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間を大切にする自然農 緑肥


<間を大切にする自然農 緑肥>
「土を裸にしない」これは自然農を実践する上で重要な教えのひとつである。多くの人はこの教えの通りに、畝の上を草マルチやワラマルチで覆っていることだろう。
しかし実は、畝の上と同じように重要なのは通路の土を裸にしないことだ。それはなぜか。答えはシンプル。なぜなら野菜にとって畝の上も通路も同じ大地だから。そこに本来、境目はない。

実際に野菜の根は通路の方まで伸びてくる。もし根が伸びた先の通路が固く締まっていたら、空気もなく水はけが悪いせいでそこで病気になる。野菜の病気の約8割はカビ菌だ。常に通路の排水が詰まっていれば、晴れた日の畝まで水はけが悪くなり病気になってしまう。梅雨や台風によって病気や虫食いが発生してまう理由が実は通路にあることも多い。自然農にチャレンジしている方でなかなかうまくいかない人に共通しているのが、この通路に気を配っていないことだ。

そこでオススメなのがこの通路に緑肥を播くことである。特にまだ自然農歴が短い畑や固く締まっている畑には根をしっかり張るライムギやソルゴーが良い。条件が良ければ2m以上も地下深くまで耕してくれる。耕盤層がなければエンバクでも十分だ。また、前年や秋冬野菜にネコブセンチュウの被害があった場合はエンバクが忌避効果を発揮してくれる。

畝の上と違って通路はよく人が通る。そのために土が固く締まってしまいやすい。しかし、イネ科植物は踏まれることに強く、踏まれるたびに地上部は分蘖し、地下部の根は新しい根を増やし勝手にどんどん耕してくれる。こうして植物の力を利用して耕すことを自然耕という。
通路が常に耕され水はけが良くなるおかげで、乾燥が好きなトマトやうどん粉病が発生しやすいウリ科野菜なども弱ることなく長生きしてくれる。これからはじまる梅雨時の病気対策でもある。

緑肥を通路に播くことで期待できる効果は他にもある。バンカープランツとして害虫を引きつけて、多くの益虫を呼び寄せてくれることだ。これによって、私たちがいちいち見回りをしなくても益虫たちが通路と畝を行き来してパトロールをしてくれる。こうして自然農の技は虫を敵としないだけではなく、仲間として招き入れることもする。

緑肥は大きくしすぎると風通しが悪くなってしまうので高さ10~20cm程度に抑えるように草刈り機などで管理をしよう。刈り取った草は畝の上にマルチとして利用しても良いし、通路にそのまま置いておくのでも構わない。通路に枯れ草を敷いておくことでここにも益虫が住み着き、分解が進めば追肥効果が増す。地下部では新しい根が増えるたびに古い根は枯れて土中生物の餌となる。

こうして茎葉も根も、虫や微生物たちの力によって団粒構造の良い土になる。わざわざ人間が作る必要はない。自然界では土を耕し、肥沃にする第1手は植物の根である。だから、人間が踏めば踏むほど土は良くなる。農業界の格言「作物にとって最良の肥やしは農夫の足音」にはこういった仕組みも隠れている。

通路も豊かな土になれば追肥効果が生まれて秋の終わりまで夏野菜が収穫できる。特にウリ科野菜は長生きする。短命作物であるキュウリや熱帯野菜であるゴーヤなども11月頭まで十分に収穫が可能だ。ナスやピーマンなどのナス野菜も追肥いらずで夏の終わりから一気に回復して実を結んでくれる。実際、慣行栽培農家では化成肥料を、有機栽培農家では有機堆肥を通路に播いていく。それを自然農ではイネ科植物の才能を利用するわけだ。

土を豊かにする緑肥といえば窒素固定菌と共生するマメ科植物も良いのだが、あまり踏まれることに強くないのが弱点だ。シロツメクサなどは耐えられるのだが、湿りがちになりやすいので通路にはあまりオススメしない。これからの季節でオススメなのが畝の上にコンパニオンプランツとして枝豆やインゲン豆などを植えることである。特に青いうちに収穫するような野菜が良い。隙間があればマメを植えておこう。つまり農業界でいう間作である。

最初に話したように人間だけが畝と通路を分けて考えてしまう。植物にとっても昆虫にとっても微生物にとっても、そこにはっきりとした境目はなく全てが繋がっている。もちろん、空気や水だって同じことだ。
日本の文化は『間(ま)』を大切にする文化だという。農業界ではこの通路のことを「畝間」と呼ぶ。また、一般的な緑肥の使い方は輪作であり、メインとなる野菜の「合間」を繋ぐ役割として栽培する。そして、メインと野菜の隙間に植えることを「間作」という。間は余計なものでもなければ、要らないものでもない。

この間に生物多様性を生み出すことが自然農を成功させる秘訣である。自然農では野菜を作るのは人間ではなく土であり、畑である。つまり、野菜を作るのではなく畑を作る。野菜にとってイキイキと成長する場を整えるのが野良仕事なのだ。緑肥は即効性をあまり感じられないのが残念なのだが、あとからじわじわとその効果を発揮してくれる。その効果は少しずつ積み重なっていき、少しずつ生物が回復し、少しずつ野菜の収量が増えてくる。ゆっくり小さな解決が一番持続可能な方法である。

自然農法家もパーマカルチャーデザイナーも自然のコンダクター(指揮者)。自身は音を奏でることなく美しい音楽に導いていくように、自分以外の生命の才能を引き出し、輝く環境を指揮する。畝の上だけではなく、通路にも生物多様性を生み出していく。

 畝立てが間に合わなかったスペースや天地返しする余裕がなかった畝には緑肥を撒いておこう。緑肥は草生栽培とも呼ばれ、昭和初期のまだ肥料の値段が高かった頃に一般的だったテクニックである。主にイネ科の植物(燕麦、ライ麦、ソルゴーなど)が土を耕し、マメ科の植物(クリムゾンスローバー、れんげなど)が土に重要な養分である窒素を補充してくれる。植物の力を利用して耕すこの方法を自然耕と呼ぶ。春先に蒔いておけば秋野菜の際には天地返しする必要はない。奇跡のリンゴの木村秋則さんはこれを応用した。


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