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立地と商圏1 :2つの原宿_原宿/巣鴨

立地と商圏の違いについて。
以前、マガジン記事の商圏調査のパートでは、共に新宿駅から電車で5分、両駅間は徒歩で20分という代々木上原駅と笹塚駅を比較し、立地と商圏の違いについて書きました。
今回は、KAWAII の発信地、原宿駅とおばあちゃんの原宿こと巣鴨駅の2つの原宿の立地と商圏の違いについて考察します。

前提として、立地と商圏の考え方は企業やコンサル会社によって違い、双方は混在しがちです。

本文の内容は、これまで筆者が1000件を超える店舗出店や空間作りを行ってきた中で、経験と学びにより現時点で定義している立地と商圏の違いになります。


1:立地と商圏

1‐1:立地と商圏の定義

立地:その土地がどんな特性を持った土地(場所)であるか
商圏:その土地にどこからどこまでの範囲で人が集まり、どんな特性を持っ
   た消費者が集まり行動するか。

 立地を大きく捉えると、商業立地・ビジネス立地・住宅立地などがあります。住宅立地の商店街に地元密着型のラーメン店や蕎麦屋があれば、商圏は、駅前商店街に買い物に来れる範囲になります。来店客の中心は概ね住宅地に住む人々になります。
 例外的にミシュランを取るようなラーメン店があれば(代々木上原:Japanese Soba Noodles 蔦など)目的性が高いため商圏範囲(集客範囲)は限定しない(広域)と考えます。

 立地と商圏はニワトリと卵のような関係性にあり、おばあちゃんたちの原宿こと巣鴨とKAWAII 発信地 原宿を、立地と商圏の点から比較します。

1‐2:2つの原宿:巣鴨と原宿

 2つの原宿は街のイメージが大きく違います。東京に住んでいる人ならば、おばあちゃんの原宿こと巣鴨では巣鴨地蔵通り商店街、そして高岩寺のとげぬき地蔵尊に柄杓で水かけをするおばあちゃん達(消費者行動/特性)と、少しクラシックな喫茶店や落ち着いた看板が並ぶ飲食店や団子やさんのイメージが浮かぶ人も多いでしょう。
 一方、ポップカルチャーの街原宿は、竹下通り商店街に立ち並ぶピンク色の派手な看板の店舗やコスプレ服のショップやプリクラ店、クレープ屋さんに並ぶ女の子達や国内外から来る観光客(消費者行動/特性)のイメージを思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。
 このような街のイメージの違いがどうして生まれるのか確認します。

1-3:立地と商圏の関係

原宿と巣鴨の街のイメージが大きく違うように、街には特性があり、その特性を立地と呼び、その立地に集まる消費者の集客範囲を商圏と、弊社では定義しています。

街のイメージを担う2つの商店街を、立地と商圏の関係から比較すると
巣鴨
(立地)「痛みや病気を治し健康長寿を願う、とげぬき地蔵(巣鴨地蔵通り商店街)」 がある
(集客)「巣鴨・首都圏近郊から、健康長寿を祈るおばあちゃん達(高齢者)が集まる」
(立地特性)おばあちゃん達に好みそうなお団子・和菓子といった安心して入れる、落ち着いた飲食店が地蔵通り商店街に並ぶ。
原宿
(立地)「”KAWAII” ポップカルチャーの発信地、竹下通り(竹下通り商店街)」がある
(集客)「近郊・首都圏だけでなく、日本国内や海外からKAWAIIを求める若い女性や観光客たちが集まる」
(立地特性)若い女性達や観光客に好まれるクレープ・綿菓子など様々な食べ歩き店が竹下通り商店街に集まり、kAWAII文化をSNSで発信する。日本各地や海外から集客できる観光地になっている。

このように立地特性に合った消費者が集まります。そのため立地と商圏はニワトリと卵のような関係性を持ちます。
次に、地蔵通り商店街や竹下通り商店街以外に、巣鴨と原宿がどのような立地特性を持つ街か、TG/PCを検証していきます。

TG:トラフィック・ジェネレーター  PC:ポテンシャルクラスター
TG:交通発生源 ➡ 駅/集客施設など人流が発生する場所
PC:需要集合体 ➡ 人が密集している住宅地・就業地
これらの用語は、立地検証の第一人者である林原安徳氏が提唱されている考え方です。筆者は店舗開発として企業に在職していた際、林原氏の著作で学ばせて頂いたことから、これらの知見を取り入れています。

