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シェイクスピアと音楽(16):愉快な罵倒劇「ヘンリー四世」

前回、アメリカ映画「グッド・ウィル・ハンティング」を通じて現代アメリカ映画の罵り言葉の単純さに触れましたが、今回は400年前のシェイクスピアの時代の罵り言葉の語彙の豊かさについて。

シェイクスピアの罵り言葉

シェイクスピア時代の言葉にも、ひどい言葉がたくさんありました。

でもひどい言葉があったからこそ、本当に美しい言葉が存在できたとも言えます。

シェイクスピア劇の舞台は、王侯貴族の上流階級のみやび言葉と、下層階級の庶民の俗語が飛び交う世界。

このギャップが面白いからこそ、シェイクスピアは400年の時を経てもいまだに愛されている。

英語世界最大の劇作家ウィリアム・シェイクスピアはご存じのように庶民出身。

芝居を書いて名声得てましたが、著作権のない時代なので、作品を書いても作品を売り払うと、それ以上の収入にはなりませんでした。

ですので、劇場の経営権を手にすることで、シェイクスピアは故郷のストラスフォードに豪邸を立てるほどの財産を作り上げ、上流階級の証である紋章の申請をして受け入れられて、名実ともにジェントリ(上流階級)となった人でした。

シェイクスピアは誰よりも庶民の日常の言葉に通じた人で、本当は美しくて雅な宮廷言葉の弱強五歩脚iambic pentameterの詩文を書くよりも、庶民のごくありふれた罵りや揶揄いや品のない言葉遣いを書くことを得意としていたようです。

前回解説したLove's Labour's Lostという三つのエルが並ぶ雅な題名の劇は、登場人物が王侯ばかりで、道化の言葉は滑稽ですが、劇全体が本当に美麗な言葉のオンパレードな作品でした。

遠いナヴァール国におけるラブコメは異国情緒たっぷりの美しい田園劇でしたが、シェイクスピアは世界全体を舞台に見立てた作家です。

世界全体を描き出すならば、やはり庶民も王侯もすべてひっくるめて語らねばいけません。そして雅な宮廷文化だけが世界の全てではありません。

史劇とは

シェイクスピア作品は悲劇と喜劇が広く知られていますが、悲劇でもあり喜劇でもあるのが、歴史劇(史劇)。

史劇全十作の全てに、イングランド歴代の王の名が冠されていますが、その中でも抜群の人気を誇るのが「ヘンリー4世」第一部です。英国王の名がついていないと、マクベスのように歴史物語でも、史劇とは呼ばれないのが決まりです。

二部構成の長大な「ヘンリー4世」は抱腹絶倒の喜劇でもあり、また物悲しい幕切れを持つ悲劇的な作品。作品の持つ陰影の深さにおいて、他の作品の追随を許さぬ大傑作と言えるでしょう。

歴史劇ですので、舞台は殺戮の場にもなります。

殺された英雄の若者の死を嘆く父親の悲哀も涙を誘うし、孤独な帝王ヘンリー四世もまた同情されてしかるべき。歴史に絶対に正しいことなどありえない。勝利しても敗北しても悲しいものです。

