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河川は龍である②


<河川は龍である②>~地下水位こそ本体~

河川を作り出す主な要因は「水と重力(万有引力)」である。
水は太陽光エネルギーによる蒸発を除けば、上から下に流れるのが常だ。
だから、本来河川というのは地上ではなく地下にある。
水は地下内に空気があれば、そこを埋めるかのように染み込んでいく。
そして、地下の中でも重力によって標高の高いところから低いところへと下っていく。
その地下内に染み込むことができなかった水が地上で作り出す流れこそが、私たちが普段目にしている河川であり、龍である。

山に行くと涸れ沢というのがある。
雨が降ったり雪が溶ける春になれば沢に水が流れるが、それ以外は水がなれていない沢のことだ。
しかし、実際は地下の水は流れ続けている。
だから、一度雨が降ると浸みこめない水が溢れて地上部の沢が復活することになる。
もし、地下にも水がなければ降った雨が染み込んでしまって、地上部に沢が復活することはない。

井戸水でも同じようなことが起こる。
雨が全然降らないと枯れて、降ると復活する。
それは井戸の深さが関係している。
だから、簡単に枯れないように井戸を掘るときは深くする。深ければ深いほど枯れにくい。
また大量の水が流れていると予測したところを掘る。
つまり井戸の水とは地下の河川を利用しているのだ。

また日本にもまだ残っている天然に湧き出している温泉も雨量によって増えたり減ったり、また薄まったり濃くなったりする。
温泉もまた地下の河川がマグマなどに触れることで、独特の成分を持った温かい泉となるのだ。

この私たちには見えない地下の河川こそ、本当の河川の姿である。
なぜなら、地上の河川は地下の河川の状況によって水量を増やしたり減らしたりするからだ。地下に染み込む量が増えれば、簡単に増水しない。

だから森林は貯水機能を持ち、水害を減らす役割を担うのである。
また、その量によって河幅を広げたり、縮めたりする。
それはときに地上は地形によって、地下は土質に応じて流れる位置を変えることもあるだろう。
(粘土質は流れがゆるかで、砂質は早い。空気がなければ水は流れない)

アマゾン川の地下には全長が約6000kmにもなる河川が流れているという。ブラジル国立天文台によるとその河川は地下200~400Mの深さで、幅は200~400kmもあるという。水流の速度は1年で10~1000Mしか進まないそうだ。発見者の名前をとってハンザ川と呼ばれている。

現代の科学でも地下の河川の状況を正確に把握することは難しい。
だから地上の河川の動きが読めない。そのため地上の河川周辺の土地利用は龍に命を奪われるリスクを常に孕んでいた。

しかし、現代のように三面をコンクリートで塞いでしまった河川は地下の河川の影響を受けない代わりに、人間の想定を超えてしまえばたちまち災害となる。
現代人が河川をコントロールし、土地利用の増大に成功したのにも関わらず、災害が減っていない理由はここにある。
現代人が地下と地上の河川のつながりを絶ってしまったがために、想定は意味をなさなくなってしまった。
なぜなら想定するために用いたデータはすべて地上と地下の河川が繋がっていた時代のデータだからだ。
コンクリートで地面を塞ぐということは地球の歴史46億年の中でも、このたった数十年の過去ではじめてのことなのだから、想定できるはずがない。

なぜ地下の河川の話を今回持ち出したのかというと、
毎年自然農をしていると地下の河川の水位の高低差が違うことを実感するからだ。
とくに全国を回ってみるとその年の雨の多さ少なさに限らず、地下水位の違いが畑によく出ていることがわかる。そしてそれは河川の源流域が高山地帯なのか、遠く離れているのかなどの違いもある。

山に降った雨は当たり前だが地下に染み込んでいく。それは森林地帯でも、まだコンクリートで塞がれていない小さな河川でも同様に。
そして、下流部の地域つまり都会に近づけば近づくほどコンクリートとアスファルトによって地面は塞がれていく。
こちらではどうやら雨が少ないエリアと多いエリアが極端に分かれているようだ。

今年訪れている畑や講座を受けている人の畑の様子を見ていると、どうやら各地域での地下の河川の水位の高さがあべこべなのだ。
湿気のことを心配しなくても良さそうなところが、湿気がちで病気がちになり、
湿気の心配をした方が良いところが、乾燥気味で水が必要となっているように。

去年水の流れが留まっていたところと今年留まっているところが同じとは限らない。
どこかで新しい井戸が掘られたり、逆に埋められたら水の流れは変わる。
どこかの山にトンネルを掘ったり、どこかの河川に砂防ダムが築かれたら、水の流れは変わる。
それは地上部でも地下部でも。

日本という国は微気候の多様性の宝庫と呼べるほど、地上の地形の特徴がさまざまである。
一つの国に特徴が違う7つの気候帯が存在している国はなかなかない。
それと同じくらい地下にも微気候が存在していて、現代人が思っているよりもはるかに複雑系のようだ。

それもそのはずだ。現代の科学では地下のことは宇宙のことと同じくらい分かっていないのだから。
レオナルド・ダヴィンチが地下を「地球最後のフロンティア」と呼んだのも頷ける。

大気も大地も全てが繋がっている。
それは空気という物質でも、水という物質でも。そこには流れがある。
私たちはそれをたいてい循環という言葉で解釈しているが、繋がっているということは循環だけではなく「結びつき」という側面がある。

あなたが今いる場所の地下の河川はそこから一番標高の高いところまで繋がっていて結びつき、影響を受け続けている。
あなたが今いる場所の地下の河川はそこから一番標高の低いところまで繋がっていて結びつき、影響を受け続けている。
しかも、日本列島は常に大地が動いていて、雨は世界平均の2倍近くある。

地下の河川もまた龍そのものだ。
誰もが見ることができるわけではないが、確実に存在している。
そこから恵みを受けることもあるし、災いを受けることもある。
常に動き、常に変化し続ける存在だ。
だからこそ、わたしたちはその龍に関わろうとするとき覚悟を持つ必要があるし、関わり続ける必要がある。
だから現代の大型工事でも、家に井戸を掘るときや埋めるときでも、必ず神様に祈りを捧げるのだ。

しかし自身の今までの経験と、江戸時代の農書の記述、そしてパーマカルチャーの学びからたどり着く言葉は
「小さな変化による解決」が一番だということだ。
自然との対話において日々の観察とフィードバックループの大切さもここに繋がってくる。

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