実践 売上予測と立地判定―実地調査と出店のポイント
最新版これが「繁盛立地」だ!―人が集まる、だから儲かる

2:立地検証/TG

検証条件

巣鴨駅、原宿駅 を中心に、0.5km 、1.0km、 2.0km の同心円内で検証。
用途地域の違いにより建築可能物件が違うため、地図下に記載する。
用途地域による建築物の用途制限の概要

【巣鴨駅】

0.5km 1.0km 2.0km 同心円
巣鴨駅周辺の用途地域:商業地域
Map Expert 用途地域 豊島区

巣鴨駅周辺と国道17号線(中山道)沿いに商業地域が広がり、商業地域を抜けると、第一種住宅地域、その背後に第一種中高層住宅専用地域がある。巣鴨駅から半径1km圏内に大塚駅・駒込駅・千石駅がある。また、巣鴨駅から半径500m 以内に消費を支える住宅地が広がる地域(PC)である。
明治時代末期から昭和初期にかけ、田端・駒込・巣鴨は文士・芸術家が集まり田端文士村と呼ばれた。現在もその名残を感じさせる遺物・遺跡が街を彩り、文人たちを偲ぶ街歩きや高岩寺のとげぬき地蔵参りなど、古き良き時代を偲び、楽しめる街であり、田端・駒込・巣鴨の歴史的背景を楽しむ年代層が交流人口として集まる地域であると考えられる。

とげぬき地蔵尊、田端文士村、古河庭園、飛鳥山公園(TG)が周辺にあり、各間を徒歩20分~30分程度で回れる。

参考:地蔵通り商店街散策MAP

巣鴨地蔵通り商店街

【原宿駅】

0.5km 1.0km 2.0km 同心円
原宿駅周辺の用途地域:第二種中高層住居専用地域
Map Expert 用途地域 渋谷区

 原宿駅周辺は、第二種中高層住居専用地域であるが、その用途地域の殆どを北西エリアにある明治神宮及び代々木公園が占める。原宿駅半径500m~1000m 内に一部第一種中高層住宅専用地域エリアがあるが、竹下通りから明治通り沿線が商業地域、一明治通り南東側の一部に第一種住宅地域・第二種住宅地域となり、エリア全体では、商業施設ビルの他、上層階に住宅+低層階に店舗/事務所等を構える複合ビル等が多い地域である。
 同心円1km圏内に表参道駅・北参道駅、2km 圏内に渋谷駅・外苑前駅が入り各駅からの原宿駅周辺への流入が見込まれる他、国立代々木競技場での大規模イベントや代々木公園散策・明治神宮参拝、野球観戦、美術館散策などのアクティビティ、ファッション、グルメ店(TG)を1日で楽しめ、渋谷・原宿・表参道全体のTGで消費の盛んな若い世代の交流人口を集めていると考えられる

参考:原宿駅・表参道駅・外苑前駅の各駅間は、徒歩20分程度

原宿駅を中心としたエリア内で、国立代々木競技場、代々木公園散策、明治神宮参拝、野球観戦などのアクティビティと、ファッション・グルメを1日で楽しめる

2-1:交通機関と乗降客数(TG1)

巣鴨と原宿の主な交通機関を確認。
・巣鴨:JR東日本 / 都営地下鉄三田線 
・原宿:JR東日本 / 東京メトロ千代田線(明治神宮前駅)
それぞれ2社の鉄道会社が駅を構えています。

JR東日本乗員数2022  筆者加工
JR東日本の発表数値は乗車員数のみ

参考:2019年JR東日本 乗車員数比較(コロナ前)

 JR東日本乗車員数2019 筆者加工
都営三田線2022年度乗降客数
東京メトロ2022年度乗降客数

2022年度乗降客数を纏めると以下の乗降客数になります。

筆者加工

2駅の乗降者数は原宿駅が 2,231人多くなっていますが、2つの駅の1日の利用者数はほぼ同数と言って良いでしょう。違いを確認します。

乗降客数の種別違いからみる街の傾向
巣鴨駅
定期乗車数が多く、在住者通勤、通学や巣鴨への学生・会社員が定期的な利用をしている。定期を使って日々安定的な人数が街に流入・流出しており、そこに定期外(交流人口)で街を訪れる方々で街が賑わっています。
原宿駅
定期人員数を定期外人員数が大きく上回り、定期外の交流人口(その地域を訪れる地域外の人)に、街の消費が支えられていることが解ります。
この傾向はコロナ前の2019年度JR東日本乗車員数(定期外が定期利用者の2倍以上)に顕著に表れています。

