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アーティストが暮らす森で、旅する写真家が見つけた "移動型アート体験"

「気に入った葉っぱを見つけて」人と自然が繋がるとき——。

spodsのバス改造DIYの歩みや人との出会いを、写真に捉えてきたフォトグラファーの加治枝里子さん。フランス・パリで独立後、東京を拠点に活動しながら、北欧からインドまで、世界各地を子供とともに旅しています。

そんな加治さんが、長野の森で見つけた移動型のアート体験とは?
海外アーティストとの出会いとクリエイションとは?

DIYボランティアに参加してくれた菊池奈那さん、そしてGallery38のオーナー堀内晶子さんの全面協力で実現した8月の「spods長野小海・アートツアー」。豊かな自然と光に満ちた写真とともに加治さんがレポートします。

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長野県南佐久郡小海町、北八ヶ岳の麓に広がる高原に、2019年夏、新しくアーティスト・イン・レジデンス、「KOUMI ARTIST IN RESIDENCE」が誕生した。

国内外から招聘されたアーティストたちが、数カ月に渡り小海町に滞在して作品を制作する。

spods初の長野遠征で、彼らが滞在しているレジデンスに泊まり、森の中で開催されるアートワークショップに参加できるという!

写真家の友人が海外の“アーティスト・イン・レジデンス”に滞在していた話を聞いてから、ずっと憧れていた。

作品制作だけに集中できる時間はどれほど贅沢だろう。もし私もいつか滞在できる機会ができれば......と想像することもよくあった。

そして、高原にあるというのに“小さな海”と書く小海町は、いったいどんな場所だろう。


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高鳴る気持ちを抑えて、私はspodsの1号に飛び乗った。

白樺の木々に囲まれながら、山道をくねくねと登りつづけるバス。

バス2台での遠征は今日が初めて。バス改造DIYの初日から何度となくDIYに参加し、100人以上の人々の手でみるみる変貌を遂げていく様を間近で見てきた。

ようやく完成した “手作りバス”で長野までやって来た! 一緒に作業をしてきて顔なじみとなった仲間たちと車内で盛り上がった。

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まずは「ここを訪れないと『小海に来た』とは言えない」と地元の方が強く勧める“白駒の池”と“苔の森”へ向かう。

降りるとすぐに全員が合流して駐車場で、山歩き前の準備体操が始まった。


子供3人を含め20人近くいた。2号のメンバーはほとんどが今日初めて会う人だった。どういったメンバーが揃っているのかはっきりとわからないまま、一緒に体操をし、森へと入っていく。

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一歩中に入ると、いきなり一面ふかふかの緑の絨毯のような苔に包まれた原生林が現れた。

「わぁ〜、苔の上にキノコあったよ! 変な葉っぱもあるよー!」

“東京の子供たち”は、見た事のない植物をみつける度に立ち止まって興奮している。

同じように見えてもなんと500種類以上もの苔があり、「日本の貴重な苔の森」に選定されているという。

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清々しい木道を15分程進むと、木々の隙間から“白駒の池”の湖が見えてきた。

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標高2100m、日本で最も標高の高い湖だという。

透き通った静かな湖面は鏡のようで、青空が写っているところは水色に、森が写っているところは緑色だった。水際はみなも模様が揺らいでいて絵のようだ。

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神秘的な湖を1人で静かに見つめている女性がいた。

彼女が今回アーティスト・イン・レジデンスに滞在をするアーティストの1人、メキシコ出身でアメリカ・ニューヨークを拠点に活動するクラウディア・ペニャ・サリナスさんだ。マンハッタンにあるホイットニー美術館で展示するなど世界的に活躍するアーティストだという。

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「昨日、日本に着いたばかりでまだ時差ボケなの。この森、生まれ育ったメキシコの田舎に少し似ているかも」とクラウディアさん。

この湖や森の色、落ちている石や葉、湿度や音は、彼女の作品にどのように影響していくのだろう。

滞在後、制作された作品は東京・銀座のGINZA SIX内にあるギャラリー“THE CLUB”で展示されるという。ギャラリーのマネージングディレクターの山下有佳子さんも同行して森をともに歩いていた。

