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店舗開発のお仕事4:事業計画書策定・予実管理①

事業計画書は出店を計画した時点で1回目の策定を行い、開業までに何度も練り直すことが必要です。練り直す度に、過不足が無いか、甘い収支になっていないか、もっとお客様に喜んで頂くアイディアは無いか、など見直すキッカケになります。


1:事業計画書策定のための準備をする

1-1:1回目の事業計画書策定の意味


物件がまだ決まっていないから、と事業計画書策定を後回しにせず、投資金額・売上予測・投資回収金額の流れを掴むために、必ず物件探す前若しくは同時に1回目の事業計画書は策定しましょう。

目的:出店する業態を客観的視点で検証する
例えば、新規店舗事業構築おける企業背景があったとしても(養鶏業➡鳥料理店)(養豚業➡豚料理)業態について3C分析やファイブフォース等のフレームワークを使い、客観的に『顧客』『自社業態』『競合』を確認します。
この時、飲食業の経験を持つ方は、自分の遣りたい業態を持っているかもしれません、その思いを確実に実現するためにも客観的な検証をお勧めします。

注)3C分析やファイブフォース分析で競合店として挙げた店舗は客として来店し、客層(滞在時間含む)・料理内容・料理単価・客単価・内装状況などをチェック・記録して置くことをお勧めます。

事業計画書策定前の業態設定の流れを以下に纏めます。
重要なポイントは業態と内装(空間)イメージの設定です。
*飲食事業の多店舗化を目指し、1号店開業に臨む事例で説明します。

1-2:業態決定の流れ

事例【店舗目的】仕事帰りの会社員が気軽に飲める居酒屋を開業する
①    軸となる料理と客単価を設定する
*メインとなる料理を決定します。
a)     鳥貴族のような焼き鳥/鶏 メイン料理
b)     魚金のような魚介メイン料理
c)     イタリア食堂のようなイタリアン・ピザメイン料理
d)     紅虎餃子房のようなお手頃中華メイン料理
注)仮にピザをメインにしたイタリアン居酒屋とするなら、ビザ窯・ワインセラーが、紅虎餃子房のような中華ならば、中華鍋用の火力の強いコンロや北京ダック釜(メニューによる)などの厨房機器の費用設定や内装工事の設備費用の計上が必要になります。
*中華料理は重飲食の代表的業態のため、物件取得に制約がでてくることがあります。
会社員が気軽に飲める金額はいくらなのか、学生が出せる金額との差額を検討します。30代~50代が気軽に飲める居酒屋であっても、学生のノリで騒がしい客層が集まると、敬遠されます。会社員が多い店舗と学生が多い店舗を数店づつ抽出し、食べログ等のグルメメディアで確認・来店して確認を行うと分かります。

②    メイン食材の調達と原価率の調査・設定をする。
 決定した業態で必要な食材の産地・流通・仕入れ値などをリサーチを行い、実際に生産者や流通業者、飲食店経営者から情報を収集します。また、アルコール類は日本酒・焼酎・ワイン・スピリッツなどを取り扱う酒販店・ビールメーカー等をリサーチして行きます。
初回の事業計画策定時に全て出来なくとも、事業構築段階で協力業者(生産者・メーカー・代理店)のネットワークを作っていきます。

③    人件費の設定をする
*企業の新規事業化:全て専任者雇用
*個人独立事業化:自分が料理人として厨房に入るのか、自分はホール・店舗全体を管理しながら料理人を雇用するのか、アルバイトを雇うのか、1号店はまず親族に依頼し費用を抑えるのか、人材の想定と人件費を想定します。

④    店舗空間(内装)イメージを設定する
 内装工事において、昔ながらの丸椅子が並びシンプルな内装の赤のれん居酒屋と、女性客も来店し易いシックな壁紙や木材を多用し照明で演色性強調するオシャレな店舗では、内装の仕上げ材費用や工賃で内装工事費が数百万単位で変動します。内装会社さんや知り合いの店舗さんに、どの程度の内装費が掛かったか、ヒアリングは重要です。

注1)店舗空間をイメージする場合、店舗イメージによって内装工事費が大きく変動します。物件が決定し、いざ設計業務に入る際に店舗イメージが設定されていないと設計に時間が掛かり内装工事に入れず空家賃が発生する、オシャレな内装をイメージしたら内装工事費用が嵩み、途中変更で設計のやり直しとなり設計費用が嵩む、など問題が発生することがあります。
ここは店舗構築段階で、十分なリサーチと検証が必要です。
コンビニの内装予算でベルサイユ宮殿は出来ない、ことを肝に銘じます。
2024年から建設業に働き方改革が施行されるため、内装工事の日数増と価格高騰が予測されています。

