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「味噌汁」でSXSWを驚かせたデザイナーの新たな実験

UMAMI Lab主宰の望月重太朗さんが「デザイン×食」にたどり着くまで。

炊きたてのお米にたっぷりと出汁(だし)をかけた、出汁茶漬け。

それだけでも美味しいけれど、そこに、炒り番茶の茶葉で燻製をしたきな粉、粗塩、オリーブオイルを添えてアレンジしたり。はたまた、出汁ガラを乾燥させて山椒や青のりなどの好みの味とブレンドし、ポテトチップスにかけてフレーバーを楽しんだり。

出汁を引く全ての調理ユニットを、コンパクトなスーツケースに収めて各地にくりだし、日本の伝統的な出汁と、現地の食材や調味料、お酒をブレンドすることで、その土地ならではの「旨み」を発見していく移動式のポップアップ出汁ラボラトリー「UMAMI Lab」。

2019年11月、NHK WORLDの特集「The Art of Eating」で紹介されるなど、海外でも話題を呼んでいます。同内容は、2月にEテレでも放送が決まっているそう。

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NHK WORLD より

UMAMI Lab主宰でspodsに参画する望月重太朗さんに、SXSWで人気コンテンツを生み出すまでのキャリアや、今後の挑戦について聞きました。

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デジタル領域の表現、代理店で感じた限界

望月さんは2003年、博報堂アイ・スタジオに入社。Webデザイナーとしてキャリアの第一歩をスタートさせました。

当時のWebデザインは、チーム単位より個人で動くことが多く、プログラムもデザインも運用も、大げさに言えば“すべて一人”でやることが主流の時代。

自動車メーカーや電機メーカーなど大手企業のWebサイト制作を手がけるほか、デジタルのプロモーションやPRに携わってきたそうです。

デザイナーという軸を持ちつつも、仕事の幅を広げディレクション業務に踏み出した望月さん。一方で、仕事に向き合うほどに、デジタルプロモーションの広告に「限界を感じた」と話します。

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「基本的に広告業界は、お客さんからの『こんな告知をしたい』とか『ブランドイメージをあげたい』という声を聞いて、案件化していきます。でも、僕がやっていたデジタルという領域は、受託の仕事ではない領域にも身を置いていないと、表現や仕事の幅が広がらないと気づいたんです。

これからの時代はIoTだ、AI(人工知能)だーー。

そんな未来がすぐ近くまで来ていることが分かっていても、クライアントのいる広告の世界では、なかなか自社の事業として先行事例のないものに一歩を踏み出せない習慣があったそう。

「受発注の関係の中で、先行事例だけを見ながらの仕事は、面白くない」

「どんどん自分たちが現象を作っていくべきだ。もっとクリエイティブワークをつくる現場を立ち上げよう。立ち上げなくてはいけない」。望月さんはそう強く感じたと振り返ります。


SXSW初出展、そしてオフィシャルスピーカーに

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2012年、望月さんは、クリエイティブディレクターとして、デザイナーやエンジニアエンジニア、プロデューサーなど領域を横断して「作りたい欲求の強い人」を集めた社内自主プロジェクト「HACKist」を始めます。

例えば、そこから生まれたプロダクトのひとつが、ARの技術を応用して作られた「UNLOCK COASTER」。

その名の通り、木製コースターなのですが、裏に彫られた模様をかざすと、Basic認証が解除されるという仕組み。当時、博報堂アイ・スタジオのインターンシップ生へのギフトとして考案されました。

「デジタルと物理的な接触を繋げて『物を作る』と、(ユーザーの)経験値が上がるなと思いました。とてもタンジブル(手触り感のある)な体験でしたね」

1年半ほど活動を続けた2013年の秋、アイデアやプロトタイプが増えてきたタイミングで、望月さんらは、毎年3月にアメリカのテキサス州オースティンで開催される最新テクノロジーの祭典「South by Southwest(SXSW)」に出展を決めます。

「自分たちが作ったものがどれぐらい影響を与えるのか。海外で受け入れられたら、日本でも話題になる」

今でのこそSXSWは、日本でも注目されていますが、当時は日本企業が出展するケースはまだ少なく、そんななか広告代理店による出展は大きな挑戦でもありました。

その狙い通り、望月さんらが出展した「Tread The Moon」という月面を走るデジタル体験を提供するランニングデバイスは、現地で大きな話題を呼びました。

SXSW終了後に東京・原宿で「Tread The Moon」を展示すると、複数のメディアから取材依頼が。まさに望月さんが思い描いた展開でした。

それから毎年SXSWに出展。なかでも、ぬいぐるみにつけるボタン型スピーカーPechatは、SXSWをきっかけに大ヒット。「心を通わせる、おしゃべりボタン」は、次世代の育児アイテムとして子育て世代の心を掴みました。

そして、4年目の2017年、望月さんはオフィシャルスピーカーとしてトークセッション「Miso soup&Prototyping:The Future of Advertising」を披露します。

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https://schedule.sxsw.com/2017/events/PP96955 より

