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スキー研究の実情

今回は僕が一年と少し行ってきて感じるアルペンスキー研究の現在をお伝えしたいと思います。何を知りたいのか、どんなことが計測可能なのかをざっくりと話していければと思います。

何を知りたいのか

今までスキーに関する研究ではどんなことが行われてきたのかを紹介していきます。

・測定手法に関するもの
スキーは特性上、一般的なバイオメカニクスで用いられている測定手法があまり適さないです。

バイオメカニクスの手法に関してはこちら↓

例えば、動作を計測するには固定カメラを複数台用いることができると嬉しいのですが、スキーの一本分を計測するには非常に大きな範囲をカメラの画角に収める必要があり、実際には計測対象が小さくなりすぎて非現実的です。また地面からの力を計測するにも、センサをスキー板に埋めなければ直接の測定は難しいです。このような事情から、データを楽に精度よくとるため、先人たちが様々な手法を開発しました。

ここ最近の技術的な進歩により、だいぶ進んだと思われます。

・ケガに関するもの
スキーは選手生命に関わる大きなケガをしやすいスポーツです。

ケガがどのようなときに発生するのか、予防するにはどうすればいいのかということを研究しています。特にケガの中でも重大かつ発生しやすい膝関節付近の靭帯に関する考察が多いです。

・スキー技術に関するもの
おそらく選手やコーチが最も興味を持つのがパフォーマンスに関するものでしょう。速い人にはどんな特徴があるのかという事象的把握、どうして速いのかという力学的解釈を与えたいというモチベーションです。

僕自身もパフォーマンスを向上させるにはどんな動作がカギになるのかを理解したいというモチベーションで研究しています。

スキーに限った話ではありませんが、スポーツにおける競技力は様々な要素が複雑に絡んだ結果です。そのため、これをこうすればパフォーマンスが上がりますよという統一された結論を導くのは非常に難しいことです。

スキーにおいては、雪面という多種多様なサーフェス上で運動しなければならなず、状況によって必要な技術は少なからず異なってくるでしょう。またスキー研究は最近になって進んできたので、考えるための土台となるデータ集めている(特徴を把握することに近いです)段階といえると思います。後ほど何を計測しているのかを話します。

この中には、WCのデータを分析したものもあります(また後で話そうと思いますが、僕もこの前の苗場WCでは少し関わらせていただきました)。

これからもっと進んでスキーに対する理解が深まればいいなと思っています。

・フィジカルに関するもの
技術とともにパフォーマンス向上に欠かせないのがフィジカルですよね。

身体的土台がなければ、身に付けたい技術がそもそも実現できなかったり、ケガが増えて練習できなかったりなんてことは避けたいです。

どんな要素を身に付けるべきなのか、そのためにはどんなトレーニング方法が良いのかということ(スキーに限らず)を研究しています。

何をデータとして計測しているのか

ここではスキーの技術を評価するために、何をどんな方法を使って計測しているのかについて話します。

技術の発達によって数年前よりも簡単に・精度のいい様々なデータが取得できるようになっていると思いますが、それでもまだできないこともあります。

・身体姿勢、運動
最も知りたい部分でしょう。滑走中にどんな姿勢でいるのか、斜面対してどんな運動をしているのかを計測したいということです。

競技経験がある人なら誰しも、自分の滑っている動画を見てここがうまい人と違うなとかやると思います。ここでいう身体姿勢、運動とはもう少し丁寧に見ていて、例えば頭の位置ってスキー板から何㎝離れているんだろうかとか、スキーヤーの速度などが分かるイメージで、下のような図を描くことができます。

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このようなデータを得るためには、固定カメラを複数台スキー場に置けば可能なのですが、労力に対して取得できるデータが少なく、もう少し適している方法が欲しいです。

そこで、慣性センサと呼ばれる姿勢を推定するものと、GNSS(GPSの一般名称です)と呼ばれる位置を測定するものの二つを組み合わせて測定することが増えています。

この二つにより滑走者全体の運動を把握することができます。

・身体にかかる外力
以前にも少し書きましたが、スキーは外力による影響がとても強いスポーツです。

アルペンスキーの特徴に関して↓

スキーを傾けることで地面からターンの内側方向への力を得て、曲がっていきます(下図)。またこれに伴って、スキーヤーはターンの外側に引っ張られるような力である遠心力(正確に言うと外力ではないです)を受けることになります。スキーヤーはこの力が概ねつり合うように姿勢を維持しながら滑走することが求められます。

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こんなことが起きているんだったら、地面からどのくらい、どんな方向に力を受けているか知りたいです。

しかしこれを直接測定するのはなかなか難しいです。この地面からの力はスキー板を介して受けるので、スキー板にセンサを組み込めば測定できますが、いちいち専用の板を使う必要があるので汎用性に欠けます。

そこで、身体にかかる加速度から間接的に外力を推定するという方法をとることがあります(※1)。これにより地面からの力を概ね推定できます。

・スキー板のたわみやねじれ
現在のカービングスキーは単なる木の板とは異なり、たわみやねじれという挙動が生じます。またスキー板は雪面の小さな起伏などにより振動します。このような滑走中のスキー板の動きを知りたいです。

これには直接たわみを測定する方法やひずみゲージと呼ばれるものを利用する方法などがありますが、測定の精度と使いやすさがイマイチな部分があります。

・筋の活動具合
滑走中にどの筋肉がどれくらい活動しているかを計測します。これによって瞬間瞬間で活動している筋とそうでない筋が分かったり、ある筋を使った方が姿勢維持には楽なのに使えてないということが分かったりします。

これには筋電図と呼ばれるものを体に直接貼り付けることで、測定できます。

おわりに

今回はスキー研究ってどんなことやってるのかということに答えるために、その要素を手法とともにお伝えしました。

ここまでの自分の投稿はかなり一般的な話で退屈な部分もあったと思います。次回からはもっと具体的なエピソードや、個々の技術的な話をしていければと思っています。そんな中で、スキーに対して考える時間が増えてくれればいいなと思っています。

※1:力学をやったことがある人であれば、運動と力の関係である、力が物体の加速度を変えるということの逆をやっていると理解してくれればいいです。

おわり

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