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植物のパターン


<植物のパターン>

自然をゆっくり観察し、それをスケッチしたり、言葉で表現してみようとすると自分が全然観察できていないことを痛感する。私たちはたいてい眼ではなく脳で見てしまっているから、なんとなく見てしまう。

優れた生物学者はカメラが安くなり身近になったとしても、スケッチを辞めない。スケッチは観察において有効な手段だからだ。スケッチは細部まで注意深く観察しなくては書けるようにならない。また手書きでメモを取ることも共通している点だ。畑ノートを書いてみると、自分がどれだけ普段から見てるふりをして、観察していないかが分かるだろう。

植物の観察を続けているとある一定の特徴や固有のリズムが読み取れるようになる。シュタイナーは「植物は地球の衣」であり、「形とは静止した動きである」と表現した。植物の中にあるリズムやパターンを読み解くと地球や宇宙のリズムやパターンまで見て取れるようになる。

すべての生命に意味があるように、すべての形には意味がある。植物の葉の仕事は光合成と呼吸と蒸散だが、その形を操ることで風通しと葉陰と日当たりをコントロールし、自身の成長を促す。そして、空いたニッチに他の生命を育む。植物は何か困ったことが起きれば、自身の葉を変形させて調整する。ときには害虫を呼び寄せて、調整を手伝ってもらう。それは栽培者へのメッセージともなる。

大きな葉は実は効率的ではない。太陽光は同じ方向から降り注ぐわけではないから複数の葉を組み合わせているほうが効率的なのでトマトのように羽型の葉となる。

大きな葉は強い日光だと蒸散がたくさん必要となり水が必要なるためデメリットが大きくなる。そのため水が足りなくなると虫に食べさせたり、いびつな形の葉を作ったりする。逆に大きな葉は日陰のときに大きなメリットを生む。森林などの木漏れ日のような弱い光を逃さずに受け止めることができる。木々の隙間から降り注ぐ太陽光は必ず上からなので、大きな葉の方が効率的だ。大きな葉を作るためには水分も養分も必要なので本来は落ち葉が豊富なところで多年草で育つ場合が多い。

羽型の葉は切れ込みが激しい葉はその隙間に風を通すことで呼吸をスムーズに行わせ、乾燥を促す。酸素を多く取り入れることができるため、成長のスピードが早い。隙間が多いため他の植物が遅れて生えてくることがあり、最終的には競争に負けてしまうこともある。そのため早く成長し、早く子孫を残そうとする。

ロゼット型は茎を作るためのエネルギーの節約し、地面の熱を利用して葉温上昇し、寒い季節や地域でも光合成が盛んに行う。
葉を横に広げることで競争の相手の排除し、風で傷つけられにくく、草刈りや動物の食害も防ぐ。葉の隙間をなくして重ねることで凍結防止にもなる。そして、栄養を葉にも根にも溜め込むと一気に茎を伸ばし、大量の花と種子をつけてばら撒く。

植物は動きが少ないが、全くないわけではない。植物にとって動きはねじれそのものである。特につる性植物のヒゲは観察しがいがある。ヒゲの先端は支柱の感触を確かめながら巻くのに適したものを選り好みしている。数分もあれば巻きついてしまう。巻いた後にも回線運動を続けて、ねじれて螺旋状に巻いてしまう。固定されるだけではなく、バネのように伸び縮みすることができる。この弾力性が夏の台風でも引き離されることがない秘訣である。上の方と下の方のヒゲでは回転方向が違う。こうして簡単によじれるのを防いでいるのだ。

両端で固定された私たちの内臓の管もねじれて渦を巻く。口と肛門で固定された腸管は途中で左巻きと右巻きに捻転を起こす。また肝臓と鰓で固定された心臓の管も左右にねじれながら肥大していく。

腸管を裏返した草木も当然これと同じだ。大根を干してみると根がねじれながら下に伸びてことがよく分かる。また葉は上に向かって螺旋を描いて展開していく。植物を真上から観察してみると葉がねじれて展開しているのがよく分かる。雑草のネジレバナはその螺旋構造がそのままの姿となり美しい。そして、この行き着く極微の構造として生物が持つ染色体の二重螺旋が待ち受けている。

浄水システムを作るときに螺旋状に渦を描くように水を流していくと不思議と自然に浄化されていく。土星をめぐる渦巻きのリング、台風の渦の目、偏西風の蛇行、ネジリバナのねじり、太陽系惑星の公転など宇宙にはどうやら螺旋の動きがパターンとして機能しているようだ。

哲学者ヘラクレイトスは「万物流転」と語ったが、そのイメージは螺旋でありねじれであり、渦だったのではないだろうか。森羅万象はリズムとパターンを持つものである。

デザインという言葉のイメージには「かっこよさ」や「可愛らしさ」「斬新さ」などがつきまとう。しかし自然界のデザインは機能美であり、そのデザインを採用している生物にとってより楽に、より豊かに、より美しく生きるために備わっているようだ。パーマカルチャーデザインではその地球の完璧なデザインを模倣し、楽しむことである。自然農の職人たちは「神様のデザインを尊重する」と説く。ヒトがあれこれ考えるよりもそこにある美しいものに気がつけば、最適なデザインは容易にたどり着く。


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