皮肉屋のハムレットのセリフは歴史について語られたものではありませんが、歴史の偽善を言い当てるにふさわしい言葉。

善も悪もない、考え方がそう思わせているだけだ
悲劇「ハムレット」より

「善も悪もない」は、やはりマクベスの「綺麗は汚い、汚いは綺麗」にも通じる、シェイクスピア劇のすべてに流れている通奏低音のようなもの。

通奏低音という表現が分かりにくければ、シェイクスピアの人生観でいいですね。

でも誰もが魔女のように「綺麗は汚い、汚いは綺麗」などと呟いて傍観者ではいられない。

歴史的事件のただなかにある主人公たちは辛い人生の選択をしないといけないのです。

そんな悲しい主人公の一人が「ヘンリー4世」のハル王子。

彼はプリンス・オブ・ウェールズ、つまりイングランドの王太子。

劇において、ハル王子は放蕩無頼の徒として登場しますが、やがて王子としての天命を受け入れて、過去と決別、ヘンリー五世となるのです。

史劇「ヘンリー4世」は若いハル王子の旅立ちの物語。

旅立ちだから最後には辛く悲しい別れがある。全シェイクスピア劇の中でも最も痛切な別れが第二部の終わりには置かれています。

仲間割れして、かつての戦友たちが殺しあう内乱時代が「ヘンリー4世」の舞台。

辛い別れの悲劇でもあり、悲惨な戦争劇でもあり、和気藹々あいあいと仲間たちが罵倒語を弄んで愉快に乱痴気騒ぎを演じる喜劇でもあるのです。

わたしは個人的に「ヘンリー4世」を悲劇「ハムレット」以上に評価します。

それでは「ヘンリー4世」を最良の喜劇足らしめている罵り言葉の応酬の場と、痛切な悲劇的別れの場面を英語原文を交えながらハイライトしてみます。

「ヘンリー四世」の魅力

シェイクスピア歴史劇全十作から大憲章マグナカルタで有名な「ジョン王」と、エリザベス女王の父親である暴君「ヘンリー八世」(シェイクスピア最後の作品で同僚との共作)を除くと、残りの八作は百年戦争後半の「リチャード二世」から、百年戦争後に勃発した英国内乱「バラ戦争 Wars of the Roses」の終結を描いた「リチャード三世」まで時系列的に綺麗に並びます。

  • 「リチャード二世」

  • 「ヘンリー四世」第一部

  • 「ヘンリー四世」第二部

  • 「ヘンリー五世」

  • 「ヘンリー六世」第一部

  • 「ヘンリー六世」第二部

  • 「ヘンリー六世」第三部

  • 「リチャード三世」

この中で特に、二人のヘンリー王(四世と五世)を描いた最初の四作品は、ホーマー(ギリシア語でホメロス)作のトロイ戦争を謳ったイーリアス(英語でIlliadイリアッド)に匹敵する叙事作品としてHenriadヘンリアッドとさえ呼ばれています。

英雄ヘクトルやアキレス(アキレウス)やオデュッセイ(オデュッセウス)や美女ヘレン(ヘレナ)や老王プライアム(プリアモス)が活躍する英雄叙事詩に、シェイクスピアの「リチャード二世」「ヘンリー四世」や「ヘンリー五世」は負けていないという英国文学の粋なわけです。

イリアッドの主人公アキレス(もっと英語的にはアキリース Achilles)に比されるのは、百年戦争の終わりにフランス軍を打ち破ってイングランドの栄光を体現するヘンリー五世なのです。

二部構成の史劇「ヘンリー4世」は、そんな五世の王子時代の物語。

ハル王子のモラトリアム時代の終わり

「ヘンリー四世」と、父王の名が劇には冠されていますが、物語は主人公ハル王子 (ハルはハリーのあだ名、本名はヘンリー) の成長物語として読む方が分かりやすい。

王様ヘンリー四世の物語として読むと、悲劇としても読めますが、とても複合的なのが史劇です。

群像劇だけれども、最重要なハル王子を中心に読むと、Good Will Huntingにも似た「旅立ち」の物語になります。

ハル王子は、今でいうところの大学生くらいの年齢。

大学に入っても、勉強もせず、遊びまわっている若者という位置づけ。

16世紀のシェイクスピアの時代でも、20世紀のウィル・ハンティングの頃でも、こんな若者はどこにでもいたのです。物語の舞台は14世紀の終わりですが、いつの時代においても非常に普遍的な物語。

成長物語にはMentorメンターが必要。

精神的指導者となる人のことですが、遊びまわっている王子の選んだのは巨漢の年取った、嘘つきだけど愉快な騎士サー・ジョン・フォルスタッフ。

一応、サーの称号を持つ騎士階級の人ですが、いつも金欠で振る舞いも全然貴族らしくないし、本当に騎士の風上にも置けないような人物。

騎士と言えば格好いいですが、要するに軍人で、「良い鉄は釘にならない」なんて言葉があるように、専門軍人にはフォルスタッフのようないい加減な人生を送った人が多かったはず。

太鼓腹のフォルスタッフのゆくところ、どこにでも笑いが巻き起こり、そしてそんな自分を自覚しているのがフォルスタッフ。王位継承者のハリーが好きになったのは、そんな彼の自由奔放さゆえ。

酒場に入り浸り、娼婦を恋人として、巡礼者に対して犯罪行為の追い剥ぎはするし、戦場では王子の手柄を横取りするなどという、とんでもない狼藉者だけれども、世間の決めた枠組みや常識に囚われない自由人。だから窮屈な宮廷暮らしにうんざりしていた王子は、父親よりも歳上のフォルスタッフと親友になるのです。

