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目からビーム!87 ジェンダーとスポーツ宦官
『仮面ライダー』の敵組織ショッカーは、ナ●スの生体移植手術をもとにした人体改造術で改造人間を作り出すという設定だった。『宇宙戦艦ヤマト』のデスラー総統や『マジンガーZ』のブロッケン伯爵もそうだが、昔の子供番組の悪役はどこかナ●スの影を引きずったキャラクターが多かった。ナ●ス=わかりやすい悪のイメージなのだろう。
さて、僕が今もし『仮面ライダー』をリメイクするとしたら、ショッカーのルーツをナ●スではなく中国に置くだろうと思う。纏足、宦官はいうにおよばず、漢の高祖(劉邦)の后・呂雉が戚夫人の四肢を切断、目を抉り耳と喉を潰し、「人豚」と呼んで厠で飼ったという『史記』の逸話をみても、人体改造の本家本元は中華文明にあるように思えるからだ。そういえば、『史記』の作者・司馬遷もまた宮刑を受けた改造人間なのであった。
もう十数年も前になるが、中国のある女性重量挙げメダリストが引退後数年で、ヒゲが生えだし、声がしわがれ、喉仏が飛び出して、肉体が半男性化してまったという珍事を雑誌記事で読んだが、これは現役時代に強制的に打たれ続けた男性ホルモンの後遺症であるのは明らかだ。もっとも、メダリストには巨額の生涯年金が保証されているから、彼女は自分の「性」を犠牲にして孫子(まごこ)の代までの財を得たともいえるわけである。
ちなみに男性ホルモンのテストステロンは84年のLA五輪から禁止項目に入れられているが、生体内で作られるホルモンゆえ分泌量に個体差もあり、実質グレーゾーンのようだ。
その女子重量挙げだけれど、来る東京五輪の同種目にニュージーランド代表の元男性アスリートが出場するかもしれないということで物議を醸している。いくら性転換済みとはいえ、男性と女性ではもとの筋肉量や骨格が違う。明らかに「彼女」と争う、(生まれながらの)女性選手は競技上、不利を強いられることになるわけだ。
これがまかり通ってしまえば、中国のような国では、めぼしい男性競技者を強制的、あるいは志願の形を取って性転換し「女性選手」として競技に送り込みメダルの独占を狙うなどという発想も当然生まれ出てくるだろう。まさにスポーツ宦官である。
清代になると、栄達を求めて自ら宦官を志願する者も少なくなかったという。100年や200年であの国は変わりようもないのかもしれない。
初出・八重山日報
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(追記)「スポーツ宦官」というのはむろん、僕の造語で、そもそもは軽い皮肉を込めたジョークのつもりだった。しかし、ジョークともいえなくなってしまった感がある。このコラムが掲載された直後、中国で行われた陸上競技大会の400M女子リレー競技で優勝した湖南省チーム、4人のメンバー中、2人のランナーが「男」ではないかという疑惑が浮上し、ちょっとした騒ぎになった。
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▲勝利者インタビューを受ける廖孟雪。声やしゃべり方まで「男」だ。 さすが、中国4000年、なんでもありである。
近年では、LGBT論争も絡め、アスリートの性自認についての議論も活発なようだが、なんだかなあ。
ちなみに、タイトルを「ジェンダーとスポーツ宦官」としたが、今思うとこれは多少違和感がある。スポーツにおける性差とは、gender(後天的、社会的な性差)の問題ではなく、正しくは、sex(先天的、生物学的な性差の問題だと思うからだ。最近のLGBT論をみると、肉体の性よりも精神の性が優先するという考え方のようだが、そもそもそれが理解できない。むろん、精神の性が優先されるべき局面があったもいいが、スポーツという肉体が主役のジャンルでは、肉体の性が優先されてしかるべきであろう。
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スポーツと性の問題が提起されたのは、日本ではわりと古く、昭和29年(1954年)に遡る。この年、女子ヤリ投げのホープ・堤妙子が九州大学医学部で手術をし晴れて「男」となり、”清貴”という男性名を得た。
「彼」の場合、医学的には尿道下裂症状という奇形だった。「彼」を取り上げた助産婦が性器を見て「女の子です」と言ったために、女の子として育てられたが、自分自身は「女の子」であることに違和感があったという。
「年頃になっても月経はなく、合唱の時間も自分だけガラガラ声が恥ずかしく歌うふりだけしていた。一人になりたいばかりにスポーツに打ち込んだら、脚光を浴びてしまった。自分にとっては名声が一番つらいことだった」という。
むろん、「男」になった堤は陸上界からもひっそりと姿を消している。
「彼」の受けた手術は、いわば性器の形成手術で、厳密な意味での性転換手術ではないが、この一件で、世間的には「性転換」という言葉が認知されるようになった。
YAWARAちゃん「田村でも金、谷でも金」
性自認アスリート「男でも金、女でも金」
宦官や纏足についてはまたいずれの機会に。
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