マガジンのカバー画像

濁流怪異譚

4
短めの怪談、奇談。
運営しているクリエイター

記事一覧

【怪談】車窓の中の女

【怪談】車窓の中の女

 会社帰りにバスに乗っているときの出来事だ。
 揺れの激しい車内で本を読んだりスマホを操作したりすると酔ってしまうので、いつも、ぼんやりと車窓を見つめながら過ごすことにしている。その時間帯はすでに夜で、バスの車窓には鏡のように車内の様子が映りこむ。結局のところ、車窓を見つめるということは、車内の様子を見つめているということである。
 その日も、どこに焦点を合わせるでもなく、車窓へと目を向けていた。

もっとみる
【怪談】チャットアプリ

【怪談】チャットアプリ

 ふとしたとき、ずっと会っていない過去の人を思い出すことがある。
 いま頃、どうしているだろうか。元気でいるだろうか。ぼんやりと思い浮かべるだけで、実際に再会できることはほとんどない。
 中学のころ仲の良かったある友人も、引っ越しを繰り返しているうちに行方がわからなくなり、ぼんやりと頭に浮かべるだけの存在になっていた。
 その状況が変わったのは、チャットアプリのおかげだ。
 新しいものに疎い私はそ

もっとみる
【奇談】伝染

【奇談】伝染

 最初は、高校生のときだった。
 当時、交際関係にあった同級生の男の子から、性行為を要求された。「男は我慢できないんだ」と切実に訴えてきていた。興味がないわけではなかったが、痛そうだし、気分が乗らなかった。
 いくら断りつづけても、要求は弱まらなかった。仕方がない。彼のことは好きだったし、そこまでなら、と結局、折れることになった。
 ゴムでやった。やってみると意外だ。好きな人と恥ずかしい領域を共有

もっとみる
【怪談】事故

【怪談】事故

 お盆の夜のことだった。
 地元に帰り、ひさしびりに友人と再会した。高校の頃よく一緒に行った駅前のラーメン屋へ出かけた。そのころ僕はまだ運転免許を持っていなかった。行きも帰りも友人の車にお邪魔した。
 ラーメン屋を出たときには、午後十時を過ぎていた。
 僕は助手席に座った。
 真っすぐ僕の実家まで帰るつもりが、せっかくだからコンビニに寄ろう、ということになった。どちらが言い出したのかは、わからない

もっとみる