「俺は自分自身が人を面白がらせるばかりか、俺の面白さは他の連中にまで影響して、
奴らにまで冗談を言わせたりするんだ」
笑いの根源は自分であると豪語する

ハル王子とフォルスタッフ

しかし若いハル王子は仲間とつるんで遊びまわっている、そういう放埒な自分を自覚していて、次のような独り言もしゃべる。

第一部第二場のハル王子のSoliloquy (独白)。

ハムレットのSoliloquy よりも好き。

「わかっている、おまえたちのことは
しばらくはおまえたちのぐうたらな気まぐれにつきあってやる
だが俺は太陽の真似をしよう
うっとうしくまとわりついた雲が空を覆うに任せて、美しい光を雲の向こうに隠しても、
その気になれば汚らしい霞を雲散霧消させて世を驚かせるのだ
一年中が休暇だったならば、遊びだって仕事と同じように退屈なものになる
時々だからホリディが来るのが待ち遠しくなる
たまにでなければ楽しめない
俺が過ごしている遊びの日々を捨てて、この返す約束もしていなかった失った日々の借りを返すならば、約束などしていなかっただけに、人々の俺に対する過小評価を覆すことになるだろう
そして黒字の地金に輝く金属のように、
俺の改心はこれまでのならず者の生活ゆえに一層輝かしく多くの者の目を引くことだろう
俺が悪いことをするのは悪事を利用するためだ、
誰も俺がそんなことをするとは思わぬ時に、名誉を挽回するのだ」

何という深謀遠慮。
日本の戦国時代の織田信長の若いころのような「うつけ者」を演じていたのだというわけです。 
おそらく権謀術数が渦巻く宮廷ではこうした韜晦こそが生き残るための知恵だったのでは
叔父による父王の殺害の事実を知ったハムレットが狂人のふりをしたことにも通じます。

さて劇中。

フォルスタッフが出てくると舞台は笑いに包まれて、どこをとっても楽しいのですが、最高傑作は第一部の第二幕第四場。

この第四場全体がシェイクスピアの書いた最良の喜劇と言っても言い過ぎでないけれども、特筆すべきは王子とフォルスタッフの会話がもう全て悪口の応酬で成り立っていること。

仲のいい二人はどんな悪口にも怒らないし、喧嘩するほど仲がいい。

その二人の罵り言葉ですが、もし現代英語でお前は馬鹿だと相手に言うとすれば、どんな表現を思い浮かべますか?

  • You stupid 

  • You fool

  • Idiot

  • Jerk

  • Imbecile 

  • You silly 

  • You dummy

  • Moron 

  • Numskull or Numbskull

  • Blockhead

とかこの程度では。いろいろありますが、親しくなってこのくらいの言葉を言い合える関係っていいですよね。

コリンズ英語辞典を調べると、ほかにも50くらいの単語が見つかりますが、方言的で地域限定なものが多い。そして大抵は一音節か二音節くらいの短い言葉。

現代英語でもSon of a bitch なんて言葉も確かにありますが、こういう言葉を喋らせると、ハル王子とフォルスタッフには誰もかないません。

罵り言葉も合成語のほうが罵り度合いも倍増しいます。

とにかく比喩表現が凄い。シェイクスピアの真骨頂ですね。

ハル王子はフォルスタッフにYou fat-kidneyed rascal(腎臓太りのごろつき野郎) なんて言葉から太った容姿を散々揶揄います。

訳さなくても大体わかりますよね(訳せないのもある笑)

This sausage coward 
This bed-presser
The horse-back breaker
This huge hill of flesh
The trunk of humours
That bolting-hutch of beastliness
That swollen parcel of dropsies
That huge bombard of sack
That stuffed cloakbag of guts 
That Mannington tree ox with the pudding in his belly
Thou claybrained guts
Thou knotty-pated fool

