者一人ひとりであり、漫画家でも評論家でも出版関係者でもない。

マンガを純粋に読むことは描いた本人しかり担当する編集者には中々に難しいことになる。というか、難しくなくてはならないと僕個人は思う。簡単に言うと自分で言ったギャグで自分が一番大笑いしているようなことなので、だいぶ厳しい状況を想像して頂けるかと。

なので、僕の知る限り一番信頼できる編集者は、まだ世に出る前のマンガを読者にどう届けるのが一番良い方法かを基本的な編集作業のひとつとして大切にし常に模索している人だ。

という訳で、前置きは長くなったけれど僕はマンガを描く上で新しいことや斬新なことをするつもりはなく、むしろ普遍的でありきたりな何度も繰り返されてきた話を青野はどんなふうに描くのか、青野が描くとどうなるのか。
青野の目線でマンガにするとどうなるのかが大切であり、誰が描いても変わらないようなら作家の存在意義そのものを疑わなくてはならなくなる。

そして、それは「おもしろいマンガ」として読者へ届くのかだけしか考えていないと言って問題ないし、一番正確な青野春秋の作家性と作風であると僕自身は考えている。

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※ 今後の記事で漫画家として、特別に影響を受けてきたであろう好きな本や映画や音楽、そして人物などを少しずつ紹介できたらと思います。

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