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大きな壁-なぜみんな運動できないのか-【DoctorTのスポーツ・エクササイズ医学】

こんにちはドクターTです。この数日は本当に寒いですね。風も強いし気温も低い。どうしても体が縮こまってしまいます。そんなときは家でストレッチやヨガをしてみてはいかがでしょうか。外を歩かなくてもできる運動はあります!

最近、とある家庭医研修プログラムで若手医師や医学生向けに授業をしました。テーマは「人に運動を勧める」。内容の一部をここでも紹介します。医療者も運動不足の人が多いです。

「知っている」と「実行できる」は別

「運動が健康によい」というフレーズはとても頻繁に耳にします。しかし、その事実を知っていても皆んながみんな運動してはいません。みなさんはいかがですか?

私は、仕事とは切り離しても、自分の周りの人達がもっと運動したらいいのにな、その人達がいつも、ずっと元気でいるためにも運動してほしいなと思っています。

しかし、なかなかその思いが伝わらないことをこの一年で痛感しています。

人にはeducational pointと言って、健康が心配になり行動し始めるタイミングがあります。

  1. 自分が病気になったとき

  2. 近い人(家族や友人など)が病気になったり、亡くなったりしたとき です。

でも、できればそうなる前に気づいてもらいたいわけです。

「動かないこと」にあまり危機感が持たれていない

タバコや肥満より健康に悪いという事実

このグラフではここに書かれている不健康リスクを無くしたら、死亡率がどれだけ下がるかということが示されています。

例えば運動して有酸素運動能力が「低い」レベルから抜け出せられれば死亡のリスクが15%くらい減るということです。禁煙の8%と比べると大きいですね。

有酸素の運動能力が低いというのは、ちょっと動いただけで息が苦しくなったり、心臓がドキドキしてそれ以上動けないという状態を意味します。

あなたは、タバコを吸う人と運動をしていない人に対して同じような見方をしているでしょうか?運動するというのは意識が高い人のやることだというイメージはありませんか?

運動をすると言うのは決して一部の意識の高い人が+αでやっていることではなく、禁煙を勧めるのと同じ基本的なことなんですね。

運動には死亡リスクを減らす以外のメリットがたくさん

運動することで病気になりにくいと言われてもなかなか実感がわかないのも理解できます。理屈を知っている医師でさえ運動できていない現状を見てもそれは明らかです。

病気にかかる、死亡するという遠い話ではなく、比較的すぐに実感できる効果もあります。

  • 清々しい気分になる

  • よく眠れる

  • 日常生活で疲れにくくなる

  • 達成感から自己評価があがる

  • 運動を通してひとと知り合える

これらは多くの人が悩まされている問題ではないでしょうか。眠れないために薬を飲んだり、疲れているからエナジードリンクを飲んだりする代わりに体を動かしてみるのはどうでしょう?

運動できない理由

時間がない、忙しい、疲れているなどは以下のスポーツ庁が出している資料にもありますし、実際私の友人や知り合いからもよく聞かれる理由です。

体を動かす時間はまずは5分でもいいし、逆に疲れが和らぐのですが…

データや自分の知り合い外国人の話を聞くと、外国は日本より運動が生活に浸透しているように感じます。もしかしたら、日本人が運動しない理由の一つにsocial normがあるのではないかと考えています。「みんな運動していないから、自分もできなくて仕方ない」という風潮です。

これが、日本人が「運動できない大きな壁」ではないかと思っています。

残念ながら、みんな運動できていない日本にいれば運動しなくても問題ないということにはなりません。どこに住んでいても生物学的に動かないのはよくないという事実は変わらないのです。

小さなことから始めてみて!

以前お話したように、体を動かすことは、いきなり沢山やらなくても効果があります。記事はこちら

縦の赤い線より左側は運動量が少ない人達です。少し運動量が増えるだけで死亡率が大きく下がっています(Biggest drop in mortality)。運動量が0→10になると、死亡率が1→0.7と、30%も下がっています。一方、赤い線より右側の人達(ある程度体を動かしている人達)は、運動量が10→20に増えても死亡率は0.7→0.6と10%しか下がっていません。「同じだけ運動量を増やす場合、運動習慣のない人の方が効果が大きい」ということです。

まずは好きなこと、できることから始めてみませんか?

まとめ

  • 実は…人々は動かないことに対する危機感が低い

  • 動くとすぐに息切れがするような運動不足は肥満やタバコ以上に健康に悪影響

  • 運動には死亡率を下げる以外に、もっと身近に実感できる、良い効果がある

  • 日本では、運動していなくても大丈夫という風潮があるかもしれない

  • 小さな運動から始めても効果がある

体は動かさないと衰えます。今回は死亡率を指標にしましたが、運動不足でぽっくり亡くなるわけではありません。動けなくなり、精神的にも自己評価が下がるというプロセスを経ることがほとんどです。これは生き物として自然の流れですが、運動でこの辛い期間を短くすることはできるかもしれません。

少しでも多くの人が体を動かしてみて、その良さを自ら実感してもらえたらとても嬉しいです。

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