「プロトタイピング」で社会の課題解決の近道を探し、新しいビジネスのタネを生み出す考え方(Prototype to Business、P2B)を、日本の伝統的な食品の一つである「味噌」の醸成プロセスと照らし合わせて発表したのです。

味噌汁とプロトタイプ。その斬新なアイデアに、海外でも高い関心が集まり、定員200人ほどのセミナーには、定員の倍近い人が押し寄せました。


なぜデザイン×食にたどり着いたのか

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なぜ味噌、つまり「発酵」に着目したのでしょうか。

すると、望月さんは「父の影響が少なからずある」と語りました。

「僕が中2ぐらいの時に、父が、山口県の下関でフグを扱う加工会社を立ち上げたんです。老舗と戦いながら研究開発をして新商品を生み出して。5〜6年かけて、世界で初めてトラフグで魚醤を作りました。そういう“食”や“発酵”への興味というのは、父の影響なのだろうと思います」

SXSWでの活躍を経て、2018年にはオランダで開催される欧州最先端のテック×デザインカンファレンス「Border Sessions」に初参加。

ちなみに望月さん自身、20歳の時に初めて海外に行った国はオランダで、卒業制作はオランダのクリエイティブに関するものだったとか。

「知人から『望月さん、おでんでも作りませんか』という相談を受けたんです。その知人もBorder Sessionsで日本酒を振る舞うことになっていて、僕がInstagramにおでんの写真を載せているのを見ていたようで(笑)」

「デザインをリサーチしに行くついでに、おでんをやろうと思ったのですが、いざ進めようとすると、カフェの営業妨害になるという事でNGになったんですね。じゃあ、出汁ならいいんじゃないかと」

「おでんを始め、日本の食文化のベースとなる旨味の結晶したスープなら海外でも受け入れられるだろうし、カフェの営業も邪魔しない。そこから出汁を軸にした食体験のデザイン活動が始まりました」

とはいえ、ただの鍋で出汁を引くのでは面白くない。

コーヒーを淹れるように、サイフォンで出汁を引いて、振る舞うことにしたら...? 1つのスーツケースに機材の全てを入れて、世界中どこでも旨味を見つけるマイクロラボにしたら...?

その発想から「UMAMI Lab」は生まれました。

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「デザイン×食」の世界へ。こうして望月さんの新しい企みが始まったのです。

「テクノロジーって、刹那的なんですよ。その瞬間は楽しくても、2、3年経つと古くなる。そのサイクルを繰り返して、新しいものを生み続けることもいいけれど、一生やり続けるのかと言われると、疑問でした」

「だから、もう一つの軸として、継続的に成長させられ緩やかに変化するクリエイティブにもつなげようと思って。それが“食文化”をプロジェクトに据えたきっかけです」


漁港や道の駅に「移動するキッチン」を

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望月さんは2018年末に独立。UMAMI Labを主宰しつつ、自身の会社REDD inc.を立ち上げ、武蔵野美術大学の非常勤講師もしています。

「移動型クリエイションスタジオ」のspodsでは、バスに乗せて運ぶ展開型のユニット「spods U」を開発。資生堂の“fibona”プロジェクトで、Z世代とともに未来のビューティーを考える取り組みも推進しています。

最近では、spodsのことを「Mobility → Community → Creativity」と表現されたのが印象的でした。はたしてspodsをどう捉えているのでしょうか。

「spodsの話を聞いたとき、“今っぽい”と思いましたよ。いろいろなことを経験している大人が新しいことを始める。パラレルワークとして今まで培ったキャリアを生かす。とても大事なことです」

「spodsもUMAMI Labもそうですが、モビリティをきっかけに新しいコミュニティを使って、現場に着地させる。来てもらうのではなくて、人がいる場所に自分から行く。やれる幅も広がるし、現地の人もアプローチに気がついてくれる。二重の効果があると思います」

「もちろん場所が固定化されていることの良さもあるけれど、キッチンのようなものは、これまでにない柔軟性が生まれると思っています。キャンプと同じで、キッチン自体が移動していく状況は、それだけで面白いじゃないですか」

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「『移動するレストラン』ってみんなときめくし、やってみたいと思う。漁港の横で、とった魚をさばく。道の駅で手に入れた食材をその場で料理する。そういうことを、spodsのバスでやっていきたいですね」

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望月さんは、これまでの道具の新しい使い方についても夢を膨らませます。

「『こんな使い方があるなんて』と道具の機能の拡張を同時にやっていくと、体験が倍加すると思うんです。UMAMI Labで言えば、コーヒーの道具を使って出汁を引くのは一つの拡張です」

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「参加した人が、自分の家でもやってみたら面白そう、というイマジネーションが刺激されるし、次のアクションに繋げたくなるような提示になりますよね。使い方の新しい発見というか、技術のプレゼンになると思うんです」

2020年、望月さんの「移動するキッチン」の展開が楽しみです。各地のUMAMIや人との出会い、新しい体験が生まれるはずです。


取材・文:Naho Sotome
写真:Nobuhiko Ohtsuki, Masahiro Takechi
編集:Neko Sasagawa

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