昼食に蕎麦や野草の天ぷらを食べ、さらに深い苔の森へと進む。

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「もののけの森」と呼ばれる森は、名前通りジブリの世界のようだ。

国内外いろいろな場所を訪ねてきたが、こんな森があったとは。
知らなかったことがなんとなく悔しい。

早朝の霧の中、誰もいない森はどれほど幻想的だろう。

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安藤忠雄氏が建築した小海町高原美術館から徒歩5分ほどの別荘地に「KOUMI ARTIST IN RESIDENCE」はあった。

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別荘地に似合うヨーロッパっぽい外観、綺麗に整った広大なイングリッシュガーデン。自然のなかに大きな館は佇んでいた。天井が高く、体育館のような空間は元々日本画家のアトリエだったという。

想像以上に広く、あまりに贅沢な空間に驚いた。

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アトリエには、クラウディアさんより1カ月以上前に来日していたドイツ人作家のハートムット・ランダウアーさんがいた。

彼はカードボードや紙、木材などを用いて、オブジェのような彫刻のような不思議な作品を制作しているところだった。

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陽気で気さくなハートムットさんだが、作品作りには苦戦していると話してくれた。

「今はとにかく山や滝に行っていろんな刺激を受けて、インスピレーションが降りてくるのを待っているんだ」

屋根裏部屋のような場所には、アーティスト・堀内結さんのアトリエがあった。

天井から差し込む自然光を照明に、水彩を描いている。

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「とにかくここは最高ですよ! 天然クーラーだし、自然が近くて気持ちが良い。共同生活も大変だけど面白いし」

彼女はここでの暮らしをとても気に入っているようだった。

夕方、小海町高原美術館のレストランで、アーティスト・イン・レジデンスのオープンを祝って盛大にパーティーが開かれた。

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東京の“Gallery 38”のオーナーであり、『KOUMI ARTIST IN RESIDENCE』を立ち上げた堀内晶子さんがスライドショーを使い、成り立ちや今度の展望などを紹介した。

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小海町役場の方や小海町高原美術館の学芸員の方々、中学校の美術の先生、晶子さんの学生時代の友人、子供たち、近所の方々、海外からのアーティスト......。

老若男女、いろんなコミュニティーが混ざり合い、もう誰が誰だかわからないけど、勢いよく「カンパーイ!」とシャンパンが次から次へと開いていった。

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美術館のすぐ隣にある天然温泉“八峰の湯”に入る。

晶子さんの義妹だというファッション・エディターの大平かりんさんと一緒に偶然入ることになった。初対面でキャッキャ言いながら一緒に温泉に入るというシチュエーションが可笑しくって楽しい。

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続いて、小海町高原美術館が閉館後に“ナイトミュージアムを特別にオープンしてくださった。
美術館は今回のメンバーだけに貸し切られ、学芸員の中嶋実さんの解説をゆっくりと丁寧に聞けた。

写真家・ハービー山口さんの写真展が開催中だった。フィルムで撮られたその時代にしか撮れない日常の刹那な一瞬一瞬があった。

ワインを飲みながら、すっかり仲間のようになったメンバー達とともに、1枚ずつじっくりと見てまわり、その都度写真について長く語り合った。

中嶋さんは、「この写真が好きなんですよー!この瞬間撮るってすごいんだよ!」と溢れる愛を抑えきれないほどに力説していた。

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これほどまでに人を魅了する写真を撮れて展示ができたら、どんなにいいだろう。

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美術館から今夜の宿であるアーティスト・イン・レジデンスまで徒歩5分ほどの道を1人で戻る。

街灯ひとつない別荘地。
簡単に辿り着けるはずなのに、闇の中で迷子になりかけた。

見上げるとハッとする程、空一面に美しい星が散らばっていた。

アーティスト・イン・レジデンスに戻ると、ダイニングで宴会が繰り広げられていた。

一つの椅子を2人でシェアしながらぎゅうぎゅう詰になったテーブルを囲み、夜が深まるとともにさらに盛り上がった。

そして、だだっ広いアトリエでまるで修学旅行のように雑魚寝した。

高原の朝はひんやりとしている。
今日のワークショップが開かれる森へ。

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地元で様々な自然体験プログラムを開催している「じろ倶楽部」のみなさんが森を案内してくれた。

