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【Doctor Tのスポーツ医学】正月太り。1日1万歩、歩けばいいの?

 明けましておめでとうございます。Doctor Tです。
 昨年秋にこのnoteでの投稿を始め、多くの方に読んで頂くことができました。ありがとうございます。今年はより一層皆さんの役に立つ情報を発信していきたいと思います。Be physically active and stay healthy!

定着している歩数計算と1日1万歩

 日常診療で患者さんに「運動していますか」と聞くと、私の感覚で80%位の方が「歩いています。」さらにその半分以上が「1日〇〇歩です」と仰います。残りの方は「1日、もしくは1週間に約〇分歩いています」と答えます。

ガイドラインでの推奨は「強度と時間」ベース

 一方で、アメリカやイギリス発行の一般の方向けの運動に関するガイドラインでは、いずれも有酸素運動は中等度以上の強度で週150分以上(アメリカだと150-300分以上)となっています。強負荷(vigorous)であれば週75分以上です。

https://assets.publishing.service.gov.uk/government/uploads/system/uploads/attachment_data/file/832868/uk-chief-medical-officers-physical-activity-guidelines.pdf

本当に「1日1万歩」でいいのかという疑問

 歩数だけでは、その歩くスピードがわからないので「運動の強度」が決まりません。おそらくデパートで買い物をしている時、歌が歌えないほどの速さ(中等度)で歩く人はいないと思います。中等度というのは一人で外を歩いている時か人と一緒の場合であれば、運動をしようと意識しない限り達成できないのではないでしょうか。

 そこで「本当に目標は1日1万歩でいいのか」という疑問を持ちました。

 この疑問に対してアメリカのスポーツ医学会(American College of Sports Medicine)のメンバーが回答しているので、その記事を紹介します。

Walking 10,000 steps a day - What is the correct number? (1日1万歩。正しい歩数は何歩?)

歩数を数えるだけでも良い!

 運動をしないでいる(Physically inactive or sedentary)よりは、動いていた方が良いです。歩数計やwearable deviceなど、歩数をカウントできる簡単な機械があり、数字で目標を立てられるという便利さがあるので、歩数を数えるだけでも◎なのだそうです。

「1日に1万歩」でいいのか

 1日1万歩という数は、科学的な根拠に乏しいようです。しかし、これは日本においてだけでなく海外でもよく用いられる目標値で、オーストラリアにおけるキャンペーンでは、一般の方に伝わるメッセージがシンプルだという理由で1日1万歩が目標となっています。

1日1万歩にはまだ科学的な裏付けがない

 1日1万歩が広く普及している理由が「万歩計」という日本で開発された装置の名前からきているらしい、という説は面白いですね。1965年の東京オリンピックに合わせ「1日1万歩運動」が始まり、研究者の波多野 義郎という人が提唱し始めたようです。なぜ彼が1万歩といい始めたのか、私が探した範囲ではわかりませんでした。

エキスパートグループも結論を出せていない

 Physical Activity Guidelines Advisory Committee (PAGAC)という科学的根拠に基づいてガイドラインを作成しているグループがありますが、そこでもまだ歩数と運動負荷の関連を結論づけるのは難しいとしています。

現時点で言えることは

 1日あたりの歩数が最も少ない人より、最も多い人の方が心血管の病気や2型糖尿病、若年で死に至る可能性が低いということです。

1日7000−9000歩が推奨ラインかもしれない

 1日7000−9000歩くらいが、ガイドラインの推奨する「中等度以上の有酸素運動を週150−300分以上」の健康への利益に匹敵するのではないかとアメリカスポーツ医学会の記事にも書いてありました。おそらく年齢にもよるでしょう。

 平均72歳の高齢女性を対象にした研究では1日4400歩くらいで死亡率が下がり、1日7500歩までは歩数が増えれば増えるほど死亡率が下がったようです。下のリンクです(Leeら,2019年)

まとめ

  • ガイドラインの推奨は「中等度以上の有酸素運動を週150分以上」

  • 歩数を数えるだけでも、運動のきっかけやモチベーションアップになるのであれば良い

  • 歩数と運動負荷の相関は科学的に結論づけられていない

  • 歩かない人に比べ歩く人の方が心臓や血管の病気や2型糖尿病に罹る可能性が低くなる

  • 1日7000−9000歩がガイドラインの推奨に近い効果があるのかもしれない

2022年も楽しく安全に運動して、充実した年にしましょう!




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