2024年建設業働き方改革

注2)コロナ前に飲食店専門誌で小坪数で簡素な内装でスタッキング式の椅子を活用し、お客様が増える度に椅子を補充しギュウっとお客様を詰め込み、ライブ感・賑わい感を演出する小規模店舗が『月坪50万売る店』といった特集が組まれました。
しかし、2020年3月からのコロナ蔓延による密度の高い客席空間へのお客様の抵抗や2021年6月からのHACCP完全義務化による衛生法の強化により、安易な模倣は問題が起こることがあるため、注意が必要です。

「HACCP(ハサップ)」は、アメリカのアポロ計画の中で宇宙食の安全性を確保するために発案された衛生管理手法です。その後、食品業界に評価されたことをきっかけに、次第に世界に広がり、いまでは衛生管理の国際的な手法となりました。
「HACCP」の意味は、「Hazard(危害), Analysis(分析), Critical(重要), Control(管理), Point(点)」の頭文字をとってできた造語です。

厚生労働省:HACCP

 事業計画書を策定する前に、上記のように業態をざっくりと想定し、3C分析やファイブフォース分析で、自社と顧客/競合 との関係性確認をお勧めします。
場合によっては、このようなフレームワーク分析で、ここのセグメントが抜けている、といった発見があるかも知れません。

新規飲食店舗事業の1号店目を計画した際の、初回事業計画策定前に業態は最低でもこの程度は決定しておきます。その上で、修正を掛けて行きます。2回目以降、実際に物件が決定した段階や、食材調達時の原価率の変化、目玉食材の入手によるメニュー変更時、内装工事費の発注額決定時、など事業構築段階に必要に応じて、何度も事業計画書は修正を掛けます。

1-3:事業計画書の数値は現実性を持たせる

初回でも事業計画書は、、①売上予測 ②投下資金予測 ③投資回収予測(CF)④損益分岐点計算書 の4つは算出をお勧めします。
まず、実際の店舗事業を初めて構築するにあたり、専門家に依頼せず自社のスタッフ(自分)で行う場合は、ノウハウや業態の収支モデルを持たないため、売上・家賃・客単価・内装工事費等を設定する必要があります。
*売上予測の際に、1人アルコールを5杯飲むなどの甘い予測はしないこと。

店舗事業の1号店の役割を定義します。
1号店の定義
店舗事業を構築する上で、黒字化モデルを作るテスト店

まずは、

小さく種をまきしっかりと強い根を育てるための1号店 です。

本文では、先ほどの4項目を検討した結果として、以下の設定の元に居酒屋開業のための事業計画書策定を進めます。

【前提条件】
運営者 :企業の新規事業
店舗目的:過度なサービスを排除した、気取らず入りやすく敷居の低い
     赤のれん海鮮居酒屋

① 月商目標決定:開業したい居酒屋で月商目標を決める
➡設定:魚介専門居酒屋:客単価3500円 / 月商500万円 / 席数30席
*空間イメージ:赤のれんと木目調の落ち着いた大衆海鮮居酒屋
*顧客設定  :35才以上の会社員(男女)

➡席数:30席:全てテーブル席として想定
この場合、4人掛けテーブル席に必ず4人で利用してくれるとは限りません。
2人/3人利用が多く発生するため、ロス率を見込んでおく必要があります。
*以下の売上予測表は、ロス率25%と35%で作成しました。

ロス率25%と35%の売上・回転率・来店客数

②必要坪数想定:30席を確保するために必要な坪数を算出する
 客単価3500円の大衆海鮮居酒屋として、気取らず日常使いの居酒屋を目指し、過度なサービスを排除し入りやすい敷居の低い居酒屋とします。

30席÷1.5=20坪:必要最低坪数とします。
注1)客単価の高い店舗ほど通路幅を広くし、ホールスタッフ数が多くなります。ギュっとお客様を詰め込む店舗は坪数に対し2倍以上の席数を設けていることが多いです。2022年8月時点でコロナは2類であり全数確認要のため、ここでは密度の低いフロア構成で設定します。

③家賃固定費率10%以下に設定する。
 売上は季節変動があります。月商平均目標500万だと家賃はマックス50万円です。この場合、看板設置費用や共益費・管理費も含めて50万以内、と設定します。
*必要最低坪数は20坪ですので、家賃坪単価25,000円以内の物件になります。この位の家賃相場のエリア・電鉄沿線駅を頭に入れながら商圏・物件調査を行うと良いでしょう。
   