「秘密基地」と呼ばれる森の中にはツリーハウスがあったり、枝で作られたアスレチックのようなものがあった。

子供たちは目をキラキラさせて森を探検していた。

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偶然にも同じ小海町に、私の知人が運営する“フィンランドビレッジ”という名のサウナが体験できる施設があると聞いていた。

実際にフィンランドなどの北欧に行った事があるが、小海の森は北欧の森によく似て美しい。

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よく冷えたきゅうりやレタス、ぷりぷりのとうもろこし......。
さっそく、昼ごはんの仕込みに取りかかる。

「美味しい〜!シシトウってこんなに甘いの!?」
濃厚な野菜を味見しながら、大人たちもみんな大はしゃぎ。

「今朝畑から採ってきたばかりの新鮮なものですから!」と、じろ倶楽部の方も自慢気だ。

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薪割りからスタートして、羽釜で米を炊き、鶏肉も一羽ごと下ごしらえしてスープを作る。

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料理を煮込む間に、森の中でワークショップが開催された。

最初は堀内結さんのワークショップ。

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「森の中で、気に入った葉っぱを見つけてください。そこに大切な人へ宛てたお手紙を書いてください」

結さんがペイントしたオリジナルの封筒に“葉っぱの手紙”をしたためると、希望の住所に送ってくれるという。

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みんな森を散策して真剣に好きな形の葉っぱを探し、誰かを思って静かに手紙を書いた。

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2人目はハートムットさん。

「森の中で見つけた木の実や枝で、彫刻作品を作る」というワークショップ。

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枝にドライバーで穴をあけ、そこに不思議な形をした枝をさす。

松ぼっくりを飾ってみたり、花をさしてみたり......。
材料が足りなくなったら、すぐ周りに広がる植物を探し、また作業をする。

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「流石だなぁ」

木々に草を編み込んでいたクラウディアさんの作品に、みんなが感心していた。

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「こんなに真剣に物作りに没頭するのは、いつぶりかな......」と参加者。

彼らの手によって、現代アートのような面白い作品が次々に生み出された。

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spodsのDIYボランティアに何度も足を運び、「spods長野小海・アートツアー」を全面的に企画協力してくれた菊池奈那さん。いまは週に何度か“Gallery 38”でお手伝いをしているそう。

spodsバス2号のピンク色の座席シートはDIYで作ったそうだが、奈那さんのお母さんにお借りしたミシンで縫製したそうだ。

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森の奥の野外炊事場に戻ると、昼食が完成していた。

太陽に照らされキラキラと光る植物たちに囲まれながらのランチ。

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ほかほかの湯気が出る炊きたての甘い米、新鮮な野菜と鶏肉が煮込まれた絶品のスープ、炭火で焼かれたジューシーな豚肉......。

どれもこれもが飛び上がるほどに美味しい!

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「みんなで作って、外で食べるって最高!」

昨日まで知らなかった人々ーーきっと普段普通に過ごしていると、交わらなかったコミュニティとコミュニティが混ざり合い、「美味しい美味しい」と笑いながら一緒に食べている。

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この土地に“移動”し、来なければなかった“新しい場”だった。

ここで繋がった縁は、きっとさらに繋がっていくような、そんな確信があった。誰かが誰かと繋がり、何かが新しく生まれる気配を感じた。


2カ月後、“Gallery 38”でのハートムットさんのエキシビジョンに足を延ばした。

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ドイツから彼の妻と2人の息子が完成した作品を見にきていた。

「これは小海で見ていた霧に包まれた景色から着想を得て描いたんだ」

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「君たちが帰った後、すごい勢いで集中して制作し続けていたよ。日本が大好きだからまた来るよ。君もドイツに遊びにおいで」

彼とはドイツか日本のどこまでまた再会する。そんな予感がした。

“移動”し、ともに作品を作り、一緒にごはんを食べる。

“新しい場”は、住んでいる国や世代を超えて、人と人を繋いでいく。


写真・文:Eriko Kaji
アーティスト:Claudia Peña Salinas, Hartmut LandauerYui Horiuchi
企画協力:Akiko Horiuchi(Gallery 38), Nana Kikuchi
編集:Neko Sasagawa

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