2-1-1:交流人口は消費傾向に影響する

定期利用が多く交流人口が少ない場合は、地域の学校・会社に通学通勤する人々により安定的な平日売上が見込まれます。一方、休日が弱い側面がありますが、巣鴨駅の場合、駅から半径500m 内から住宅地が広がることから、平日・休日の集客のふり幅が抑えられると考えられます。

例)元祖、サラリーマンの街である新橋駅は2021年度JR東日本の乗車員数割合いが、定期外36%:定期64%であり、平日の安定的な集客に優れている反面休日が弱いため、休日を定休日にする飲食店が多くあります。
(2022年は定期外42.4%、定期内57.6%のため、コロナ期間は定期外:交流人口が減り、定期比率がアップしたと予測します)

一方、交流人口の多い街は、遊び(観光)に来る人が多いため、休日集客に優れる一方で、先般のコロナの様なパンデミックや災害時には人出が途絶えるため、家賃人件費等の固定費を抱える店舗にはリスクが高くなります。
一方、メリットとして、遊び・観光目的の交流人口客は財布のヒモが緩くなるため、コロナ前の竹下通りにタピオカ店が乱立した際にも、営業が成り立ち、ブーム終了までに収益を上げて撤退、という荒業的営業スタイルが成立したりします。

2-2:集客施設(TG2)

巣鴨駅、原宿駅 の同心円内の主な集客施設一覧

諸データにより筆者編集
*原宿エリアは主たる施設を抜粋
諸データにより筆者編集
*通学に適した徒歩時間として1km以内で抽出

2-3:立地検証まとめ

巣鴨駅
田端文士村の名残りを残す巣鴨駅周辺は、とげぬき地蔵尊と始めとする歴史的遺跡や神社仏閣、公園などの落ち着いた雰囲気を醸し出す立地であり、JRの駅ビルは小型のアトレヴィである。また、商店街には昔ながらの喫茶店・甘味屋・飲食店・大型のドラッグストアが連なる。
駅から500mほどには住宅地が広がり周辺店舗やサービス業を利用する消費者が在住しており、ここに、定期外人員(交流人口)が流入して消費を上げる立地である。

原宿駅
原宿駅は、日本のKAWAII発信として世界に知られる竹下通りの他、明治神宮・代々木公園・代々木第一体育館といった集客施設が揃った立地であり、渋谷駅からも歩ける他、表参道ヒルズやハイブランドショップや有名な飲食店が点在する街表参道、神宮球場を抱える外苑前が徒歩圏内にあり、遊び、グルメ、ファッションなど用途に応じて終日楽しめる立地である。

*補足
商圏を考える上で商店街の長さは重要です。
巣鴨地蔵通り商店街:780m
竹下通り商店街:350m
という長さも賑わい感を演出しています。もし、地蔵通り商店街や竹下通り商店街が大阪の天神橋筋商店街並みの長さ(2.6km)があったら、現在の街のイメージと賑わいは生まれないでしょう。
不動産業界では、1分間に歩く距離=80m  としていますが、この計算方法で算出すると、2.6km は歩くだけで、32.5分かかります。途中でお茶や食事、食べ歩きをしながら歩くには2.6km の距離は長すぎ、商店街の中で立地による勝ち負けが出てきます。
出店者側として出店を検討する場合には、商店街の端から端まで消費者が流れているか、偏りがあるか、など確認する必要があります。

次回は、巣鴨と原宿のPC:ポテンシャルクラスターについて書きます。

店舗開発のお仕事についてマガジンに纏めてあります。
会社員時代の3つのチェーンストア時代の業務やスパイカ(株)の業務内容も記載してありますので、ご興味のある方はどうぞ!

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店舗開発プロデューサーとして、新規店舗事業構築及び空きビル業態転換のプロジェクト管理をPM/CMを兼任しながら行っています。


    


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