フォルスタッフもこう返します。こちらの方が悪質。

You gorbelled knaves
You starveling
You elfskin
You dried neat's tongue
You bull's pizzle
You stockfish
You tailor's yard (Yard=Yardstick、裁縫師の物差し野郎!)
You sheath
You bowcase
You vile standing tuck (Tuck=Rapier、レーピアは細身のナイフのこと、直訳すれば「汚らしいおっ勃ったナイフ野郎」、意味は分かりますね)
Whoreson caterpillars (Whoresonは娼婦の息子で、今ではSon of a bitch、あばずれ息子の芋虫野郎?)
Bacon-fed knaves
Quoted from 'How to teach your children Shakespeare' 
by Ken Ludwig 2013 

ネタバレしたくないので、王子とフォルスタッフの漫才のようなやり取り、全て書きませんが、第二幕第四場のフォルスタッフの言葉は大傑作。

言葉の意味を正確には理解できなくても、音として罵倒語だということがわかります。

劇場中が笑いに包まれます。

この動画は、父親ヘンリー四世に呼び出されたので、お城まで王様に会いにゆくという王子に、どういう申し開きをするかと相談して、それならば予行練習をしようという話になります。

ここから劇中劇。

まず王冠の代わりに座布団を頭に乗せたフォルスタッフが父王役になりますが、途中でやり直して、今度は王子が王様役にフォルスタッフが王子を演じます。

王子役のフォルスタッフは、王子に悪影響を与えたという王の言葉(ハル王子の言葉)に対してフォルスタッフを弁護します。

王様を演じるハル王子

王様を演じるハル王子が、フォルスタッフ扮する王子に対して語る言葉。

フォルスタッフを公然と冗談めかして非難します。

Swearest thou, ungracious boy? henceforth ne'er look 口を慎しまぬのか、無礼者め。だからじゃ、わしをとくと見よ。
on me. Thou art violently carried away from grace: おまえは神の恩寵から見放されておるのじゃ
there is a devil haunts thee in the likeness of an そちには太った老人の姿をした悪魔が付きまとっておるのじゃ
old fat man; a tun of man is thy companion. Why あのような男がお前の仲間
dost thou converse with that trunk of humours, that なにゆえにあのような気まぐれの塊
bolting-hutch of beastliness, that swollen parcel 淫乱の詰め合わせ、水膨れの包み、パンパンの酒袋、
of dropsies, that huge bombard of sack, that stuffed モツだらけの旅行鞄 
cloak-bag of guts, that roasted Manningtree ox with 詰め物たっぷりの牛の丸焼き、
the pudding in his belly, that reverend vice, that 年取った道化、
grey iniquity, that father ruffian, that vanity in 白髪のワル、やくざの親父、
years? Wherein is he good, but to taste sack and 年季の入った、いいカッコしい。この男のどこに良いところがある?酒の違いが分かるだけではないのか?
drink it? wherein neat and cleanly, but to carve a どこが優れている?鶏肉を切り取って喰らうくらいなものだ。
capon and eat it? wherein cunning, but in craft? ずる賢いがワル知恵だけ
wherein crafty, but in villany? wherein villanous, ワル知恵も悪事にしか使えない
but in all things? wherein worthy, but in nothing? どこに良いところがあるというのだ、なにもないではないか?
若者を堕落の道へと誘い込む、白い髭の悪魔、フォルスタッフのことだ!
白い髭といえばサンタクロースですが、フォルスタッフはひどい老人です!

この王役のハル王子の辛辣な言葉に対して、王子役フォルスタッフはフォルスタッフ(つまり自分自身)を弁護します。

But to say I know more harm in him than in myself, ですが、わたし以上にフォルスタッフが悪いというならば、
were to say more than I know. わたしは自分が知っている以上のことを述べたのだといえることでしょう。
That he is old, the more the pity, あの男が年寄りなのは、まことに気の毒
 his white hairs do witness it; but 彼の白髪がそれを証明しています、ですが
that he is, saving your reverence, a whoremaster, 閣下、かの者が売春窟の常連であるということは
that I utterly deny.  はっきりと否定いたします
If sack and sugar be a fault, もしシェリー酒を飲むことが間違いであるというならば
God help the wicked!  おお、神よ、悪人どもを救いたまえ
if to be old and merry be a sin, もし年をとっても楽しく騒ぐことが罪ならば
then many an old host that I know is damned:  年取った居酒屋の主人はみんな地獄行き
if to be fat be to be hated, then Pharaoh's lean kine 太っていることが憎まれるならば、ファラオの夢に出てきたやせた牛が
are to be loved. 愛されないとといけません(聖書創世記のジョゼフの逸話より)

愛すべきジャック・フォルスタッフだけは追放しないで!

