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スパイスの裸を晒さないで

スパイスに、ちゃんと服を着せてあげたいんです。上着とかスカーフとか、もちろんインナーだって、靴だって!
ファッションを楽しむようにスパイスを配合できたら、きっともっと楽しいよっていう話をしたいと思います。

■嗅ぎ分けられる=裸

ハンバーグにナツメグとか、アップルパイにシナモンとか、ホットワインにクローブとか、ほんのちょっと入れて風味をよくすることってあるじゃないですか。そういうとき、ストレートに、ツーンと「あ、ナツメグ入れたな」ってわかるような使い方になってることは多いです。

スパイスがいろいろ混ざっているはずのカレーでも、ひとつのスパイスだけが目立つ配合になっていることがあります。

いいじゃない、スパイス入れたんだから。香りがわかって何が悪いの?って思うでしょうか。

悪くはないです。でも、もったいない...かも。

ナツメグだけが目立つ味付けは、ナツメグが裸のままなのと同じ。

キューピーちゃんにワンピースを編んであげたり、リカちゃん人形にスカートを縫ってあげたりするのと同じで、裸だったら服を着せたくなりません?どんな服装にするかで、ごっこ遊びも盛り上がるわけですよ。物語が生まれるじゃないですか。

■重ねると消える不思議

スパイスって、いくつかをうまく重ねると、個々の風味が消える瞬間があるんです。楽器の音色が、ほかの楽器と合わさることで、豊かなハーモニーの一部に溶け込むみたいに…。個性が消えるっていうのとは違う。重層的に旨くなる。

ナツメグが入っているけれど、ナツメグとは分からない、でもナツメグじゃなかったら絶対にこうならない。存在感は発揮しつつも、匿名化するんです。

ナツメグを裸のまま歩かせないで、ほかのスパイスでドレスアップして仮面もつけてあげれば、舞踏会で「あの方は誰????」ってさざめきが起きるかもしれないわけです。

■露出が多ければ?

ナツメグを、香りが分かるほど入れて、ナツメグ臭がするのは当たり前です。

ドレスアップして匿名化したスパイスたちの仕事ぶりを見破るのはちょっとだけ難しい。でも、特殊な能力じゃなくて練習、慣れです。

そもそも、匿名化してること、身元を隠して働いてるってことを意識せずに食べてしまっていて、作るときもその境地を目指してすらいない人が多いのでは。

香りをうまくブレンドできたからこそナツメグの裸が消えたのに、消えちゃったーと思ってさらに足していませんか。自分が知っているあのナツメグの香りがしないから、スパイスを入れた甲斐がない…と感じてしまうのかな。

裸を見たらそれだけで興奮するかって言われたら、そういう人もいるでしょう。でも、露出が多ければいいってもんじゃない、という人もいますよね。正直、スパイスの装いをみると、料理の作り手の性癖まで想像してしまうのだけれど。笑

■ドトールコーヒーの「大豆ミートバーガー」

味や香りは、一緒に試食していても人によって感じ方が違うときがあるので、まして言葉で伝えるのはとても難しいことです。実際に食べていただくことができるといいかなと思い、身近な市販品をふたつ、例に挙げてみたいと思います。

ひとつ目はドトールコーヒーの「大豆ミートバーガー」。中にはさむハンバーグが植物性。食べ慣れない食材のはずなのに何の違和感もなく、肉と言われたら信じたと思う。すごい完成度。

このバーガーのトマトソースは、飲み込んだ後に鼻にのぼってくる香りが特徴的です。これは。と目をあげると、ナツメグが裸でもじもじ立っていました。

目のやり場に困って、とっさにシナモンのバスタオルを渡してあげました。とりあえず、隠しなよ。

それから、カルダモンのワンピースを取ってきてあげました。一応、部屋着レベルになりました。

だけど期待の新人ですからね。新しい時代の風、世界に売り込むプラント・ベースト・バーガーだよ?(オリンピックのお客さんに食べてもらえるか分からなくなってきたけど…)ワンピの中にも、ちゃんとしたもの着せてあげましょう。

インナーは赤か黒か。(レッドペッパーかブラックペッパーか…)え?そりゃ攻めるでしょ。地味な子だと思わせといて脱いだら…!って、好きなの。スパイスに着せるものはどこまでもエロくする主義です。レッドペッパーをカレーの鍋に足すときは、赤いTバックを履かせてるつもりですから。笑

仕上げのクローブは、黒いレースのガーターリングかな。片脚だけ。これは誰にも見せちゃだめ、内緒。笑

…と、ここまでいろいろ着せると、もう、ハンバーグにナツメグを入れたな!とは分からなくなるでしょう。重層的に旨く、なるかしら。

■センスという逃げ

自分なら、この味にあと何を足すかという妄想を、いつもこんなふうにふくらませています。スパイス料理を作りながら、どういう風に味付けをイメージし、味見をしながら軌道修正しているか伝わるでしょうか。

漫画家さんたちが絵柄を描き分けるように、味付けにも料理する人それぞれの絵柄みたいなものがあるし、ハンバーグだってカレーだって、キャラとして擬人化しろって言われたらできますよね。

料理とか写真とかのアートは、センスの有る無しって話になりがちだけれど、それはある意味、逃げだと思うんですよ。まずは、できあがりをイメージするのを習慣づけるところから、とか…センスに行き詰まる前にできることいくらでもあるからさ。

■無印の「辛くないスパイスチキンカレー」

もうひとつの事例はレトルトカレーです。日本では「スパイシー=辛い」という思い込みがまだまだ多いので「スパイスカレー」なのに「辛くない」と常識を撹乱させる線を狙っていることに敬意しかありません。
そうやっていつも気負いすら感じさせず爽やかに独り駆けていく無印良品が好きです。

さぁ、それでどうなった。と食べてみて。

うん、だよね。まぁ分かるけどね。ってなりました。飲み込んだあとに立ちのぼるカルダモン…カルダモ~~ン…悶々悶々悶々…

目をあげると、カルダモン君が裸でもじもじ立っていました。目のやり場に困って…さぁ、あなたなら何を着せてあげますか。ふふ

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