脱衣所の客席から
お風呂上がりの身体を拭きながら、ふと廊下に視線を向ける。
さっきまで一緒にお湯に浸かっていた長男が裸のまま廊下を横切る。少し遅れて、オムツ姿の次男がまだおぼつかない足取りで長男を追う。キャッキャと楽しそうな兄弟の声。
脱衣所のドア枠からのその眺めは、まるで小さな舞台の一幕を見ているようで、頬が緩んだ。私は観客で、舞台の上とは違う世界にいる。
ふと、ようやくこの状況を客観視できるようになったのだなと気づく。
これまでずいぶんと気が張り詰めていた。そんなことにも気づいていなかった。
次男が生まれてからの1年は、ただただ毎日の生活に追われていた。生活の変化、夫婦関係の変化、長男の変化。次男が8ヶ月で仕事復帰をしてからは、職場での役回りも変わり、適応していくのに精一杯だった。私はいつも何かの渦中にいて、自分を振り返る余裕なんてなかった。毎日の生活を回し、なんとか1日を終える。
「生きるって大変だ」そんな風にずっと思っていた。それは事実であると思う。
だけど、すべてが大変で、悲観するようなものではないのかもしれない。
脱衣所のドア枠から切り取られた眺めは、それを思い起こさせてくれた。大変な日常のなかに、面白いことや小さな幸せは埋め込まれている。
感情の動く瞬間を、見逃さないでいたい。
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