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話題の著・有吉佐和子の『非色』読んでから『SEX AND THE CITY』の続編見ると、脳がバグる

 『SEX AND THE CITY』の続編である『AND JUST LIKE THAT』を視聴している。
 
かつて恋愛やセックスを各々のスタイルで楽しんでいた主要メンバーが年をとり、社会の変化にオロオロしている描写が印象的。黒人の友人が少ないために体面を気にかけたり、白人エリートの立場からのド正論を吐いて人を不快にさせたりといった場面が目立つ。
 
政治的に正しいほうに、フェアなほうに、性別や肌の色による差別のないほうに、世界は傾いている。人種間で感染症によって受けたダメージに大きな差が生じた事実があろうと、顕著な経済格差があろうと「差別をしてはいけない」という建前の重要性はより強固になっている。
 
このような「建前」ができあがる以前の、本音むき出しのストーリーが、河出書房新社から復刊した有吉佐和子の『非色』だ。

舞台は、第二次世界大戦後の日本とアメリカ。
 
主人公の女性は、敗戦後の日本で黒人の兵士と恋愛結婚をして、子どもを授かる。しかし、子どもへの差別の眼差しを憂いて、ニューヨークに移住することを決意する。戦勝国の兵士として日本で豊かな生活を送っていた夫と異国でのびのびと暮らすことを夢見て。
 
渡米後、黒人の夫はスラム街の暗く小さい部屋に住んでいることを知る。アメリカ国内での夫の社会階級を目の当りにして、主人公ががく然とするところからニューヨークの生活がスタートするのだ。
 
『非色』はフィクションではあるものの、設定、登場人物、セリフがこのうえなく巧みで、複雑な差別構造の中で「見下す側」「見下される側」の2つの立場を追体験できる精巧な装置が配備されている。
 
上を見ればきりがないから、見下せる対象を探し、日常の不満との折り合いをつけたい、というヒトの根源的ともいえる欲求が、行間から蒸気のようにたちのぼってくる。
 
「差別をしない」という「建前」は、胸の底でうずまく差別感情を抑えるマンホールのふたのようなものだ。しばしば社会を揺るがすショッキングな事件によって、地下の圧力が高まり、連鎖的にポーンポーンとふたが飛んでいたるところから蒸気が吹きだすこともある。
 
誰もが差別するし、簡単に差別感情は広がるという認識を共有してこそ「建前」が意義あるものとなる。
 
海外旅行はまだまだ難しい今、『非色』のニューヨークと『SEX AND THE CITY』とニューヨークを通じて空間と時間の旅行をしてみるのもいいのかもしれない。

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