【SPARKLE スイーツ法務の事件簿】堅すぎると「欠陥」?-歌舞伎揚事件
こんにちは。スパーくまです!本連載は、スイーツに関する古今東西の興味深い事件を取り上げるコラムです。
今回は、平成末から令和にかけて起きた「歌舞伎揚」についての事件(東京地裁令和元年8月30日平成29年(ワ)第30799号)を紹介します。歌舞伎揚を購入した原告(X)が、歌舞伎揚を食べたことによって前歯が欠けたと主張し、天乃屋(Y)に対し、製造物責任法3条に基づき損害賠償などを求めた事案です。
結論としては、Xが歌舞伎揚を食べた際に前歯が欠けたことをもって、直ちに歌舞伎揚が通常人であればこれを食することにより歯が欠けるほど堅いものであったとは認められないこと等を理由に、歌舞伎揚が製造物責任法2条2項、3条所定の「欠陥」を有しているとはいえないとして、裁判所はXの主張を認めませんでした。
1.今回のスイーツ
歌舞伎揚は、株式会社天乃屋が発売しているお煎餅です。
厚めでカリッとした食感と甘めの醤油による香ばしい味付けが特徴で、昔から半世紀以上、人気のある商品となっております。
歌舞伎揚の包装紙は、「黒・萌葱[もえぎ※濃緑色]・柿」という歌舞伎の定式幕の模様となっています。実は、歌舞伎では「座」によって定式幕の色と順序が異なります。中村座は「黒・白・柿」ですし、森田座は「黒・柿・萌葱」でした。歌舞伎揚の包装紙の模様は、歌舞伎座の色と順序となっています。
さらに、歌舞伎揚のおせんべいの一枚一枚をよく見ると、歌舞伎の家紋をデザインしたものが刻印されています(1枚目写真参照)。
2.事件の背景・経緯
Yの歌舞伎揚を購入したXが、購入した歌舞伎揚に堅い部分が存在し、これが欠陥に当たるところ、Xがこれを食べたことにより同人の前歯が欠けたと主張して、Yに対し、製造物責任法3条に基づき、損害賠償請求をした事案です。
裁判では、①本件製造物における欠陥の有無、②因果関係の有無、③損害額が争われました。
3.法的論点・判示
①の「欠陥」の有無の判断基準について裁判所は以下のように示しています。
そして、Yの社内調査、第三者である一般財団法人日本食品分析センターによる試験結果、Yが行った他社製品との比較試験結果などを考慮し、以下のように述べています。
さらに、Xが歯の欠損を確認した歯科口腔外科クリニックにおける診断結果も考慮しています。
そして、裁判所は、結論として、以下のように示し、Xの請求を棄却しました。
4.さいごに
例えば、井村屋のあずきバーは、冷凍庫から出してすぐには食べられないほど堅いことで有名です。そのため、井村屋のあずきバーの商品の裏面には、「固く凍っているため、歯を傷めないようにご注意ください」と注意表示が書かれています。
消費者庁は、「(製造物責任法には)注意表示に関する規定もありませんが、注意表示の欠如が欠陥に当たると判断される場合もあります……。」としています。注意表示を記載すべきか、どのような内容にすべきか等、気になる点がある場合には、法律事務所に相談することを検討してみてください。
歌舞伎揚は、1枚食べると、クセになる美味しさで、仕事中に何枚でも食べたくなりますよね。今回は、歌舞伎揚についての豆知識と事件を紹介しました。本記事をきっかけに、歌舞伎揚を食べながら、歌舞伎の奥深い歴史について調べてみるのはいかがでしょうか。