No, my good lord; banish Peto, いいえ、陛下、ピートーを追放してください。
banish Bardolph, banish Poins:  バードルフを追放してください、ポインズを、
but for sweet Jack Falstaff, でも愛すべきジャック・フォルスタッフ、
kind Jack Falstaff, 優しいジャック・フォルスタッフ 
true Jack Falstaff, 忠実なジャック・フォルスタッフ
valiant Jack Falstaff, and therefore more valiant, 勇敢なジャック・フォルスタッフ、
being, as he is,  老いてもなお、勇敢なジャック・フォルスタッフ
old Jack Falstaff, banish not him 彼だけは追放しないでください
thy Harry's company, banish not him thy Harry's company: ハリーの友、あなたの息子であるハリーの友、ジャック・フォルスタッフ
 banish plump Jack, and banish all the world. まん丸のジャックを追放するならば、全世界を追放するのと同じです

不良の取り巻きは王子の周りから追放しても、ファルスタッフだけは王子の傍においておいてくれと懇願する。

Banish him not 
現代英語ではDon't banish himですが、現代でも否定語を最後において
前文を否定する古風な表現も使ったりします
ちなみにVanish(消える)と聞き違える方もいるかもしれませんが、
下唇を噛まないBのBanish(追放する)は全く別の言葉

という言葉。

シェイクスピアは劇中で同じ言葉を何度も同じ人物に繰り返し喋らせることはあまりありません。

冗談の劇を通じて訴えかける、ファルスタッフの衷心よりの願い。

ファルスタッフは本当に王子が好きだから追放しないでくれと本気で冗談の中に本音を吐露しているのです。

とにかくいつもこんな調子で、悪い奴Villainなんだけど、なんとも憎めない。

フォルスタッフは借金を払わずに酒場のおかみさんから裁判所にこれまでのツケを支払うようにと訴えられたりと王子以外の人にも、たくさん悪態をつきます。

悪口をいう相手には悪口が返ってきます。

ファルスタッフに対しても悪口はひたすら飛び交うのです。

馬鹿野郎(直訳では「軽蔑してやる」)、このゲス野郎!
scorn とscurvyというSの連なりがいいですね
フォルスタッフと仲の良い売春婦のドロシーの言葉。第二部第二幕第四場より
続きは
What! you poor, base, rascally, cheating, lack-linen
mate! Away, you mouldy rogue, away! I am meat foryour master.
Tシャツにまでなっている「貴様なんかバターみたいに脂ぎったデブだ」
こちらはバッグにまで
「皿洗い女、売女、イカ臭い奴、ひでい目に合わせるぞ」

居酒屋の女主人クウィックリーに対して
第二部第二幕より

上げて行けばキリがないほど、「ヘンリー四世」には、シェイクスピア最良の悪口が詰まっています。

シェイクスピア罵倒語の作り方

さてここまで見てきたように、シェイクスピア悪口にはパターンがあり、ほとんどは相手を何かひどいものに喩えるというパターン。

Thou 〇〇〇◎◎!
おまえは〇〇〇◎◎のような奴だ!

この◎や〇にひどい形容詞や何か軽蔑されるような何かに見立てた表現が組み合わさります。

このようにシェイクスピア悪口のパターンは研究され尽くしていて、Shakespearean Insult Generatorと名付けられたサイトが何種類も存在します。以下のような悪口を即席で作り出せるのです。

言葉の組み合わせの妙ですね。下記のサイトを使って少し作ってみると、

誰とでも寝る最低女
(意訳してもっとこなれた日本語にもできないこともないですが、お目汚しになると失礼なので
あえてこれ以上は訳しません。
F●CKよりもずっと強烈な言葉でしょう)
便所の床をはいずり回るのろま野郎
(訳しようがない笑)

とにかく知れば知るほど、こんな表現もできるのかと、罵られたことを憤るよりも、よくそんな表現を知っているなと感心してしまう死語のようなものばかり。現代的にはジョークとして秀逸です。

シェイクスピアの英語は、決してソネット集のように高尚な洗練された言葉ばかりではないのです。


もうすでに長すぎるので、当投稿はここで中断して次回に続きを。

ファルスタッフの末路と「ヘンリー4世」のための音楽は次回、掲載いたします。


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