想定業態を作り、事業計画書を策定するため必要な4項目を設定しました。初回の事業計画策定では、手堅く見積もって、ロス率35%を採用します。そのため、500万円を売り上げるためには1日あたり49人のお客様に来店して頂くことが必要です。

1-5:競合店調査と業態検証

ここで、3C分析やファイブフォース分析で競合店に挙げた店舗を客として訪れ、観察・検証した際の情報を確認します。
競合とした店舗のお客様の年齢層はどの位の層で滞在時間は何時か位が多かったでしょうか?業態をもう少し煮詰めていきます。

事例)設定業態を顧客動向と営業時間の2つから検証する
 *前提:競合店の客層は30代以上の男性会社員が主流
平均滞在時間が2時間前後新規事業店舗での顧客行動を同様とすると、1日49人のお客様が2時間前後の滞在時間で2.5回転する必要があります。

2.5回転するためにはどのように店舗を回す必要があるか検証します。

仮説1)平均滞在時間2時間、ピーク時間は何時頃になるか
 通常会社の勤務終了時間は18時、定時で退社できることは難しく、デスクの片づけや移動時間を考えると、入店は早くて18:30、待ち合わせをする場合19:00が確実だと思われます。
1回転➡2回転目導入時間:21:00ピーク時間
    ➡19:00スタートで2時間滞在×2.5回転=最終退店時間:am1:00
*閉店作業を考えると終電に間に合わないスタッフが出てきそうです。
*無論、1時間程度で会計するお客様もいますが、ここでは想定しません。

仮説2)昼のランチ営業と夜の売上で月商500万円を達成可能か
*ランチ営業で必要タスク:ランチの仕込みと人件費   
 ランチ時間が11:30~14:00の場合、営業時間の前後1時間ほどに仕込みと片付けの人件費が発生します。そのため、売上が上がっても経費相殺すると、利益が低くなる可能性があります。
*会社員のランチ需要の多いエリアで想定家賃物件が借りられた場合のみ、 検討する価値があります。

仮説3)夜営業のみとして営業形態を変更する
通常、夜営業を18時に開始すると16時前後には仕込みを含めた開業準備を
始めます。メニューを工夫し、スタッフがいる仕込み時間に重なる時間帯にお客様に来店頂き、売上を上げることが出来ると、大きな人件費投入しなくても済みます。
ここで1人客の取り込みを検討します。一人で来店するお客様の来店動機は
どのような動機が考えられるでしょうか?
来店動機1:サクッと夕飯を食べたい
    ➡仕事終わりの帰宅前に、夕飯とアルコール1杯、といったお客様
     の取り込みを狙う
来店動機2:一人で軽く、安く飲んで帰りたい、サクッと飲みたい
    ➡立ち飲みで、仕事終わりにサクッと飲みたいお客様を取り込む

来店動機1の『サクッと夕飯を食べる』提供をしている競合店は、牛丼・そば・うどん・ハンバーガーなどのファストフード店、若しくは定食屋業態であり、魚介を中心にした大衆居酒屋では競合他社が少ない。

来店動機2の顧客動向については、すぐに思いつく業態は立ち飲み業態ですが、実名グルメサービスRettyで『立ち飲み屋に関するアンケート調査』が行われています。

このアンケート調査によると、
 Q:「立ち飲み屋」に行ったことがありますか?
  ➡よく行く:24%、行ったことがある:52% 合計:76%
 Q:どんな時に「立ち飲み屋」に行きますか
  ➡一人で気楽に飲みたい時:55%、
  (職場以外の)友人と飲みたい時38% 合計:93%
 Q:「立ち飲み屋」での滞在時間は1軒につきどのくらいですか?
  ➡1時間~2時間未満:47%、 30分~1時間:39% 合計:86%
アンケート調査から、一人で気軽に安く飲みたい潜在的需要は高そうです。

注)このようなアンケートを飲食系サービス会社が行っていますので、ネット等で調べてみると良いです。

上記3つの仮説検討から、業態を一部修正します。 

1-6:業態の微修正

修正業態:立ち飲みもできる海鮮大衆居酒屋
    想定条件:20坪、家賃50万円(管理費・共益費込)
  席数:25席(内カウンター5席)他;立ち飲み席あり
    上記を前提に売上予測と投下資金予測を策定します。

今回はここまで、次回は実際に事業計画書を策定、検証します。

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店舗開発のお仕事についてマガジンに纏めています。

店舗開発プロデューサーとして、PM/CMを兼任しながら、店舗事業構築・空きビル転換事業構築に伴う、出店戦略・事業計画書策定・コンストラクションマネジメント・運営設計など包括的なご支援をしています。

 

     



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